元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「十三人の刺客」

2010-10-26 06:34:27 | 映画の感想(さ行)

 三池崇史監督が前に手掛けた時代劇「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」に比べれば、随分とマシな出来映えで、退屈しないで観ていられる。ただし、諸手を挙げての高評価は差し控えたい。それは、この監督の持ち味であるオフビートさ加減が作品のカラーと十分シンクロしていないからだ。

 江戸時代末期。将軍の弟であり次期老中の有力候補である明石藩主の松平斉韶は、血も涙もない性格で非道の限りを尽くしていた。このまま幕府の要職に就いてもらっては各大名や民衆は大いに困る。そこで老中・土井利位は、御目付役の島田新左衛門に斉韶の暗殺を持ちかける。島田は腕の立つ仲間を集め、参勤交代途中の斉韶一行を襲う計画を立てる。池宮彰一郎の原作は63年に工藤栄一監督により一度映画化されているが、私は未見だ。

 どう考えても三池監督の“不真面目なテイスト”が全面開示されるようなネタではなく、事実今回は殊勝にストーリーを追うような素振りは見せている。もっとも、伊勢谷友介演じる“野生児”の扱いなどで元来のおふざけ精神が前面に出てしまうことがあるのだが、これが悲しいほど作品のカラーと合っていない。

 この題材で三池の持ち味が発揮されるとしたら、クライマックスの大立ち回りでのトンデモぶりしかないだろう。それならばシリアス路線の筋書きとそれほどの乖離は生じない。その期待に応えるかのように、13人の刺客たちは大仰な仕掛けで松平側を翻弄。爆発物やトラップで三百人の相手をアッという間に百人ちょっとにまで減らしてしまう。

 ここで無謀なゲリラ戦をもっと推し進めて、斉韶とその取り巻きの護衛程度にまで敵方の勢力を削いでしまえばいいものを、なぜか途中から刀を取っての白兵戦に雪崩れ込んでしまう。これは解せない。いくら“死に場所を求めるのが武士の真髄”だと言われても、やっていることが首尾一貫していない。

 しかも、一人当たり十人程度斬れば決着は付いてしまうはずが、どう見ても単独で2,30人は斬っている。計算が合わないではないか(爆)。殺陣も大したことはなく、ただ刀を振り回しているに過ぎないように思える。見ようによっては不良少年グループ同士の果たし合いとあまり変わらない。

 まあ、役所広司や山田孝之、伊原剛志や松方弘樹など面子は揃っているし、敵役の市村正親も良いし、斉韶に扮する稲垣吾郎は新境地開拓かと思わせるほどにノッている。その意味では観て損はないかもしれない。ただし、とてもヴェネツィア国際映画祭で賞を取れるようなシロモノではないことは確かだろう。
コメント
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