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細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

学生による論文(20) 「橋の美しさに関する一考察」 伊藤 紀奈(2022年度の「土木史と文明」の講義より)

2022-11-03 19:15:15 | 教育のこと

「橋の美しさに関する一考察」 都市科学部都市社会共生学科2年 伊藤 紀奈

 今日の講義では、様々な橋の写真を見た。私は、家の近所の小さな川に架かる橋を思い浮かべて、橋なんてどれも似たようなものじゃないかと考えていた。しかし、教室のプロジェクターに映し出された橋たちは、まさに十人十色であった。

 そして、橋って美しいんだなあ、と思った。

 もちろん、今までにも、橋を綺麗だと感じたことはある。修学旅行で見た嵐山の渡月橋や、横浜ベイブリッジの夜景。でもそれは、「美しいことで有名な橋だから」とか、「観光スポットだから」とか、「テレビやSNSで見た画像と同じものを肉眼で見ることができて嬉しい」というような感情を孕んだ感想であったと思う。いわば、表面的・形式的に「美しい」と感じたに過ぎなかった。

 しかし、今日の「橋って美しい」という感覚は、今までのそれとは異なっているように感じた。そこで今回は、橋に美しさを感じた要素や理由について整理してみたい。

 まず、橋そのもの形や構造が挙げられる。冒頭にも述べた通り、橋の形はひとつひとつ異なり、個性があった。共通しているのは、最も丈夫かつその場所に適した形状を模索した結果、無駄を削ぎ落したデザインに辿り着いたという部分ではないだろうか。頑丈な橋になるように考え抜かれた末のデザインは、シンプルで洗練された印象を与える。実際に、円弧を描くアーチ橋や三角形が連結しているトラス構造などは、幾何学的で美しい。加えて、ほとんどの橋は対称的な作りになっている。無駄を省いたデザインは、橋の美しさの一要因であると思う。また、巨大な橋はその大きさだけで人々を圧倒する力を持つ。

 次に、橋そのものの美だけではなく、風景の中に橋があることによってもたらされる美もあると考える。橋を見る時には、おのずとその周囲の景観を含めた画面として見る。その場所が川であれ、海であれ、山脈であれ、街並みであれ、橋がある風景とは少し特別であるように感じるのだ。自然の中に橋がある様子には、自然と人工物の対比という面白さがある。たとえ建築物が立ち並ぶ町中であっても、橋のような「空中通路」的な建築物は少ない。このように、橋は風景にアクセントを添える存在であると言えるだろう。

 そして、「橋を架ける」という行為にも美しさがあると感じた。ここで「美しい」という形容詞を使うのが正しいかはわからないが、とにかく、尊く気高い行為であると思ったのである。日本語の「ハシ」に関する話で、「端」と「端」を結ぶものも「橋」と呼ぶと知り、橋とは間をつなぐ存在なのだということを再認識した。例えば、川に橋を架ける時、対岸に住む人々が互いに「向こう岸とつながりたい」と思わなければ、工事は実現されないはずである(少なくとも、遥か昔はそうだったのではないだろうか)。これは何も、川に限った話ではなく、歩道橋や水道橋なども含めた全ての橋に当てはまると思う。橋とは、分断を乗り越えるための道具であると言えるのではないか。「橋を架ける」ことは、地形的あるいは人工的な分断を越えてつながろうとした人々の営みによる行為で、橋は平和のための道具であると感じた。

 最後に、「橋を渡る」という行為についても触れたい。分断を乗り越えるために「橋を架ける」のなら、「橋を渡る」のはまさに、分断を乗り越えていく過程である。「橋を渡って」移動することも、「橋を架ける」ことと同じく、両岸の合意がなければ成り立たない。ごく当たり前のことだが、橋は架けるだけでは意味をなさず、渡って初めてその役割を果たす。橋を平和のための道具とするなら、「渡る」という行為は平和を実践していくプロセスであり、「架ける」という行為と等しく重要であると感じた。余談になるが、私は橋を渡るのが好きである。普通の道よりもテンションが上がる。川や海峡に架けられた橋では、「水上の空中を移動している」と捉えると、一気に非日常感が出て楽しくなる。空中通路である橋は、風景の中でアクセントとなるだけでなく、日常生活に僅かな娯楽性を加えるという点においても、人々を楽しませるインフラであるのかもしれないと考えた。

 ここまで、橋の美しさに関して、複数の視点から整理してきた。橋の見た目だけではなく、橋にまつわる行為まで包括して考えたことで、考察を一歩前に進めることができた気がする。橋そのものの形や構造が美しいことや、景観とのマリアージュが美しいことはもちろん、「橋を架ける」ことや「橋を渡る」ことという行為も含めて、橋は美しいのである。


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