第二次世界大戦中のポーランドのアウシュビッツ収容所のドイツ人所長ルドルフ・ヘス一家は隣接する敷地に暮らしている。よく手入れされた庭には美しい花々が咲き乱れ、プールでは子どもたちが遊ぶ。通いの使用人も大勢いる、豊かな暮らしぶりである。所長夫人のヘートヴィッヒは「人生最高の住まい」として、大いに満足している。夫が収容所の業績を認められて、ドイツ国内に栄転での転居であっても受け入れられず、夫を単身赴任させてしまうほどの気に入りよう。
役者さんに罪はないのだけれど、この主演女優のザンドラ・ヒュラー、「落下の解剖学」でも最後まで好きになれなかった。はあ、ますます苦手になってしまう。それくらい役者として素晴らしいということなのだけれど。よく引き受けたなあ。
隣から運ばれてくる荷物を物色し、高価な毛皮のコートを羽織り、口紅を塗ってご満悦な表情。子どもたちの遊びの道具のなかには歯と思しきもの。庭にまかれる肥料は・・・・・鮮やかな花々が時に毒々しさを感じさせる。
隣の施設で何が起こっているか、知っているはずなのに、知らないふり。そもそも興味がなければ感覚もマヒするということを語っている。煙突から吐き出される黒煙、銃弾の音、悲鳴。最も原始的感覚である嗅覚さえも映像から想像させられてしまうというのに。関心がない!ということの恐ろしさである。
妻の母親が訪ねてくるが、音と匂いから隣の施設の実態を感じ取り、黙って去っていく。
長女と息子二人は平然と暮らしているのだが、三女の赤ちゃんは不穏な空気を感じているのか、泣き止まず、ベビーシッターは頭を抱えている。次女も眠れない夜は父親に絵本を読んでくれるようにせがむ。「ヘンゼルとグレーテル」だったか、魔女が焼き殺されるシーンがアニメで描かれるのだが、収容所とリンクして、思わずひ~っと声が出てしまった。
この映画のすごさは音だと思う。冒頭から何やら不穏な音がじわじわと締め付けるように迫ってくる。重低音に交じって、乾いた音、人の悲鳴のような声。
エンドロールも音楽なのか、効果音なのか、最後まで恐怖感をぐいぐいと押し付けてくる。誰も席を立つ人がいなかった。上映最終日、ようやく観に行けた。予想をはるかに超えて、お客さんがいた。
時折挟まれるリンゴを埋める少女の映像が理解しにくかったので、寝落ちしたのか?など気になるところは多々あれど、もう一度観に行く勇気は持てない。あの音の世界にはもう身を置けない。流れてこないはずの臭いを想像するだけでも恐ろしい。
ラストに描かれる現代のアウシュビッツ博物館。ガラス越しにおびただしい数の靴の山。黙々とガラスを磨く職員たち、ひょっとしたらこの映画の主人公と同じ感覚に陥ってないか。いや、それは私たち自身の姿ではないのか。
被害者であったユダヤ人、彼らの国が今、ガザを攻撃している。人間の愚かさを思う。
ひたすらしんどい映画だった。へたに想像力を働かせると、よけいにハードだわ。
それでも、関心領域を狭めてはいけない。同時に、想像する力も持ち得ていたい。
(アロママ)
監督:ジョナサン・グレイザー
脚本:ジョナサン・グレイザー
撮影:ウカシュ・ジャル
原作:マーティン・エイミス
出演:ザンドラ・ヒュラー、クリスティアン・フリーデル
役者さんに罪はないのだけれど、この主演女優のザンドラ・ヒュラー、「落下の解剖学」でも最後まで好きになれなかった。はあ、ますます苦手になってしまう。それくらい役者として素晴らしいということなのだけれど。よく引き受けたなあ。
隣から運ばれてくる荷物を物色し、高価な毛皮のコートを羽織り、口紅を塗ってご満悦な表情。子どもたちの遊びの道具のなかには歯と思しきもの。庭にまかれる肥料は・・・・・鮮やかな花々が時に毒々しさを感じさせる。
隣の施設で何が起こっているか、知っているはずなのに、知らないふり。そもそも興味がなければ感覚もマヒするということを語っている。煙突から吐き出される黒煙、銃弾の音、悲鳴。最も原始的感覚である嗅覚さえも映像から想像させられてしまうというのに。関心がない!ということの恐ろしさである。
妻の母親が訪ねてくるが、音と匂いから隣の施設の実態を感じ取り、黙って去っていく。
長女と息子二人は平然と暮らしているのだが、三女の赤ちゃんは不穏な空気を感じているのか、泣き止まず、ベビーシッターは頭を抱えている。次女も眠れない夜は父親に絵本を読んでくれるようにせがむ。「ヘンゼルとグレーテル」だったか、魔女が焼き殺されるシーンがアニメで描かれるのだが、収容所とリンクして、思わずひ~っと声が出てしまった。
この映画のすごさは音だと思う。冒頭から何やら不穏な音がじわじわと締め付けるように迫ってくる。重低音に交じって、乾いた音、人の悲鳴のような声。
エンドロールも音楽なのか、効果音なのか、最後まで恐怖感をぐいぐいと押し付けてくる。誰も席を立つ人がいなかった。上映最終日、ようやく観に行けた。予想をはるかに超えて、お客さんがいた。
時折挟まれるリンゴを埋める少女の映像が理解しにくかったので、寝落ちしたのか?など気になるところは多々あれど、もう一度観に行く勇気は持てない。あの音の世界にはもう身を置けない。流れてこないはずの臭いを想像するだけでも恐ろしい。
ラストに描かれる現代のアウシュビッツ博物館。ガラス越しにおびただしい数の靴の山。黙々とガラスを磨く職員たち、ひょっとしたらこの映画の主人公と同じ感覚に陥ってないか。いや、それは私たち自身の姿ではないのか。
被害者であったユダヤ人、彼らの国が今、ガザを攻撃している。人間の愚かさを思う。
ひたすらしんどい映画だった。へたに想像力を働かせると、よけいにハードだわ。
それでも、関心領域を狭めてはいけない。同時に、想像する力も持ち得ていたい。
(アロママ)
監督:ジョナサン・グレイザー
脚本:ジョナサン・グレイザー
撮影:ウカシュ・ジャル
原作:マーティン・エイミス
出演:ザンドラ・ヒュラー、クリスティアン・フリーデル