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やはり千年の都、「まじない」京都に息づく 幸せに暮らす知恵

2017年03月27日 | 京の鬼門除け


京都市内の鬼門よけ。

老舗旅館 柊家












京都市中心部を歩くと、民家やビルの敷地の隅に見られる「鬼門よけ」。東北を鬼門、西南を裏鬼門と称して白砂利を敷いたり、ヒイラギを植栽したりする習慣は、時代を経て廃れていくかと思いきや、今でも新築時に設けることがある。わが子の名付けに占いを用いるなど、科学が発展した今日でも占いやおまじないが息づく京の暮らしに注目した。

 「こちらが大吉のお名前です」。船岡山にある建勲神社(京都市北区)社務所。西京区の会社員井上博之さん(37)の前に座った松原宏宮司(76)が、厳かに四つの名前を提示した。井上さんが候補に挙げていた「旬人」の名前もあり、緊張気味だった井上さんに初めてホッとした表情が浮かんだ。

 夫妻に次男が誕生したのは2月中旬。「幸せな人生を送ってほしい」と名付けの本やインターネットサイトを読み込んだが、本によって画数の解釈に違いがあるなどして行き詰まってしまったという。そこで父の代から縁のある同神社に命名を頼んだ。

 松原宮司は名付け歴30年、約5千人の赤ちゃんに名前を授けてきた。すべての物事を陰と陽、五行(木火土金水)でとらえる陰陽五行説に基づき、名字との相性や漢字、読みがなのバランスを整える。心がけるのは親の希望に寄り添うこと。「希望の名前がよくない場合も伝えるが、画数が多少悪くても気にしなくていいと伝える。お父さん、お母さんが考えた名前が一番正しいのです」。少子化の折でも毎月10人以上の依頼があり、3分の1は他府県からという。命名では晴明神社(上京区)も有名で、易者に頼む家庭もある。

 中国古来の易から発展した陰陽五行の思想は、平安京の造営にも生かされた。方位を重視する風水の思想と通じるのが、東北の鬼門に水場や不浄を避ける習わしだ。東北は鬼が出入りする方角として反対側の裏鬼門と合わせ、きれいな砂利を敷いたり、難を転ずる意味合いのナンテン、鬼が嫌がるとされるヒイラギの植栽を行う。

 昔ながらの町家に残るだけでなく、新築の住居やビルでも採用されている。ホテルフジタ跡に2014年に開業したザ・リッツ・カールトン京都(中京区)の外塀は、東北隅を2平方メートルほど欠かせ、内側に塀をめぐらせる。京都御所の東北隅にある「猿が辻」に習い、ホテルの繁栄を願って新築したという。

 東北隅を欠く鬼門よけは、渉成園や仏光寺などの伝統建築でも行われており、江戸時代の学者新井白石の著述「鬼門説」を見ても東北を忌む風習が庶民に浸透していたことが分かる。鬼門よけをフィールドワークにしている藤野正弘京都産業大日本文化研究所上席特別客員研究員は2年前、堀川通と寺町通に挟まれた中京、下京両区をしっかい調査し、1100カ所の鬼門よけを確認した。大阪や奈良ではほとんど見ないといい「市中心部は戦災に遭わなかったことや、町中が碁盤の目になっており東西南北の方角が意識しやすいためだろう」と推察する。

 屋根に鍾馗(しょうき)さんを置いたり、玄関にちまきを飾ったりと、さまざまな習わしが生きている。「易、風水、暦、養生、処世 東アジアの宇宙観(コスモロジー)」を著した大阪府立大の水野杏紀客員研究員は「一種の心理的な安全装置と言える。日本を含む東アジアには、吉におもむき、凶を避ける『趨吉避凶(すうきつひきょう)』の思想や技術がさまざまに蓄積されている。風水や易占などは人が幸せに暮らすための知恵でもある」と話している。

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