「目先の利益」だけを見て「将来の利益」を見捨てる日本
安宅 建人
私は以前からなぜ日本では土木やインフラ施設に対する投資額が減っているのかについて疑問を抱き続けてきた。そこで今日学んだストック効果とフロー効果がこれを解決する一つの要素ではないかと思い一つの仮定を立ててみた。
フロー効果ばかりを追い求め、ストック効果を発揮できない悪名高い土木施設を作った結果世論が土木に投資する額が多いことは無駄だと感じるようになり、政府も土木に割く予算を減らすことになったのではないか?
この仮説が正しいか北海道富良野市にある東郷ダムを例に見ていく。このダムは1977年から国の灌漑事業に基づき作られたダムで、建設途中にため池の増設などを経て当初の予定から10年も遅れた1992年に完成した。しかしできた時点でもうすでに日本の農業は衰退に向かっており、必要ではない状態にあったのです。さらに悪いことに試験貯水を行ったところなんと計画の4倍以上の量の水が漏れていてダムとしては全く使えないものが出来上がった。その後も改修工事を繰り返すが、ダムの形式がロックフィルという岩を積み上げて作る形であり、水漏れの箇所を特定できなかった。事業は2010年に会計検査院が問題であると指摘するまで続き、当初の予定である予算63億円がなんと379億円まで膨れ上がってしまった。これはダムを壊して再構築するのにかかる費用の約3倍である。結局事業は打ち切られ結果として430万トンの水をためられる予定が、たった18万トンの水しかためられないダムが出来上がった。これではもちろん地元住民のみならず、北海道民の多くから批判を受ける結果となり、国会でも問題になりました。確かにこの例を見るとこの仮説は正しいと思う。しかしここまで問題が大きくなるまで放置した国の会計検査院にも問題があると思う。コンコルド効果を放置した結果このようになってしまったのだ。もう少し臨機応変に計画の変更などをするべきだったとも思う。また、現代の報道では土木施設のストック効果を報道するものはあまり無い一方で、このように失敗したときだけは無駄な投資だと言って叩くのも世論に土木への投資は無駄であると印象づける一因になったのではないだろうか。
また、授業で先生がおっしゃっていたように、目先のフロー効果にばかりとらわれ、土木事業は単なる経済活動として雇用を生み出す一つであり、ストック効果という部分に目がいかないからこそ、決まっている全体の予算という枠組みの中で減らしやすいものなのではないかとも考えた。
一方で無駄と叩かれながらもそのストック効果を大いに発揮している土木構造物もたくさんある。ここでは八ッ場ダムを例に見ていく。
八ッ場ダムは群馬県の利根川水系の吾妻川にあるダムであり、2020年に完成したダムである。その建設には多くの反対意見があり、民主党政権下においては、一時事業が停止したこともあった。しかし、途中で事業を中止することで発生する補償金が高くつくこと、ダムの効果が十分に期待されることなどを理由に建設が再開された。その後ダム堤体が完成し、2019年10月からダムの試験貯水を始めたところ、ちょうどその1週間ほど後に台風19号が発生し、予定では数か月にわたって貯水するはずが、たった数日間のうちにほぼ満水となった。これに対して、ニュースやSNSで無駄といわれた公共事業が下流の人の命を救ったとして少しではあるが広まった。今回の場合はもともとがほぼ空ということもあり、想定以上の治水効果を発揮したとされたが、適切に運用を行えばストック効果を発揮し続けてくれるはずである。また、観光資源としてもストック効果を発揮するのではないだろうか?私がGWに訪問したときは駐車場が満車で、臨時の駐車場を利用したこともあって、土木構造物が観光名所となり、一般の人にも周知されていることに少しうれしさを感じたものだ。昼食をいただいた飲食店の方もダムができた後はお客さんの数が目に見えて増えたと言っており、地元住民にとってもダム建設がプラスに働いているように思われた。
このように土木構造物は人々の役に立つという意味のストック効果だけでなく、地域を活性化するという意味でもストック効果を発揮できるのである。
我が国の国家予算に占める公共事業への投資は近年、少し増えたといっても長い目で見ると大幅に減っている。これは目先の利権や利益にとらわれ、長い目で物事を考えることのできる人が減っているということを示しているのではないだろうか。
確かに日本の政治家は高齢化が進んでおり、有権者に占める高齢者の割合が増え続けていることもあって選挙で勝つという目的だけでは長い目で物事を見る必要がないのかもしれない。しかし、我々一人ひとりが長い目で物事を考えるという意識を持って行動することこそがこの国が長期的な目線で物事を見て行動できるようになる第一歩となるのだと思う。
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