細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

学生による論文(66) 「羽田再国際化に伴う日本の航空業界の変化」  中村 亮介 (2022年度の「土木史と文明」の講義より)

2022-11-16 17:09:50 | 教育のこと

「羽田再国際化に伴う日本の航空業界の変化」  中村 亮介 

 今回の講義で空港の建設についての話があったので、日本の首都圏の2大空港である東京国際空港(羽田空港)と新東京国際空港(成田空港)の歴史と今後の展望について私の考えを述べていきたいと思う。

 1978年に成田空港が開港して以降、羽田空港は国内線、成田空港は国際線という内際分離が行われた。開港後しばらくの間は飛行機の航続距離の関係から成田空港は北米からアジアへの玄関口として北米からの便は一旦成田空港に降りてから、東アジアの都市へ向かっていた。また、日本の経済成長の後押しもあり、日本から海外に向かう人も増加傾向にあったため、成田は黙っていても人や物が集まっていた。そうなると、求められるのが空港設備の拡張であったが、成田は建設段階から反対派との間で闘争が起きており、空港周辺地域の用地買収も思うように行かず、成田は慢性的な発着枠不足に陥った。また当時の運輸省(現在の国土交通省)も羽田空港の沖合展開や関西国際空港の建設などの重大プロジェクトがあったため、成田空港を国際線乗り継ぎ客を重視したハブ空港化することについても、国内の需要を満たすことで精一杯で乗り継ぎ客に対応している余裕がなく、さらなる空港設備の増加を恐れて消極的であった。しかしながら、このような状況で成田空港が足踏みしている間にも、アジア諸国は巨大ハブ空港の建設を進め、国際線乗り継ぎ客を含めた旅客獲得競争に動いていた。従来から国際線の乗り継ぎを重視していた香港やシンガポールに加えて、バンコクのスワンナプーム、クアラルンプールのセパン、ソウルの仁川といった巨大空港が次々と開港しアジアの空は激しい旅客獲得競争に晒された。そして、各国の草刈り場になったのが常に発着枠がパンク寸前でハブ空港についてもやる気がなかった日本であり、特に韓国は地の利を生かして仁川から日本の地方空港に続々と乗り入れて、地方からの海外旅行客を仁川に誘導し、地方からの海外旅行客を奪っていった。このような状況は場当たり的な政策を行なってきた日本の航空行政のツケとも言え、長年ハブ空港を国を挙げて育ててきた韓国に間隙を突かれたのも必然だったと言える。

 一方、日本はこのような状況についてどう対処していったのかについて述べていきたいと思う。それを語る上で外すことが出来ないのは講義でも紹介のあった羽田空港のD滑走路建設である。この滑走路建設によって羽田空港の発着枠が大幅に増やすことが出来るようになり、国土交通省はこれに伴い、羽田空港を再国際化することを決めた。それまで、不文律であった国内線は羽田、国際線は成田という内際分離の原則を破ることになったがそれを崩さざるを得ない状況になったのは先ほど述べたアジアの空の変化であった。羽田の再国際化後は、JALやANAといった日本の航空会社が羽田を国内線から国際線への乗り継ぎハブ、成田を北米から東南アジアへのハブと位置づけ、両社とも接続を考慮したダイヤ設定を行うようになり、羽田空港の旅客数は急激に増加した。それまで、日本各地から東京にビジネスや観光目的で来ていた人に加えて、羽田で国際線に乗り継ぐ新たな市場を開拓したからである。成田空港についても、従来成田発着の国際線が羽田に移管され、国際線の運休や減便が目立つようになったが、格安航空会社(LCC)の誘致を進めた結果、今まで飛行機を使うことの無かった人たちが利用するようになり、成田空港発着の国内線も従来に比べてかなり充実した。また、先程述べた北米と東南アジアへの乗り継ぎハブとして整備された結果もあり、成田空港の旅客数も年々上昇している。このようなことから、日本が行ったこの政策は他国に比べて遅れは取ったものの、数年前からの日本への外国人観光客の増加もあって、日本の空の市場は他国に完全に食い潰されることは無かったと考えられる。

 さて、ここまで首都圏にある2つの空港の歴史について述べてきたが、今後の展望がどうなっていくのかについて私の考えを述べていきたいと思う。羽田空港は、都心中心部に近く、4本の滑走路を持ち、24時間運用が可能な国際空港として日本の空の玄関口に君臨している。ただ、自然災害などの有事で使用不能となった際に、代替手段となる空港の整備がまだ不十分と言える。羽田空港は、沖合に5本目の滑走路を建設する計画もあるが、私はまずは首都圏のもう一つの空港である成田空港の拡張を急ぐべきであると考えている。成田空港は、開港当初に比べれば、都心中心部へのアクセス機能なども充実しているが、空港自体の規模としてはかなり小さいと言える。成田空港は現在2本の滑走路を有しているが、最近になってようやく3本目の滑走路の建設に向けて計画が立てられた。各国の首都空港は4本の滑走路を保有していることが標準的であるため、早急に成田空港が4本の滑走路を有することを期待したい。首都圏に4本の滑走路を持つ空港が2つ出来れば、日本の航空業界もさらに発展を続けることが出来ると考えられる。特に、島国である特性上、日本と外国の行き来は空港を介して主に行われており、首都圏に2つの巨大空港が整備されていることは、日本の経済や国際的地位を回復するためにも大きなメリットがあると言える。この講義を受けていて先生がよく話している日本がインフラへの投資を減らしていることは、このような空港設備にも悪影響を与えているだろう。国はインフラへの投資をすることへの重要性を改めて認識してもらいたい。


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