細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

学生による論文(76) 『宮本武之輔から学ぶ、「リーダーシップとは」』 渡 由貴(2022年度の「土木史と文明」の講義より)

2022-11-25 06:01:32 | 教育のこと

『宮本武之輔から学ぶ、「リーダーシップとは」』  渡 由貴

 今回の講義では、越後平野を洪水から守り、民衆のために尽くした宮本武之輔の姿に胸を打たれた。あの短い動画からでも十分伝わってくるくらい、皆がついていきたいと思えるような優れたリーダーだと感じた。そして、彼のもつようなリーダーシップこそ今の日本に必要なものである。よって、彼のリーダーシップから学べることについて、私の考えも交えながら考察してみたい。

 宮本が携わった大きなプロジェクトが、信濃川大河津分水路可動堰建設工事である。昭和2年、大河津分水路の自在堰が、暴れ川とも呼ばれる信濃川の激流により陥没した。その復旧工事の現場の技師を宮本武之輔が務めることとなった。彼は可動堰の全てを設計し、軟弱地盤・寒い新潟の冬・人々の生活を守るため一日でも早く完成させなければならない、という困難な条件の中、現場の隊員の士気を鼓舞し、時には自らがこの工事の歌を作り皆で歌うなど、メンバーに工事へ携わるやる気を維持させた。工事がもう少しで終了というところで、上流側で集中豪雨が発生し、堤防決壊の危険が迫り、宮本は今ある工事現場を洪水から守っていた仮締切を切り信濃川を分水し、洪水発生を防ぎ人々の命を守るか、またはここまで懸命に作ってきた工事現場を守るか、という苦渋の選択をしなければならない状況になった。ここで、宮本は全責任を取る覚悟で、前者を選び、人々を洪水から守ることを決意した。そして、工事現場に激流が入り込み、可動堰の一部が破壊されたが、その後も宮本の指揮のもとで工事は順調に進み、三年という短い工期で可動域が完成した。可動堰の完成が、越後平野を現在まで続く米作り地帯へと変貌させ、民衆の生活を豊かなものにした。

 これら宮本武之輔のエピソードから学べるリーダーシップを取る上で大切なことは、四つある。一つ目は、メンバーの士気を高め、団結力を高めることだ。メンバー一人ひとりが自らの最大限の力を発揮するためには、そのプロジェクトに対するアクティブな気持ち、やる気をそれぞれがもつことが必要となる。そのために、プロジェクトの雰囲気づくりは大事で、それを行えるはリーダーであると思っている。宮本の、歌を作って皆で歌ったというエピソードは、それを代表する素晴らしい方法であると思った。大きなプロジェクトになると、どうしても個人が感じる責任感が薄れてしまい、携わりたいという思いが無くなってしまう。だから、何か自分もそのプロジェクトに携わっているという感覚を高められる工夫を行うことは効果的である。二つ目は、ビジョンを持つことだ。プロジェクトは基本的に一つの目的に対して行うものであり、宮本のプロジェクトの目的は「可動堰を作ることで信濃川の洪水発生を防ぎ、人々の生活を守る」ということだと言える。この事例では、もともと達成しなければならない目的があった上でプロジェクトを始動したから、メンバー全員が目的を意識して携わることができていたが、例えばもっと小さなグループでプロジェクトに取り組むことになったとき、目的をはっきり設定していないと活動が「なあなあ」になってしまうことがある。目的が楽しむことであるのならば問題はないが、そうでないならば、リーダーを中心として明確な目的を設定し、それをグループで共有することが大事である。目的の意識を常に持たせることで、プロジェクトへのモチベーションも向上させることができ、先ほど述べた一つ目の点につながる。三つめは、潔く決断を取ることだ。リーダーはどうしても決断に伴う責任を取らなければならない立場である。そして、良い判断を下すことが求められるが、それが必ずしも正しいかどうかはやってみないと分からないこともある。それが目的を達成させるための選択であるのならば、失敗したとしても他のメンバーも付いてきてくれるだろう。四つ目は、自分の利益のためでなく、人のため、という謙虚さ、人としての正しさをもつことだ。彼は、小さい頃、父親が事業に失敗し、家族が離散、さらにお金がないため中学校に行けず家計のために働く、という苦労のある生い立ちであった。その後、周囲からの援助を受け、中学校に通い、首席で高校や大学を卒業し、生涯は人のためになることをするために土木の道を選んだ。そのような逆境を経て培われた謙虚な姿勢が、周りの人から信頼され、プロジェクトで周りの人を巻き込み大掛かりな工事を成功させることに繋がったと考えられる。「人のために」という素晴らしい人格がある人にこそ、誰もがついていきたいと思うだろう。

 明確なビジョンをもって周りを巻き込み、高いモチベーションを維持させて一人一人の能力を最大限に発揮させる。そして、正しい方向へと導く。これこそまさにプロジェクトに必要なリーダーのあるべき姿で、私はこういう人についていきたいと思うし、自分がリーダーになるときにはこのような姿を目指したいと思う。しかし、今の日本には、宮本をはじめとする優れたリーダーがいないように感じる。今後はこのようなリーダーの存在こそが、各方面でプロジェクトを引っ張り、そして日本の社会を良い方向へ引っ張っていく上で必要なのだ。


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