細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

学生による論文(69)「現在と未来の日本の水運」 前田 頼人 (2021年度の「土木史と文明」の講義より)

2021-12-17 09:58:32 | 教育のこと

「現在と未来の日本の水運」 前田 頼人

 多くの先進国がユーラシア大陸や北アメリカ大陸に位置するのに対し、日本は島国である。イギリスなども島国の先進国であるが、ドーバー海峡をトンネルでユーラシア大陸と結ばれ、未だに物理的に独立している先進国は日本だけである。基本的に島国は他国との貿易が難しく、独立した経済圏を創出することが多い。このような状況で、日本が先進国に這い上がることができたのは、先人たちの「海」の使い方が非常に匠であったからだ。教科書にある通り、江戸時代に全国を一つの経済圏として成り立たせていたのは水運の発展である。しかし、残念なことに日本の港は以前ほど貿易力と経済力を発揮していない。

 日本人は物や人の移動に関して特徴的な感覚がある。それは「時間」である。日本人は時間に対して、「正確さ」を特に求める。この日本人特有の「時間」感覚は、海の状態に左右される水運よりも輸送時間が正確かつ短く済み、輸送の自由さもある鉄道やトラック輸送のほうが適している。そのため、国内の人や物の移動は多くの場合陸路を選ぶべきだろう。

 しかし、対外的には別である。国土交通省の世界の港湾別コンテナ取扱個数ランキングの20位以内を見ると、1980年では4位に神戸、13位に横浜、18位に東京が位置していたが、2020年では最も順位の高い港が19位の東京、横浜、川崎を合わせた京浜港になってしまった。取扱量は1980年よりも大幅に増加しているが、上位のほとんどを中国、韓国、シンガポールが埋め尽くしている。取扱量も桁数が1つ違うほどである。以前は、ハブ港として日本の港は規模でも機能面でも世界トップクラスであった。しかし、大型化し進化する船舶に合わせた港の整備を進めず、時間的にもフレキシブルな対応をとらないために日本の港は没落してしまっていた。では、港のハード面とソフト面の双方で周辺国に負け、日本は先人のように海を武器に日本を発展させることはできないのか。そんなことはないはずだ。日本の港とランキング上位の港との違いは大きく分けて2点ある。1つ目は、コンテナターミナルのゲートオープンの時間帯である。例えばシンガポールの港では24時間体制で船舶を迎え入れることができ、利便性が非常に高い。2つ目は、港の設備体制である。船舶の大型化に伴い、大型船舶が寄港できる港が減ってしまった。他にも様々な違いや劣っている個所はあるだろう。では、日本に強みはあるのだろうか。

 日本の大きな強みは安心と安全、そして日本人特有の正確さ、勤勉さだ。現在、コロナウイルスによるパンデミックが収まらないだけでなく世界情勢が複雑化、特にアジア情勢の変化が激しい時代なので、日本のこの強みは大きく支持されるだろう。大型船舶の寄港を可能にする港湾の整備も、技術がトップクラスのマリコンが存在する日本では不可能ではない。港を整備し、ハブ港として再び日本の港が大きく活躍する時代が来ることは日本経済の活性化にもつながる。やはりこの点でも、港の整備すなわちインフラの投資が大きな要となっているが、それを叶えることができるのは政府のみである。結局のところ求められるものは、インフラ投資とそれを支える勇敢な国である。

(参考文献)
国土交通省 白書・オープンデータ 統計情報 世界の港湾別コンテナ取扱個数ランキング(1980年,2020年(速報値))
https://www.mlit.go.jp/common/001358398.pdf


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