細田暁の日々の思い

土木工学の研究者・大学教員のブログです。

学生による論文(54) 「アメリカ合衆国の道路網についての考察」 渡 由貴 (2022年度の「土木史と文明」の講義より)

2022-11-16 16:47:46 | 教育のこと

「アメリカ合衆国の道路網についての考察」 渡 由貴

 私は、アメリカに留学していた際、日本と比べ、いかに人々の生活が車に頼っている社会であるかということを体感した。今回は、その背景を道路網の観点から考えてみたい。

 私が生活していたカリフォルニア州では、人口5万人以上の都市が171あり、人々が普段の通勤通学からそれらの都市間を車で20分から30分くらいかけて移動するのが印象的であった。都市では、建物が建ち並び人々の生活が活発に営まれているが、そこから離れ隣の都市へと向かう道中には、山や畑、農場等があるだけで、次の都市に着くまでに人々が暮らしている状況は見受けられなかった。夜に乗った飛行機から見ても、光が無数に灯っており極めて明るいところが都市だと分かり、その周りは真っ暗で、数本の道路だけが暗闇の中に長く続いているのが分かった。そしてそれがまた隣の都市へと繋がっていた。また、私の生活していた人口50万人ほどの規模の都市であるサクラメントでは、現地に住んでいるほとんどの学生が車を所有しており、普段から週に数回もガソリンを入れている様子で、日本、とりわけ大都市である横浜に住んでいる私には考えられない光景であった。公共交通に関してはバスや電車が通っているが、本数が少なく運行頻度は20分置きくらいで、街中の治安が日本と比べ悪く徒歩での移動がしにくいこともあり、目的の場所へ公共交通と徒歩で移動する、という考えが一般的にはされない印象であった。関東でサクラメントと同じくらいの人口規模で見ると栃木県宇都宮市が挙げられるが、鉄道が14路線、バスネットワークが約450系統もあるなど、公共交通はサクラメントよりはるかに栄えている。人口密度や他の都市との位置関係、経済状況、治安の問題などを考慮していないため一概に同じ状況での比較とは言えないが、いかにアメリカ人の日々の生活が車での移動で成り立っているかが分かる。

 ここで、アメリカの道路網についての歴史を見てみよう。アメリカにおいて、全国的な道路網という観点が出てきたのは自動車が普及し始めた20世紀初頭で、東西を結ぶ道路網が整備され始めた。その後、自動車の普及と性能向上により長距離の移動が増えると、道路の改良とより全国的な道路網の整備を求める声が高まった。そして、「各州がそれぞれ道路整備を行っていけば、やがて州境から州境まで達する道路ができ、結果として全国的な道路網ができる」という発想のもと、1916年に連邦補助法が成立した。しかし、この法律では州を越えて連邦補助道路同士を接続することを義務づけていなかったため、連邦の補助金で整備された道路が州境で連続しない状態となってしまった。後に連邦ハイウェイ法が成立して、今に続くインターステイト・ハイウェイ網ができることになった。この法律では、全国的な道路交通、道路輸送を確立するための道路という明確な目的を持っていた。インターステイト・ハイウェイは、①主要な都市圏、都市、産業拠点を直接連絡する道路、②国防に供する道路、③カナダとメキシコの重要道路と連絡する道路、と定義されている。日本の高速道路ネットワークと比較すると、地方中心都市を効率的に連絡するという目標は同じだが、日本の大都市圏においては近郊地域を環状に連絡しているという点が異なる。

 料金の観点では、アメリカの高速道路の総延長に占める有料道路の割合はわずか6.4%に過ぎない。これは、アメリカの高速道路政策が無料を前提にしているためだ。また、有料道路を400キロほど走っても、5、6ドル請求されるくらいで通行料金が安い。そして、車線数の構成は、日本では3車線以下が33.1%、4~5車線が60.5%、6~7車線が6.4%である一方で、アメリカでは、3車線以下が2.3%、4~5車線76.0%、6~7車線が21.7%、残りが8車線以上であり、圧倒的に車線数が多い道路が日本に比べ多い。交通の自由度が高くなり、混雑状況も改善できるので、移動時間の短縮に繋がり、車での移動が主流になるのも納得できる。

 以上の、都市間を直接連絡し、交通料金が安く、車線数も多く利用しやすいという点が、日本と比べアメリカが車社会になる要因となっていることが考えられる。車社会に関しては、環境問題という観点から現在は世界で良くないこととして認識され始めているが、人々の生活を成り立たせ経済を成長させる上で、道路は非常に重要なネットワークである。しかし、問題なのは、今後迎えるであろう人口減少社会による影響であると考える。アメリカのような都市が点在しているような状況で、さらにそれぞれの都市内の人口が減ってしまうと、行政サービスの提供が非効率なものとなり、成り立たなくなってしまう。そうすると、公共交通が衰退し、車社会への進展がさらに加速するだろう。また、それが車を所有する人とそうでない貧しい人との差を広げる原因ともなり、より治安が悪くなり、さらに人々が公共交通を利用しにくい状況になる、という悪循環を生むことになるだろう。だから、現段階で公共交通の整備も増やしつつ、都市内の住居や都市機能を集積させ都市活動の密度を高めることが今後必要になってくると考えられる。


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