「苔(こけ)寺」の別名で知られる世界遺産・西芳寺(京都市西京区)が1~3月に「冬の参拝」を初めて実施する。期間中は多くの人を魅了してきた苔の庭をあえて非公開にする。寺が目指すのは、植生の養生とともに参拝者が本堂で静かに自分と向き合う時間の確保。京都屈指の古刹(こさつ)の雰囲気を全身で感じてほしいという。堂本印象の襖絵104面を初公開する。
西芳寺は、奈良時代の僧行基が720~740年ごろに開いたと伝わる。鎌倉時代に法然が浄土宗に改宗し、兵乱による荒廃を経て14世紀に夢窓国師が禅の道場として再興した。
120種類以上の苔が庭園を覆うようになったのは江戸時代後期からで、寺は「長い歴史を考えるとごく最近のこと」とする。昨冬は計10日間公開を取りやめて庭の手入れに集中したが、今年はより時間をかけることにした。
この機会に、参拝者が庭園以外の歴史や文化に触れられるよう普段は閉めている総門を42年ぶりに開門。1~3月は「行く、逃げる、去る」と言われるほど慌ただしくなりがちな時季だからこそ、木立に囲まれた参道を歩く時から禅寺の空気を感じてほしいという。
本堂の西来(さいらい)堂は1969年に500年ぶりに再建され、80歳を目前にした堂本印象が3年かけて襖絵を描いた。「遍界芳彩(へんかいほうさい)」「夢窓慈恵(むそうじえ)」など七つのテーマで描かれた襖絵の一部を出したことはあったが、104面全てを公開するのは初めて。寺は「苔庭を見せないというのは、私たちにとっても挑戦。魅力の一つをあえてそぎ落とすことで、参拝の方が自らを見つめ何かを感じ取っていただけるのであれば、禅寺の意味があると思う」としている。
「冬の参拝」は1月14日~3月5日。往復はがきによる事前申し込み制で、希望日の1週間前までに必着。参拝日や申し込み方法は寺のホームページで紹介している。
京都新聞