元・副会長のCinema Days

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「神は銃弾」

2025-01-13 06:16:03 | 映画の感想(か行)
 (原題:GOD IS A BULLET )99年に刊行されたボストン・テランによる原作は英国推理作家協会賞の最優秀新人賞をはじめ各アワードを獲得し、日本での翻訳版も日本冒険小説協会大賞を受賞するなど、かなりの評判を博している。私も十数年前に読んで好印象だったことを覚えているが、これを映画化するにはハードルが高かったと思われる。かなりの長編であることはもちろん、主要キャラクターであるヒロインの造型が圧倒的で、演じられる女優がそう簡単に見つかるはずがない。ところが今回の映画版ではそのあたりがクリアされていて、それだけで評価したくなるシャシンだ。

 メキシコ国境近くの町に住む刑事ボブ・ハイタワーは、ある日突然にカルト教団“左手の小径”に元妻とその再婚相手が殺されるという災難に見舞われる。しかも、中学生の娘は教団に誘拐されて行方が知れない。ボブは何とか娘を探そうとするが、法の限界があって上手くいかず、警官の職を捨て独自に行動することを決める。そんな彼が出会ったのが、かつてそのカルト教団に誘拐されたものの生還を果たした経験を持つ若い女、ケース・ハーディンだった。2人は協力して“左手の小径”に立ち向かう。



 このケースの、蓮っ葉でいながら純情で、極限状態の中で主人公と衝突しながらも決して諦めないという性格は、長い原作を最後まで読者を釘付けにするほどの存在感を示していた。これは容易に映像化できる個性ではないはずだが、本作の主演女優であるマイカ・モンローは見事に仕事をやり遂げている。まるで原作から抜け出してきたかのような佇まいで、このキャスティングは大成功だ。

 とはいえ、2時間半の上映時間でも小説版をフォロー出来ていない。ボブの元妻らが襲われた原因も、明示されていない。その事件の関係者らしき登場人物たちも出てくるが、唐突な感じは否めない。そして何より、熱心なキリスト教徒だったボブが、題名通り“神は銃弾だ”という結論にたどり着くプロセスも不十分である。

 ところが監督のニック・カサヴェテスは“そんなもどかしさは、派手な場面の釣瓶打ちでカバーしてやる!”とばかりに、程度を知らないバイオレンス描写を畳み掛けてくる。見ようによっては、まるでスプラッタ映画だ。しかし、そんな大暴れの背景は主人公たちの憤怒に裏打ちされているので、無理矢理な印象はあまり受けない。

 ボブに扮するニコライ・コスター=ワルドーは熱演だし、敵の首魁を演じるカール・グルスマンも憎々しい。また、教団に関係の深い得体の知れぬ男の役をジェイミー・フォックスが担当しているのも効果的だ。そして特筆すべきは、撮影監督は香取健二という日本人である点だ。どういう経歴でどのようなテイストを持った人材なのかは分からないが、荒涼とした中西部の風景の捉え方は上手いと思った。

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