シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

大統領の料理人(2012年フランス映画)

2013年09月21日 | 映画の感想・批評
 まずは最初に忠告を。空腹時に観るのはお奨めしない。観終わったころにお腹が空いてきて、たまにはちょっと贅沢してフランス料理を食べに行こうか、なぁんて時間帯の鑑賞がお奨めだ。“スクリーンの中のご馳走”は空腹の敵である。
 フランスのミッテラン大統領が二期目の再選を果たした時、大統領官邸のプライベートキッチンで2年間働いた女性シェフをモデルにした真実の物語である。
 大統領は素材を大切にする“おふくろの味”がする料理を作れるシェフを探していたところ、ミシュランシェフのジョエル・ロブションの推薦で、オルタンヌ・ラボリが選ばれる。彼女は伝統的な郷土料理を教える料理学校を設立し、自宅でも小さなレストランを経営するヴァイタリティ溢れる女性だ。
 彼女のキッチンから食卓に運ばれる数々の料理の美味しそうなこと。食通の大統領も大満足だったろう。しかし、メインキッチンの24人の男性シェフ連中には、面白くないことこの上ない。官邸のスタッフもメニューや食材の仕入れ先などに難癖をつけたりと、決して居心地のいい職場ではなかったようだ。それでも大統領とプライベートキッチンのスタッフに支えられて、周りの渦巻く嫉妬や雑音をやり過ごし、2年間奮闘したのである。それにしても、仕事のできる女が嫌われるのは古今東西共通のようだ。
 しかし、彼女は決してめげていない。官邸のシェフを辞めた後、なんと南極調査隊のシェフとなり、その後はトリュフの生産に適した場所を求めてニュージーランドに渡っている。美味しい料理を作って食べた人を幸せにするために挑戦を続ける彼女の情熱と気概に乾杯しよう。(久)

原題:Les Saveurs du Palais
監督:クリスチャン・ヴァンサン
脚本:エチエンヌ・コマール
撮影:ローラン・ダイヤン
出演:カトリーヌ・フロ、ジャン・ドルメッソン、イポリット・ジラルド

ホワイトハウス・ダウン(2013年アメリカ映画)

2013年09月11日 | 映画の感想・批評
 首都ワシントンで議事堂が何者かによって爆破され、続いてホワイトハウスが占拠される。館内に居合わせた副大統領と下院議長は何とか難を免れて脱出するが、大統領は警護隊長に先導されて緊急時用のシェルターに避難する。たまたまその日、警護隊員の面接試験に来ていた主人公は、ついでにホワイトハウス・オタクの愛娘を見学ツアーに連れて来ていて、ともに事件に巻き込まれてしまう。主人公は行きがかり上、大統領と行動を共にしながら館内を逃げ回る一方、見学者と一緒に人質となっている娘を救出しなければならないという公私のジレンマの中で、幾多の試練が怒濤のように押し寄せてくるのだ。それにしても、ホワイトハウスが落城してからのジェットコースター・ムービーぶりは鮮やかである。
 映画を何十年も見てきた人には最初にテロの首謀者が誰かわかってしまうという配役上の仕掛けがあり、おまけに終盤で本当の首謀者が別にいたという念の入ったどんでん返しが用意されている。
 ところで、大統領に万一のことがあった場合、大統領の継承順位が定められていて、まず副大統領が継ぎ、副大統領に事故あるときは下院議長が継ぐことになっている。合衆国史上これまで下院議長が継ぐという最悪の事態に至ったことはないけれど、映画では大統領がホワイトハウス内で消息を絶ち、副大統領もテロで殺された結果、下院議長に最終権限が委譲されるのである。
 ひとりの命と何百万人の命を天秤にかけた場合、後者を救うためには前者が犠牲になるのもやむを得ぬという論理は保守派の観点から見るとごく当たり前だろうが、リベラルの立場から果たしてそうかと、疑問を突きつけているように私には思えた。たったひとりの命も粗末にしてはいけないと言っているように。 (ken)

原題:White House Down
監督:ローランド・エメリッヒ
脚本: ジェームス・ヴァンダービルト
撮影:アンナ・J・フォースター
出演:チャニング・テイタム、ジェイミー・フォックス、マギー・ギレンホール、リチャード・ジェンキンス、ジェームス・ウッズ

「ひまわり ~沖縄は忘れない、あの日の空を~」 (2012年 日本映画)

2013年09月02日 | 映画の感想・批評


 「ひまわり」という題名を聞いて、自分を『映画』という素晴らしい世界に案内してくれた往年の名作を思い出した。イタリアの巨匠ヴィットリオ・デ・シーカ監督がソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニという当時の2大俳優を使って描いた恋愛ものだったが、今作と共通していたのは、ひまわりの花が、戦争が引き起こした悲劇を跳ね返して、力強く、美しく咲く花として描かれていたことだ。
 今も後を絶たない米軍機の事故。中でも2004年に米軍のヘリコプターが沖縄国際大学構内という教育現場に墜落した時は驚いたが、本土復帰前の1959年にもさらに悲惨な事故が起きていた。石川市(現在のうるま市)の宮森小学校にジェット戦闘機が墜落し、児童ら17名が死亡し、200人余りが負傷したというのだ。この作品は沖縄国際大学での事故を目撃した主人公・山城良太が45年前のあの事故を思い出すところから始まる。
 忘れたくても忘れられない思い出が心の傷となり、その悲しみを内へと閉じ込めていた良太だったが、変化が現れたのは、沖縄国際大生となった孫の琉一が、ゼミの仲間とともに宮森小ジェット機墜落事件のレポート活動を始めたからだった。若者たちの熱意に動かされ、琉一たちが主催した「基地と平和を考えるピースフルコンサート」に参加した良太は、蛇皮線を弾きながら決意を語る。あの日の空を決して忘れない…と。
 主人公良太を長塚京三がしっかり沖縄の人となって熱演。今年「あまちゃん」でブレイクした能年玲奈の初々しい演技や、「三丁目の夕日」の須賀健太の成長ぶりも見もの。そして沖縄出身の映画、演劇、音楽人が大結集。エンドロールに流れる全国津々浦々から集まったたくさんの製作協力を見ると、平和を願う人たちのこの作品への意気込みが伝わってくる。
(HIRO)

監督・及川善弘
脚本・大城貞俊、山田耕大
撮影・前田米造
出演・長塚京三、須賀健太、能年玲奈、福田沙紀、金森喜祐、鈴木裕樹