細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

学生による論文➈ 「現代日本で土木偉人は育成できないのか?」(2021年度の「土木史と文明」の講義より)

2021-11-26 09:13:07 | 教育のこと

「現代日本で土木偉人は育成できないのか?」

 授業中、多くの土木偉人が紹介された。偉人たちの功績にすごいと感心する一方で、「自分に彼らのようなことができるのか」と焦りを感じた。友人と授業後話したが、「偉人と比べてしまうと、私たちは日々エネルギーを浪費しているだけの生活」である。恥ずかしいことに人々のためにと必死に勉強するわけでもなく、3年後に国家プロジェクトに参加している姿も想像できない。

 なぜ、青山士や廣井勇など、優秀で日本に貢献する技術者が誕生していたのだろうか。彼らの時代から100年強しか経過していない、今私たちが生きる時代との違いは何だろうか。おそらく多角的な見方が必要なトピックで、かつ私は各分野の専門家ではないが、未熟者だからこそ肌で感じる「優秀な若い芽を伸ばすために必要なこと」を述べたいと思う。

 私は、人が育ち、何かを成すためには意識、目標、場が必要だと考えている。場に関しては、日本は教育制度もあり、働く場所もあるため、ある程度満たしていると考えて、他二つについて、今の日本が変化すべき点について以下で述べていく。

 まず、意識については、「自ら解決する意識」を教育機関で養うようにするべきだろう。

 物事は、動こうという人の意識がないと進まないため、火付け役として意識が大事だと考えている。

 今の日本は、昔の偉人たちのおかげで、様々な土地に住めるようになり、多くの人は普通の生活を送れていて、何も考えなくても生きていけるようになっている。そのため、日本は充足していると勘違いしそうになるが、実際は自然災害やエネルギー、地方過疎、低い自給率などいろいろな問題を未だ抱えている。そういう意味では"We are still developing"なのである。(有馬優さんのTwitterより引用)

 それでも土木偉人のような意識が持てないのは、問題意識がないからだろうか。いや、問題意識はあるだろう。自給率の話は小学校で習い、自然災害の話は都市基盤の先生から何度も教わるなど、教育機関で問題を伝える活動はされている。問題なのは、自分たちでその問題を何とかしよう、という意識がないことと、そのような意識が作られる仕組みがないことだ。小中高と、周りに合わせて生きることが求められていて、それに反し問題を見つけ周りと違う行動をしようとすると、校則やテストの点数などに縛られた。このような状況下では、問題を発見し解決する能力が身につかない。若く柔らかい頭のうちに問題解決の経験を積むことで、専門分野でも問題は自分が解決できるという意識が生まれると考えているため、この経験を積める教育プログラムに刷新してもらいたい。

 ここで、問題に取り組む意識養成が、昔行われていたかは不明であることを断っておく。不明ではあるが、偉人のような勇敢さを持つ人を増やすためには、このような教育が必要だと考える。

 次に、目標については、素晴らしいインフラに関しては、関係技術者の存在をもっと推していくべきだと考える。

 目標というのは、「自分もこんな人になりたい」と思えるような、憧れ、尊敬する人のことを指す。この目標があることで、その人の存在がエネルギーとなり、頑張る気持ちが湧いて来るため、重要な要素である。例えば、四回転ループを世界で初めて成功させたレジェンド、フィギュアスケートの羽生結弦選手もロシアのプルシェンコ選手に憧れていた。インタビューに、プルシェンコ選手に憧れて五輪を目指したと語っていることから、プルシェンコ選手への思いを胸に練習し、あの素晴らしい演技を生み出していったのだろう。これは土木界にも当然当てはまるだろう。

 しかし、現在生きている素晴らしい土木技術者には会うことができても、土木偉人には会えない。歴史の授業で淡々と信長のすごさを教えられてもピンとこない(私見)と同じように、リアルで生き様を見ることができないと、目標としづらい。そこで、アニメーションや、漫画などで実際に偉人が動いているように見せることを提案する。また、このような偉人たちの伝え方を、学校教育で行うことも大切であろう。さらに、ロイヤル・アルバート橋のように、否応なしに技術者の名前が目に入ってくる工夫もぜひ取り入れてほしい。現代の日本でも資料館などで情報発信はしているが、設計・施行者の存在をもっとアピールすべきだと思う。

 また、現代を生きる将来の偉人候補にもっと教育の場に出てきてほしいと考えている。廣井勇などは偉人自ら教鞭をとった例だが、そのような技術者が先生という身近な立場にいることで、自分も何か成し遂げたい、という気持ちになるだろう。近年そのような技術者が個人的には少ないと感じるので、ぜひ前に出てきて、自分のすごいところと、若者へのメッセージを発信してもらいたい。

 目標という点については、この土木史の授業で達成しているのだろう。このような授業がどの大学の土木専攻でも、もっと言えばどの工学分野でも行われてほしい。

 これまで改善すべき点を述べてきたが、日本には当然今も持ち合わせている良い点もある。多くの学生が勉学に励むことができる環境が整っていること、また、櫛の歯作戦に代表されるような、いざ問題が目の前に降りかかった時に立ち向かえるような使命感が残っていることだ。

 このように、現代日本にも土木偉人が生まれる基盤はあるのだから、ちょっとした制度を変革することで、改善していってもらいたい。ただし、入試改革に例を見るように、小さい変革でも、国単位の変革は大変躊躇するのが日本である。

 しかし、若い芽を育てるには、変革が必要である。変革を恐れない日本になって、世界に誇れる土木技術者を生み出してほしい。

 また、自分もそんな技術者に近づけるよう、目的意識を持ちながら、まずは目の前の勉強を頑張りたいと思う。


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