エリクソンの小部屋

エリクソンの著作の私訳を載せたいと思います。また、心理学やカウンセリングをベースに、社会や世相なども話題にします。

正義に「人間を上下2つに分けるウソ」がくっついてないか?

2013-09-19 02:57:17 | エリクソンの発達臨床心理
人類の歴史上で、最も前途有望な「アメリカ人の夢」でさえ、「人類を上下2つに分けるウソ」から自由ではなかった、というのは、「人類を上下2つに分けるウソ」が、一人一人の無意識に、いかに深く食い込んでいるかを、物語っているものと思われます。





このように、どんな政治体制でも、行き詰まることがあるものです。集団が夢見る夢の儀式的な側面が最も耳障りなものになるのは、まさに、正義と偏見が束になって、ある種の人間たちを押さえつけ、閉じ込めるのを合理化する時なのです。それがたとえ、彼らに無為な生活を強いることになっても、彼らを、奴隷部屋やインディアン特別保留地やゲットーに追いやることになっても、なのです。アメリカの市民宗教は、もちろん、リンカーンの2回目の大統領就任演説に、最高の自己評価の瞬間を見付け出しました。

市民戦争(南北戦争)によって、死、犠牲、再生、という新たなテーマが、市民宗教に加わりました。それは、リンカーンの死と再生において象徴されます。市民宗教がキッパリと始まったのは、ゲティスバーグ演説をおいて、他にありません。この演説自体が、市民宗教の聖書の中で、リンカーンの「新約聖書」の一部を為しているのです。ロバート・ローウェルが最近指摘しているところによれば、この演説で「誕生のイメージが繰り返し使われている」のは、「市民戦争での栄えある死」に貢献している、ということは、明らかです。「生まれた」、「妊娠した」、「生み出された」、「自由の新たな誕生」などなど。

このように、再生を繰り返す、というテーマが、市民戦争という国家的悪夢から、“生み出されました”。






エリクソンは、じつに冷静です。晴れてアメリカ人となった1人であるエリクソンは、「アメリカ人の夢」の価値をよくよく承知の上で、その影も鮮やかに、ハッキリと、認識していますよね。市民戦争(南北戦争)の戦死者の数は、80万人以上だったことは、アメリカの戦争史上、最悪だったはずです。ですから、エリクソンが「『再生を繰り返す』というテーマが、市民戦争という国家的悪夢から“生み出された”」という時、非常にシニカルな響きがありますよね。
私どもが注意しなくてはならないのは、いつも何度でも、正義に、「人間を上下2つに分けるウソ」がくっついてないか、ということです。
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