元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「HAPPYEND」

2024-11-02 06:21:58 | 映画の感想(英数)
 いかにも新人監督が手掛けた“意識高い系”の佇まいの映画で、頭から否定してしまう鑑賞者も少なくないとは思うが、個人的には気に入った。登場人物たちが抱える屈託や焦燥感、そして向こう見ずな行動に走ってしまう様子に、昔自分が十代だった頃の捨て鉢な思考パターンが被ってきて何とも言えない感慨を抱いてしまう。こういうアプローチもあって良い。

 近未来の日本。高校3年生のユウタとコウは気ままな学生生活をエンジョイしていたが、ある晩忍び込んだ校舎の中でユウタは冗談のキツいイタズラを敢行する。翌日、そのイタズラは校長の知るところになり、学校側は生徒を監視するAIシステムを校内に導入するに至る。それを契機として、ユウタとコウだけではなく多くの生徒に動揺が走り、先の見えない事態に陥ってしまう。



 時代設定は“近い将来”ということだが、AIの扱いや多様性に富んだ生徒が多いというモチーフは現在進行形だろう。ユウタとコウの家庭は問題を抱えているが、その事情は決して浮世離れはしていない。まあ、映像のエクステリアこそ近未来っぽさを少し醸し出してはいるが、これは概ね現代の話と言って良いと思う。

 登場人物たち(教師や親も含む)は皆うまくいかない現状に悩んでいるが、それを打開するため具体的に何をどうしたら良いのか分からない。一部の生徒は授業をボイコットし校長室に立てこもるという暴挙に出るが、それで見通しが劇的に明るくなるわけではない。それでも彼らは現実と折り合いを付けて生きていくしか無いのである。

 実は、私が昔通っていた高校でも授業を放棄して問題教師を吊し上げようとした動きがあった。もっともそれは別のクラスの話で、こちらは関与はしていなかったのだが、彼らがそうしたくなった気持ちは理解出来た。それで状況が好転することは最初から期待はしていないものの、そうでもしないとあの鬱屈した気持ちは少しも晴れないのだ。ましてや世の中が暗く若者が難儀しそうな現在では、ユウタやコウたちの所業は訴求力が高いと思う。

 脚本も担当した空音央の演出は気取った映像感覚が鼻につくものの、主題の捉え方はしっかりしている。生徒役の栗原颯人に日高由起刀、林裕太、シナ・ペンといった顔ぶれは馴染みは無いが、いずれも的確なパフォーマンスだ。渡辺真起子に佐野史郎といったベテランも機能している。第81回ヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門の出品作品でもある。

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