猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

太陽の子

2021-08-16 22:29:33 | 日記
2021年の日本・アメリカ合作映画「太陽の子」を観に行った。

「この研究が成功すれば、戦争は終わる」―そう信じて実験に没頭する若き
科学者・石村修(しゅう/柳楽優弥)。太平洋戦争終盤、軍から密命を受けた
京都帝国大学物理学研究室では、荒勝教授(國村隼)の指導のもと研究員たち
が原子核爆弾の開発を急いでいた。そんな中、建物疎開で家を失った修の幼
なじみの朝倉世津(有村架純)が、修と母(田中裕子)の家で暮らすことになる。
1945年の初夏、修の弟・裕之(三浦春馬)も戦地から一時帰宅し、3人は久し
ぶりの再会を喜ぶが、修と世津は裕之が戦地で負った深い心の傷を目の当た
りにする。修もまた、核分裂エネルギーの底知れぬ破壊力と葛藤していたが、
世津だけは、戦争が終わった後の世界で力強く生きていくことを決意してい
た。やがて裕之は再会を誓って戦地へと戻り、修は実験を続けるが、運命の
8月6日、広島に新型爆弾が投下されてしまう。

昨年の8月15日にNHKでテレビドラマとしてパイロット版が放送された、そ
の映画版である。恥ずかしながら私は、日本も原子核爆弾を開発する研究を
していたことを知らなかった。「もし成功すれば、歴史に刻まれる」という
思いを胸に、京都大学の学生たちが開発を急いでいたのだった。それは、皆
が尊敬するアインシュタインの理論を具現化することだったが、一方で世界
を滅ぼしかねない研究でもあった。それでもアメリカやソビエトに負けじと
日本も研究に没頭していた。
研究員の修は子供の頃から科学者になりたいと思っており、死んだ父親から
軍人になれと言われても科学者の道を選び、弟の裕之は軍に所属していた。
修と母親が暮らす家に幼なじみの世津とその祖父を住まわせることになり、
やがて裕之も一時帰宅をする。実は修も裕之も世津に想いを寄せており、世
津は彼らを兄のように慕っていた。帰宅しても戦地での出来事を一言も話そ
うとしない裕之の様子に、修も母も世津も裕之の心の傷を慮った。
修は修で、科学者が人を殺傷する兵器を製造することに苦悩していた。修だ
けではなく学生たちは同じ思いを抱えていたが、戦争を終わらせるためには
開発するしかなかった。研究員の心の葛藤が繊細に描かれていて、その苦し
みが伝わってくる気がした。この映画には戦闘シーンは全くないのだが、戦
争がいかに残酷で、いかに虚しいものかがよくわかる。修は科学オタクのよ
うなところがあるが、計算は苦手というキャラクターだ。それでも放ってお
けば徹夜でも実験をしかねない修を、皆は頼りにしている。
科学者の狂気のようなものを体現している柳楽優弥の演技力はさすがだった。
彼に限らずキャストは皆素晴らしかった。あの顔ぶれを選んだ黒崎博監督の
目の付け所はすごいと思った。終盤広島と長崎に原子核爆弾が投下され、日
本が降伏する辺りは本当に悲しい。実際の写真も出てきて痛ましかった。日
本より先に新型爆弾の製造に成功したアメリカだが、爆弾を投下しなければ
戦争は終わらなかったのだろうか。ラスト近くで修がアインシュタインと英
語で語り合うシーンはとても良かった。若い人たちに観て欲しい映画だと思
う。劇中の裕之と三浦春馬くんの姿が重なって見えて、泣けてきた。




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10 コメント

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Unknown (takey813)
2021-08-16 23:18:01
初めてお邪魔させて、頂きます。自分は、ドラマの方は、録画してありますが、重い劇題で見ておりません。多分、今後も、見られないと思います。ただ、日本が、原子爆弾の研究していた事実は、以前から、知っていました。そして、原爆の直接の研究には、関わっていないとは思いますが、軍部が後援した京大の物理学のチームに、戦後、ノーベル賞を受賞された湯川博士と、朝永博士も、いらっしゃいました。その集合記念写真を、何かの媒体で見た記憶が、あります。科学とは、そうしたものなのでしょう。ご参考まで。
返信する
Unknown (杏子)
2021-08-17 02:33:20
>takey813さん
コメントありがとうございます。ドラマを録画されて、観ていらっしゃらないのですね。
確かにとても重い物語です。ノンフィクションも混ざっていますし。
もしかして日本が原子爆弾の研究をしていたというのは誰でも知っていることなのでしょうか?私が知らなかっただけなのでしょうか(-_-;)
軍が後援した京大の物理学のチームに、湯川博士や朝永博士もいらしたのですね。
私は丸っきりの文系人間で、物理も科学もサッパリですが、文明の進化には矛盾が付きまとうものなのですね。
返信する
日本も・・・か・・・ (ウラジーミル・アスポン)
2021-08-17 11:21:46
日本も原子爆弾の開発していた事は、私も初耳です。
それは知る人ぞ知るというレベルの話ではないですか・・・。
昨年NHKでパイロット版を放映した事で知る人がほとんどなのでは・・・。
私は、今、はじめて聞いたのです。
念の為、言うと、私は歴史、成績、そこそこでした。

その事を言わないで、アメリカの事をボロクソにこれまで批難してたのは不公平ですね。
わざと、学校では教えてないのでは・・・。
それを言ったら、広島・長崎の原爆では、100%被害者ぶれない気がするから・・・。
都合の悪い事は広く教えてないのは、日本も同じですね。

科学者の役を柳楽優弥がやっているのですね。
この人は目力が強いから、印象が強い感じになりそうです。
科学者の研究員も自分の本当に研究したい方向性とは
違う平気の開発は不本意ですよね。
この時代はどのジャンルに居ても強制的に戦争と関わりを持たされますね。音楽でも美術でも・・・。

兵隊だけではないですね。

この映画に戦闘シーンがないけど、戦地以外での
戦争とのかかわりが見れるのは興味深いですね。
返信する
Unknown (takey813)
2021-08-17 12:24:12
改めて、コメント失礼させて頂きます。今時、ご存知ないのは、普通だと思います。気にされることでは、ありません。敗戦前迄の帝国は、世界初の空母専用艦船を、開発しました。また、敗戦時に保有していた潜水艦400型は、戦後のミサイル搭載型潜水艦の発想の原点とされて、米ソ両超大国の船体争奪戦が、あったと聞きます。また、ドイツの技術供与により、米国の持たないジェット戦闘機やロケット戦闘機を、少数ですが、保持していました。と、言うより、もし、現在のコロナ禍が、武漢研究所の研究の思わぬ流出の結果だったとすれば。その研究基盤には、戦前帝国の細菌戦研究の731部隊の成果も、あるかも知れません。その成果は、米軍によって回収されましたが、大陸の前政権にもわたって、当然、共産主義帝国の細菌戦研究の基礎の一部にもなっていると思われます。また、我が国の戦後復興を担った重化学工業の大企業群は、ほぼ戦前の軍需産業の生き残りです。戦前日本は、世界に冠たる死の軍事帝国だったのです。ご参考まで。
返信する
Unknown (杏子)
2021-08-17 20:35:08
>ウラジーミル・アスポンさん
コメントありがとうございます。ウラジーミルさんもご存知なかったのですね。
アメリカとどちらが製造に成功するか、競っていたのですね。
一歩間違えれば日本が何万人ものアメリカ人を殺傷させていた訳で…加害者になっていたかもしれないんですよね。
確かにそれを学校で教えないことには疑問がありますね。
「原子核爆弾を先に作った方が戦争に勝つ」という思いで研究していたのですから。
この事実を知ったのは衝撃的でした。
柳楽くんは強い意志と葛藤を持ちながら研究に邁進する科学者を見事に演じていました。
もちろん他のキャストも素晴らしかったです。
「エジソンズ・ゲーム」という映画で、エジソンが自分が発明した機械が不本意ながら殺人に使われてしまい、
悩むシーンがありましたが、あれと同じですね。科学の発展には犠牲がつきものなのですね…
それが人間の宿命なのでしょうね。
戦闘シーンがないのでゆったりと流れる感じの映画ですが、独特のおもしろさがありましたよ。
現在上映中なので、機会がありましたら是非。
返信する
Unknown (杏子)
2021-08-17 20:50:09
>takey813さん
コメントありがとうございます。普通は知らないことなのですね。
日本は世界初の空母専用戦艦を開発したのですね。意外です。
アメリカの持たないジェット戦闘機やロケット戦闘機などを保持していたというのも、意外です。
戦時中の日本に対する私のイメージは、日本は小さくて弱い国なのにアメリカという大国に戦争を挑んだ、
無茶なことをしたのだという気持ちがあります。
でも日本はかなりの軍事力を持っていたのですね。日本人は頭がいいですからね…
731部隊のことは聞いたことがあります。細菌研究の礎を築いているのですね。
日本は負けるべくして負けたと思っていたので、世界に冠たる死の軍事帝国だったというのは驚きです。
有益なお話をありがとうございました。
返信する
糸屯 ちゃんねる℠ (白石純子)
2021-08-19 11:13:01
杏子んとこって、映画見に行って大丈夫なの? :O
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Unknown (杏子)
2021-08-19 16:33:51
>白石純子さん
コメントありがとうございます。大丈夫…ではないと思うんですけどね💦
感染者数最高を更新したし、緊急事態宣言出ることになりましたし。
でも映画館に行くのが生き甲斐なので、感染対策をして行ってます( ̄0 ̄;)
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Unknown (ななだい)
2021-09-03 17:40:05
こんにちは。

先日はコメント頂きましてありがとうございます。

太陽の子はNHKのパイロット版を見ておりました。日本が原爆の研究をしていたなんて知りませんでした。
かなり戦争についての資料館は行っている方なのですが…。
沖縄、長崎、広島等。
とても重い内容でしたが柳楽優弥さんが葛藤する科学者の役を上手く演じられて、そして三浦春馬さん…、死去後だったので余計に儚げに感じました。
彼の演技力も凄まじかったと思います。
こうした実話に基づいたドラマを観たり、戦争に関する資料館に行くにつけ、どれだけ優秀な若者の命が奪われてしまったか、戦争というものが何と虚しいものかと言う事を改めて思い知らされます。

こうしたドラマや映画でオススメがあれば教えて下さい。

ドラマや映画ではありませんがドキュメンタリー、映像の世紀は絶対に見逃さないようにしています。
返信する
Unknown (杏子)
2021-09-03 21:14:12
>ななだいさん
コメントありがとうございます。日本が原爆の研究をしていたって意外ですよねー。
原爆の資料館は小学校の修学旅行で長崎に行った時に見たきりです。
NHKのドラマは三浦春馬さんが亡くなって間もない頃だったので、何だか実感が湧かないというか
そんな気がしたのですが、今回の映画は1年経ってからだったので、「ああ、三浦春馬さんはほんとにもういないんだ」という深い思いがあり、
裕之の最後の姿とダブって見えて、泣けてきました。
この映画が日本とアメリカの合作というところも考えさせられました。

私は戦争映画はかなり観ています。ほとんど洋画ですが。なのでお勧めといってもキリがないのですが、
とりあえず日本映画の「月光の夏」はいかがでしょうか。
実話に基づいた映画で、ラストは涙、涙でした。
参考になりましたら幸いです。
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