廃仏毀釈で損なわれた文化財の調査として1888年に撮影された東大寺の仏像写真
商業広告用の商品撮影を意味する「物撮(ぶつど)り」を、「物を撮る行為」と広く捉え、幕末期から現在までの写真の変遷をたどる特別展「ブツドリ:モノをめぐる写真表現」が、大津市瀬田南大萱町の県立美術館で開かれている。写真作品181件、書籍などの資料44件が陳列される。3月23日まで。
会場内で最も古い作品は、幕末の写真家・島霞谷(しまかこく)が1860年代に撮影したアユの写真だ。主な被写体が人物や風景だった当時、木製の板に乗せられた2匹のアユに焦点を当てた写真は、独特の存在感がある。廃仏毀釈(きしゃく)で損壊が進んだ文化財の調査のため撮影された仏像写真は、記録画像にとどまらない歴史の重みを今に伝えている。仏像写真では文化財写真の草分け的存在の小川晴暘(せいよう)、「古寺巡礼」シリーズで知られる土門拳らの迫力ある写真も並ぶ。
明治から大正にかけては、芸術性を求めた絵画的な写真が広まった。その後、カメラの機械性を生かした写真でしかできない表現を目指す「新興写真」の潮流が生まれ、更にシュールレアリスムの影響を受けた昭和初期の「前衛写真」につながっていく。会場では戦前の作品を紹介するとともに、現代写真家のオノデラユキさんと今道子さんの作品を取り上げ、シュールレアリスムとの共通性を探っている。