シャープ & ふらっと

半音上がって半音下がる。 それが楽しい、美しい。
思ったこと、感じたことはナチュラルに。  writer カノン

贈られた「聖夜」

2007-12-23 21:35:11 | 人とのつながり
Merry Christmas Ⅳ

十数年前、私は合唱団にいて、
大勢の人達とのコーラスを楽しんでいた。

ある年の年末。
恒例となった、ベートーヴェンの「第九」の、
出演の依頼があった。

相手は、小さな町の、小さな合唱団。
初めて「第九」に挑戦するという。
私達のK市合唱団は、何度も第九を歌っている。
指揮者を通じて、私達に「助っ人」の依頼があったのだ。

私を含め、数人だったが、
そこの合唱団に加わり、練習に参加することになった。
お世辞にも、上手ではなかったが、
皆、真剣に練習した。

そして、本番は12月20日頃だったと記憶している。


何とか仕上がり、
本番前日、最後の練習となった。

練習の直前、団長さんが提案をした。
『せっかくなので、クリスマスの曲も一曲歌いたい。
 「聖しこの夜」はどうでしょう。
 第九を歌い終わったら、そのまま続けて歌うんです。』

皆も賛成した。
「聖しこの夜」なら、誰でも歌える・・、
と思ったが、じっくり聴かせて歌おうとすると、
意外に難しい曲だとわかる。

とにかく、この曲の2番の歌詞を皆、知らない。
暗譜なので、歌詞を覚えることから始まった。
本番まで、24時間を切っているというのに・・。
さすがに、団長さんも焦ったようだ。

結局、第九の練習の半分もの時間を費やし、
「聖しこの夜」は、形になった。


そして翌日。
第九は、練習の甲斐あって、
無事歌い上げた。

最後のエンディングと同時に、拍手が起こる。
しかし、指揮者は姿勢を崩さない。
鳴り止まない拍手の中、
私達は、ゆっくりと「聖しこの夜」を歌い出した。

客席の人々は、少しざわついた感じで拍手をやめ、
思わぬ、もう一曲の歌に聴き入っていた。

第九を歌い終えたあと、
別の曲を歌う演奏会は、そう無いと思う。
小さな町の、小さなステージだったが、
特別な時間が生まれていた。


「聖しこの夜」が終わると、
今度は、客席からさざなみのような拍手が鳴った。
先ほどの、第九の終了と同時に手を叩くような、
お決まりの拍手とは違った温かさを感じた。

団長さんが、嬉しそうに客席を見渡す。
指揮者のM氏が、満足そうに私達を見る。
そして、静かに幕が下ろされた。


そのあと、会場を移して打ち上げとなった。
団長さんが言う。

『即席の、聖しこの夜でしたが、
 歌っていてとても感動しました。
 第九も素晴らしいが、宗教の持つ曲も素晴らしいですね』

続けて、

『応援で歌って下さった、K合唱団の皆さん、
 本当にありがとうございました。
 皆さんにとって、これからも聖なる音楽に包まれますよう、
 今日の聖しこの夜は、K合唱団の皆さんに贈りたいと思います』

嬉しかった。
合唱をやっていて良かった、と思えたひとときだった。


団長さんは、
素敵な聖夜をプレゼントして下さった。
今は、合唱から離れてしまった私だが、
このステージは、記憶に残っている中で、
一番温かな思い出である。

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