(原題:ALL TOGETHER NOW)2020年8月よりNetflixより配信された青春ドラマ。とびきり上質な作品ではないものの、丁寧に作られていて鑑賞後の印象は悪くない。キャストの健闘も光る。そして何より、前向きで訴求力の高い主題を採用していることが評価できる点で、登場人物たちと同世代の若年層に見せればかなりウケると思う。
オレゴン州ポートランドに住むアンバー・アップルトンは、高校に通いながらもバイトやボランティアに積極的で、皆から一目置かれていた。時に音楽の才能は非凡なものがあり、優れた芸術学部を擁するペンシルベニア州ピッツバーグのカーネギーメロン大学への進学を目指していた。ところが、実は彼女には住む家が無く、母親と一緒にスクールバスの中で寝泊まりしていたのだ。それでも日々笑顔を忘れないアンバーだが、そんな彼女を次々と不幸が襲う。果ては愛犬のボビーの重病が発覚するに及び、激しく落ち込む様子を友人のタイに悟られてしまう。
幸薄い生い立ちにもめげず、何事にも積極的に取り組み、明るさで乗り切ろうとしたヒロインが大きな壁にぶつかったとき、どう対処すべきか。程度の差こそあれ、誰でも思い当たるシチュエーションではないだろうか。そう、いくら気丈に振る舞っても、個人が出来ることは限られているのだ。ここで明暗を分けるのが、他者からの助けを受け入れる度量があるかどうかである。頑なだった主人公が“自分は一人ではない”という真実に行き着くプロセス、それが“成長”というものだろう。
ブレット・ヘイリーの演出は派手さは無いが堅実で、揺れ動くヒロインの内面をうまく掬い上げていると思う。主演のアウリイ・クラヴァーリョは決して美少女タイプではないが(笑)、表情が豊かで好ましい。「モアナと伝説の海」(2016年)の主役の声優としてデビューしたこともあり、歌も上手い。タイ役のレンジー・フェリズもナイスキャラだ。
ジャスティナ・マシャドにジュディ・レイエス、テイラー・リチャードソンら脇の面子も良いが、テレビドラマ界の大物であるキャロル・バーネットが顔を出しているのは嬉しい。相当な高齢だと思うが、矍鑠としている。また、ロブ・ギヴンズのカメラが捉えた、紅葉が映える秋のポートランドの街並みは本当に美しい。