いつも選挙後に感想を書いているので、今回も書くことにする。
バッファープレイヤーとアナウンスメント効果
大学の政治の授業では日本の有権者の投票行動として「バッファープレイヤー」という用語が使われていた。これは、野党第一党であった社会党に政権をもたせる気はさらさらないが、自民党が政策で失敗をすると懲らしめるつもりで与党の座を追われない程度に議席を減らそう、という行動をする有権者を表したものだ。1990年代から野党の中にも政権担当能力があることをアピールする政党が登場し、今回ようやく国民の期待を得て、政権交代という結末になった。与党にセカンドチョイスが生まれたことで、バッファープレイヤーは消失するだろう。小選挙区制の導入から打たれた布石が15年以上経って結実した。
アナウンスメント効果は、事前の情勢報道をみて投票行動に変化が生じることをいうものだ。今回は「民主党が300議席以上の大勝」が報じられた。揺り戻し―勝ちすぎを警戒した有権者が投票先を変える流れ―は起こらなかった。これは、政権交代という現状の変革を伴う初めての選択をする場合には勇気が出にくいものだが、情勢をみて「望んでるのは自分だけじゃない」と勇気づけられた結果だと思う。そして、民主党が良くも悪くも多様な政策志向を持つ人材を抱えていることから、政策が極端に偏る危険性はないだろう、という安心感があったのではないかと推測する。
今回自民と民主で約200議席が入れ替わったことで、「もし期待を裏切ったなら容赦なく落とすよ!」と言うことができるようになった。これは政権担当者へ緊張感をもたらすだろう。その一方で、政権与党は多数の議席で安定した政権運営をすることができる。個人的にはこれが健全なあり方だと思う。日本は権力に見合った責任が伴わない場面が多いのだが、政治の場面では一歩進んだ感じだ。
ボートマッチと政策選択選挙
過去の選挙と比較すれば、今回は政策志向が一番強い選挙だったと思う。テレビではマニフェストを比較する特集がよく行われていたし、バラマキに批判的な「みんなの党」が比例で予想外の大量得票を得ており、投票した人は政策を見て判断したと推測することができる。読売新聞や毎日新聞のサイトではボートマッチという、主要な政治争点について自分の立場を入力し、その争点についてどれほど重視するかも入力すると、政党が掲げる政策との親和度を表示してくれるサービスが提供されていた。他にも、ポリティカル・コンパスという、自分の政治的立ち位置をみるサービスもあった。
自分の考え方は「財政はスリム化・経済は自由化を基本とすべきだが、社会保障が国民に信頼されていないとうまく機能しないので建て直しが急務」「憲法9条には固執せず核武装もありうるが、反対の人の気持ちもわかるし特に重視しない」「個人の思想や私生活の自由は最大限尊重すべき」という感じで、ボートマッチで判定するとピッタリはないが民主や社民に近く、立ち位置は強めのリベラルと弱めの左派という感じになるようだ。選挙後でも利用できるようなので、試してない方がいたら毎日ボートマッチ(えらぼーと)をどうぞ。自分の投票を振り返ってみるのもいいだろう。
野党としての自民党
首相は衆議院解散の記者会見から民主党の政策を批判するのにかなりの時間を割き(自民党のマニフェストができてなかったこともあるが)、選挙期間中も多くの民主党批判があり、インターネット上でネガティブ・キャンペーンも展開した。本来なら与党が議論の土台となる政策を提示するものだが、まるっきり逆になってしまった。政権ではなく政策を、という自民党のキャッチフレーズがあったが、与党はこれまで政策を実践できる立場にあったのだから「今までの政策に不満だからこうなっているのに」と批判されるのではと思った。
政策と言えば、郵政選挙で「小さな政府」を支持して投票した有権者は麻生首相が掌を返したために離れてしまった。世論の空気を読んで選挙で掲げた根本的な事を改めて選挙をせずに覆すのは包括政党らしさが表れているが、前の選挙で地方の基盤が崩れており、どっちつかずになってしまった。終盤は国旗がどうとか保守的で理念的な問題で勝負をかけたが、これは熱狂的な支持者を得る反面、ゆるい一般的な支持は得にくいものだと思う。国旗を汚されたら気分はよくないものの、当事者を執拗に糾弾するのは行き過ぎじゃないか、という人が多いだろうし、政治課題の中で優先順位は高くないようにみえる。
さて、野党として自民党がどうなるか、保守色を強めるという方向が有力のようだ。小さな政府・構造改革路線継続を志向する議員は軒並み小選挙区で敗れて比例で復活という状態で、主導権をとるのは難しいだろう。そうなると経済・財政・社会保障・雇用という場面では明確な対立点を形成できず、安全保障面で民主党政権の行き過ぎを止める役割を担うのではないかと思う。しかしこれだけでは二大政党と言うには心許ないので、いずれ自由化路線で経済政策を掲げるようになって欲しいと個人的には思う。
投票について
小選挙区では民主党の候補者が圧倒的に強かったので選択の余地はなかった。比例では社民党の名簿1位の保坂展人氏にはこれからも議員を続けて欲しいと思ったので社民党にしたが、議席確保に至らなかった。小選挙区で10万票・比例でも20万票入っていて当選できないとは、少数政党は厳しいなと感じた。

にほんブログ村
バッファープレイヤーとアナウンスメント効果
大学の政治の授業では日本の有権者の投票行動として「バッファープレイヤー」という用語が使われていた。これは、野党第一党であった社会党に政権をもたせる気はさらさらないが、自民党が政策で失敗をすると懲らしめるつもりで与党の座を追われない程度に議席を減らそう、という行動をする有権者を表したものだ。1990年代から野党の中にも政権担当能力があることをアピールする政党が登場し、今回ようやく国民の期待を得て、政権交代という結末になった。与党にセカンドチョイスが生まれたことで、バッファープレイヤーは消失するだろう。小選挙区制の導入から打たれた布石が15年以上経って結実した。
アナウンスメント効果は、事前の情勢報道をみて投票行動に変化が生じることをいうものだ。今回は「民主党が300議席以上の大勝」が報じられた。揺り戻し―勝ちすぎを警戒した有権者が投票先を変える流れ―は起こらなかった。これは、政権交代という現状の変革を伴う初めての選択をする場合には勇気が出にくいものだが、情勢をみて「望んでるのは自分だけじゃない」と勇気づけられた結果だと思う。そして、民主党が良くも悪くも多様な政策志向を持つ人材を抱えていることから、政策が極端に偏る危険性はないだろう、という安心感があったのではないかと推測する。
今回自民と民主で約200議席が入れ替わったことで、「もし期待を裏切ったなら容赦なく落とすよ!」と言うことができるようになった。これは政権担当者へ緊張感をもたらすだろう。その一方で、政権与党は多数の議席で安定した政権運営をすることができる。個人的にはこれが健全なあり方だと思う。日本は権力に見合った責任が伴わない場面が多いのだが、政治の場面では一歩進んだ感じだ。
ボートマッチと政策選択選挙
過去の選挙と比較すれば、今回は政策志向が一番強い選挙だったと思う。テレビではマニフェストを比較する特集がよく行われていたし、バラマキに批判的な「みんなの党」が比例で予想外の大量得票を得ており、投票した人は政策を見て判断したと推測することができる。読売新聞や毎日新聞のサイトではボートマッチという、主要な政治争点について自分の立場を入力し、その争点についてどれほど重視するかも入力すると、政党が掲げる政策との親和度を表示してくれるサービスが提供されていた。他にも、ポリティカル・コンパスという、自分の政治的立ち位置をみるサービスもあった。
自分の考え方は「財政はスリム化・経済は自由化を基本とすべきだが、社会保障が国民に信頼されていないとうまく機能しないので建て直しが急務」「憲法9条には固執せず核武装もありうるが、反対の人の気持ちもわかるし特に重視しない」「個人の思想や私生活の自由は最大限尊重すべき」という感じで、ボートマッチで判定するとピッタリはないが民主や社民に近く、立ち位置は強めのリベラルと弱めの左派という感じになるようだ。選挙後でも利用できるようなので、試してない方がいたら毎日ボートマッチ(えらぼーと)をどうぞ。自分の投票を振り返ってみるのもいいだろう。
野党としての自民党
首相は衆議院解散の記者会見から民主党の政策を批判するのにかなりの時間を割き(自民党のマニフェストができてなかったこともあるが)、選挙期間中も多くの民主党批判があり、インターネット上でネガティブ・キャンペーンも展開した。本来なら与党が議論の土台となる政策を提示するものだが、まるっきり逆になってしまった。政権ではなく政策を、という自民党のキャッチフレーズがあったが、与党はこれまで政策を実践できる立場にあったのだから「今までの政策に不満だからこうなっているのに」と批判されるのではと思った。
政策と言えば、郵政選挙で「小さな政府」を支持して投票した有権者は麻生首相が掌を返したために離れてしまった。世論の空気を読んで選挙で掲げた根本的な事を改めて選挙をせずに覆すのは包括政党らしさが表れているが、前の選挙で地方の基盤が崩れており、どっちつかずになってしまった。終盤は国旗がどうとか保守的で理念的な問題で勝負をかけたが、これは熱狂的な支持者を得る反面、ゆるい一般的な支持は得にくいものだと思う。国旗を汚されたら気分はよくないものの、当事者を執拗に糾弾するのは行き過ぎじゃないか、という人が多いだろうし、政治課題の中で優先順位は高くないようにみえる。
さて、野党として自民党がどうなるか、保守色を強めるという方向が有力のようだ。小さな政府・構造改革路線継続を志向する議員は軒並み小選挙区で敗れて比例で復活という状態で、主導権をとるのは難しいだろう。そうなると経済・財政・社会保障・雇用という場面では明確な対立点を形成できず、安全保障面で民主党政権の行き過ぎを止める役割を担うのではないかと思う。しかしこれだけでは二大政党と言うには心許ないので、いずれ自由化路線で経済政策を掲げるようになって欲しいと個人的には思う。
投票について
小選挙区では民主党の候補者が圧倒的に強かったので選択の余地はなかった。比例では社民党の名簿1位の保坂展人氏にはこれからも議員を続けて欲しいと思ったので社民党にしたが、議席確保に至らなかった。小選挙区で10万票・比例でも20万票入っていて当選できないとは、少数政党は厳しいなと感じた。

にほんブログ村