「福島モデルにみる日本の電力安定供給のあり方」秋田 修平
我々が普段利用している電気であるが、この電気(電力)の安定供給を支えているのはどのような技術なのであろうか。電気を作る技術と聞くと、多くの方が「発電所」という施設をイメージするのではないかと思う。
それでは、現在の日本で最も多くの電力を供給しているのはどのような発電方式なのであろうか。総務省「エネルギー白書2021」*1によると2019年度の日本における一次エネルギー供給は37.1%が石油、25.3%が石炭、22.4%が天然ガスによって賄われている。このデータを参照するに、日本の電力供給には火力発電の技術がとても重要であるということがいえるであろう。特に、石炭は存在している地域が比較的分散されており、エネルギーの安定供給という面でも日本に必要なエネルギー源であるように思われる。
では、さらに日本の火力発電で使われている化石燃料の運搬方法に着目してみるとどうであろうか。現在、日本の火力発電で使われている化石燃料のほとんどが海外からの輸入によって賄われている。つまり、海外から日本へと電気の源を運んできているのである。そして、この化石燃料の輸入に関してとても重要な役割を果たしている施設の一つが、福島の小名浜港である。福島というと原発のイメージが強いかもしれないが、広野や相馬、勿来といった沿岸地域には多くの火力発電所が点在しており、小名浜港はこれらの発電所に原料を届けるために大きな役割を果たしている。また、小名浜港は国際バルク戦略港湾として国に指定されており、近年でも国土交通省が大水深岸壁の工事に取り組むなど、日本としてもその整備に力を入れてきた経緯がある。さらに、これらの発電所で作られた電力は首都圏へと送り届けられており、福島の発電施設は首都圏の電力需要を賄う上で重要な役割を担っている。この電力の多くが小名浜港に輸入された化石燃料をエネルギー源とする電力であることを考えると、その重要性が実感できるのではなかろうか。
ここまでで、日本の電力供給の現状を分析することにより、火力発電の必要性とそれを支える小名浜港(港湾の土木工事)の重要性については確認することができたように思う。ここからは、この現状と現在の日本の政策について考えていきたい。現在の日本は、2020年10月に菅首相が2050年での炭素排出実質ゼロを目指すという目標を掲げるなど、脱炭素への道を歩んでいるといえる。では、この「脱」炭素は日本にとって本当に歩むべき道なのであろうか。ここまで述べてきた日本の現状を鑑みるに、脱炭素にはより慎重な議論が必要なように思われる。日本はこれまで、化学工学的な化石燃料の活用技術はもちろんのこと、化石燃料の輸入・運搬を効率的に行うための土木的なインフラ整備にも注力して自国の安定的な電力供給を維持してきた歴史がある。このように、資源の少ない中で様々な分野の技術を磨くことにより電力供給の安定性を確保してきたのが日本という国なのである。以上のことを考慮すると、この日本において我々が目指すべきは、これまでの技術にさらに磨きをかけることで「持続可能な火力発電」を実現していくことであるように思われる。なお、ここでいう持続可能な火力発電とは、需要に見合った発電量をより少ない燃料から確保できるように技術を磨いた上に達成される、世界的な情勢に大きく左右されない安定した電力供給を可能とする発電システムを指すものである。脱炭素の名の下に、安定的な電力を脅かしてまで火力発電の規模を縮小していくよりも、これまでの先人たちによって磨かれてきた世界トップクラスの技術を継承・向上させ「持続可能な火力発電」を目指すことこそが日本が投資をして取り組むべきことであるように思われる。なお、ここでひとつ述べておきたいが、この主張は再生可能エネルギーなどへの投資・研究を否定するものでは全くない。もちろん、太陽光発電や地熱発電などの再生可能エネルギー分野の開発・研究も必要であり、補助的なエネルギーとして再生可能エネルギーの技術を磨いていくことはとても重要である。一つの発電方法に頼るのではなく、複数のバックアップ的な方法を確立させておくという観点からも再生可能エネルギーの開発・研究は大切なことであるといえよう。しかしながら、供給の安定性を考慮すると、再生可能エネルギーにはまだ課題があるように思われる。先人たちの努力の結晶である技術を捨ててまで、脱炭素化を推し進めるだけの安定性を確立できていないのが現状であり、この現状はしっかりと受け止めた上で日本という国の方針を定めることが重視であると考えるのである。
以上のように、日本を取り巻く電力供給の現状を分析することで、化学工学や土木といった様々な分野の技術の必要性や重視性を認識することに加えて、脱炭素化という現代社会の大きな話題に対しての新しい見方ができたように思われる。このように、まず現状を捉え、次にその現状に見合った策を考えるという2つの段階を経ることで、様々な問題に対して実現可能かつ効果的な解決方法を見出すことができるのではなかろうか。
参考文献 *1 総務省「エネルギー白書 2021 国内エネルギー動向」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/whitepaper/2021/html/2-1-1.html