人があんなにうれしそうな顔をするのを見たのは、チエちゃんがこれまで生きてきた中で、あの時が最初で、最後だったと思うのです。
チエちゃんとヒロシは、或る事情から入籍を先にし、その約2ヶ月後、結婚式を挙げたのでした。
その日、結納を交すと同時に入籍を済ませ、やっと二人だけで部屋に落ち着いた夜(つまり、初夜かな?実際はちがうけどね・・・)、ヒロシがチエちゃんに見せた笑顔。
これでもう、チエは俺の物だと言わんばかりのニヤケ顔。
あとから、あとから、うれしさが込み上げてくるその笑顔。
後に、夢であったクルマを手に入れた時でさえ、見せなかった笑顔。
子どもでさえも、あんなにうれしそうな顔をするのを見たことはありません。
チエちゃんは「人って、本当にうれしい時はこんな顔するんだ」と唖然と見つめていたことを覚えています。
それから、チエちゃんは、ヒロシに笑顔を返し、思いました。
よかった・・・
この人と結婚してよかった・・・
心から、そう思ったのでした。
私は、あの時、
ヒロシがチエちゃんだけに見せてくれたあの笑顔を、今も忘れることができません。
28年前の3月29日の出来事です。