猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

HOKUSAI

2021-06-15 22:29:23 | 日記
2020年の日本映画「HOKUSAI」を観に行った。

町人文化が華やぐ江戸の町の片隅で、食うこともままならない生活を送って
いた貧乏絵師の勝川春朗(柳楽優弥)。後の葛飾北斎となるこの男の才能を見
出したのが、喜多川歌麿(玉木宏)、東洲斎写楽(浦上晟周)を世に出した希代
の版元・蔦屋重三郎(阿部寛)だった。重三郎の後押しにより、その才能を開
花させた北斎は、彼独自の革新的な絵を次々と生み出し、一躍、当代随一の
人気絵師となる。その奇想天外な世界観は江戸中を席巻し、町人文化を押し
上げることとなるが、次第に幕府の反感を招くこととなってしまう。

江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎の生涯を柳楽優弥と田中泯のW主演で描く。
青年期の北斎を柳楽優弥、老年期の北斎を田中泯が演じる。北斎は絵はうま
いが大衆に受け入れられる作品が描けず悩んでいた。特に江戸で人気の歌麿
に追いつきたいとの焦りがあったが、そこへとても若い写楽が現れ、焦りに
拍車がかかる。版元の蔦屋重三郎は北斎のことを「あいつはきっと化ける」
と目をつけており、何かと面倒を見ていたが、北斎はその気持ちを受け入れ
ることができずにいた。だが北斎は海へ行き、海水に浸かったことがきっか
けで自分が描きたい絵を描けるようになる。それは既存の浮世絵とは違うと
ても個性的なものだった。
海外の多くの芸術家にも影響を与えた北斎の物語、とてもおもしろかった。
W主演の柳楽優弥と田中泯の演技が素晴らしい。他のキャストも歌麿役の玉
木宏のセクシーさや戯作者・柳亭種彦役の永山瑛太の熱演など、皆とても良
かった。北斎は歌麿に「おめえの描く女には色気がねえんだよ」と言われて
しまい、悩む。だが海へ行って波の絵を描き、重三郎(今で言うプロデュー
サーである)のところに持っていったところ、「こう来たか」と言われる。
「おめえ、化けたな」と。北斎は「ただ描きてえと思ったもんを描いただけ
だ。いらねえならそう言ってくれ」と言う。このやり取りがとてもいい。重
三郎が北斎を認めた瞬間だった。北斎や歌麿や重三郎らのしゃべる江戸弁
(?)が心地よい。だが北斎の開花を見届けるかのように重三郎が急逝してし
まうのは悲しかった。
けれども当時の幕府が浮世絵や戯作本といった町人文化を快く思っていなか
ったことは知らなかった。現代の人が漫画や小説などを好きなのと同じよう
なものだと思うのだが、江戸の風俗を乱すと考えられていて、取り締まりが
厳しくなっていったらしい。年を取った北斎は娘の提案で江戸を離れるが、
絵への情熱は一向に衰えなかった。取り憑かれたように絵を描く北斎の姿を
田中泯が見事に体現している。そして雨の中で絵の具を持ち、いわゆる「北
斎ブルー」と呼ばれる独特の藍色が完成するシーンはとても鬼気迫るものが
あり、感動的だった。
ところで北斎は68歳の時に脳卒中で倒れ、命は助かったものの右手に痺れ
が残り、絵師として致命的な状況になるが、中国の医学書を読んで自分で薬
を作り、治してしまっている。すごいスーパーじいさんだったんだな。そし
て88歳で亡くなるまで絵を描き続けている。その情熱や執念はどこから来た
のだろう。ひたすら「自分が描きたいものを描きたい」という思いからだっ
たのだろうか。ラストシーンは音楽も含めてとても良かった。この映画は本
当は去年の5月に公開予定だったのだが、コロナの感染により延期になって
いた。1年待った甲斐があってとても見応えがありおもしろかった。




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コメント (2)
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