元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「Cloud クラウド」

2024-10-26 06:25:31 | 映画の感想(英数)
 どうしても評価すべき点が見つからない、困った映画だ。しかし、こんなシャシンがヴェネツィアや釜山などの国際映画祭に出品され、さらに第97回米アカデミー賞の国際長編映画賞日本代表に選定されたというのだから、呆れるしかない。この業界には我々カタギの一般人があずかり知らぬ“事情”というものが存在するのだろう。

 高専を出て町工場で地道に働く吉井良介は、一方で転売サイトを運営してかなりの日銭を稼いでいた。ある日、良介は職場の上司から管理職への昇進をオファーされるが、責任が大きくなることを嫌う彼は辞職する。さらに北関東の郊外にある湖畔の一軒家に事務所兼自宅を構え、恋人の秋子と新たに助手として雇った佐野と共にビジネスを広げようとする。だが、良介の周囲で次第に物騒な出来事が頻発するようになり、ついには得体の知れない者たちによって命まで狙われる。



 今どきクラウドといえばIT用語であり、本作もそういう方面から話を進めるのだと思っていたら違った。何でも主人公が阿漕な商売で荒稼ぎしたことにより、本人が知らない間に憎悪が“雲のように”広がることを意味しているらしい。まあそれは認めるとして、この脚本はいただけない。

 冒頭、良介が経営が苦しい製造業者から大量の商品をタダ同然で買い付け、それを高値で転売するくだりが紹介されるが、最終的に安くはない値段で捌けるのならばこの業者が手放す理由は無いはずだ。また、わざわざ人里離れた湖のそばに引っ越す理由も不明だし、佐野には“勝手にパソコンを見るな!”と言っておきながら端末にパスワードも設定せずに放置したりと、筋の通らないモチーフが満載。

 終盤には良介を逆恨みした連中が銃を持って襲撃するという有り得ない展開になったと思ったら、佐野が“意外な正体”をあらわして騒動に一枚噛むとか、秋子の挙動不審ぶりがクローズアップされるとか、映画は混迷の度を増してゆく。クライマックスになるはずの銃撃戦は緊張感のカケラも無い“戦争ごっこ”のレベルに終始しているのだから脱力する。

 監督の黒沢清は手掛けた映画の出来不出来が大きいのだが、今回は明らかにハズレの部類だろう。主演の菅田将暉は頑張ってはいるが、ストーリーがこの程度なので“ご苦労さん”としか言いようがない。古川琴音に奥平大兼、岡山天音、山田真歩、松重豊、荒川良々そして窪田正孝と、顔ぶれは多彩だが機能していない。

 なお、今では大抵の人気商品が価格規制されているらしく、転売屋がオイシイ思いをするケースは減っているらしい。もちろん、本作にはそのあたりへの言及は無し。とにかく題材自体から練り直した方が良いような中身だ。

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