ライトノベルが原作の青春ラブストーリー。挑発的なタイトルに惹かれたが、映画を観終わった時にこのタイトルの意味がわかる。原作本の最後の言葉「愛には終わりがない」にふさわしく、余韻が残る作品だ。
師走のある日、受験を間近にひかえた高校三年生の濱田清澄が、全校集会で酷いいじめにあっている一年生の蔵本玻璃に出会ったことから物語は始まる。玻璃の第一印象は強烈だ。ボサボサの長髪に顔もおおわれ、声をかけた清澄に意味不明の奇声を発する。最初はとまどう清澄だが、次第に自分を語る言葉をもつ愛らしい後輩だと気づく。やがて二人は少しずつ心の距離を縮めていく。
ある夕方、玻璃がトイレに閉じこめられ、上からバケツの水をかけられ寒さに震えているところを清澄が助けだす。クリーニング店のおばちゃんの計らいで、制服が乾くあいだ二人は清澄の家で待つことに。温かいカップおしるこにお餅が二つ入っていて大喜びする玻璃。しかしすぐに相手のカップにお餅が入っていないと気づく。照れる清澄と大感激する玻璃。互いを思いやる微笑ましい場面に、こちらの心も和んでくる。
配役がいい。清澄役の中川大志はヒーロー願望の強い、ちょっと痛い先輩を好演。無造作におろした前髪のその奥のまなざしに、この年頃の青年の照れがかいま見えて魅力的だ。玻璃役の石井杏奈は、見る角度によって表情が変わる能面様の顔立ちと、柔らかいが凛とした声が適役だ。また、松井愛莉・清原果耶姉妹の助詞を省略した短いセリフが、ぶっきらぼうだが暖かみを感じさせて効果的。
清澄はしっかり者の看護師の母親との二人暮らし。玻璃の家は父親と祖母の三人家族で、母親はすでに家を出て行ったという。前半は学校が主な舞台となっているが、生徒の描写はあっても教師の姿はない。この作品には男性性として機能するものがない。後半で玻璃の父親が姿を現わすが、それは脅威以外の何者でもない。
UFOに狙われていると訴える玻璃。了解不能な出来事をUFOのせいにすることで、自分の置かれている状況と折り合いをつけようとしていたと徐々にわかっていく。その姿は痛ましいが、ある意味たくましくもある。玻璃の家庭に清澄が介入することで、物語はサイコスリラーの様相を帯びてくる。堤真一が狂気に満ちた父親を巧みに演じていて怖い・・・。玻璃の渾身の一撃でUFOにおおわれていた世界は砕け散る。
家庭内暴力や虐待、いじめ、殺人とシリアスな背景があるにもかかわらず、不思議と清々しさと希望の光を感じる作品だ。そういえば劇中で街灯や車のライトや木漏れ日など、点滅する光が清澄と玻璃を包みこんでいた。
この監督の作品を観るのは初めてだが、作品にスマホを登場させなかった監督(脚本)の感覚が好きだ。(春雷)
監督:SABU
脚本:SABU
原作:竹宮ゆゆこ
撮影:江﨑朋生
出演:中川大志、石井杏奈、井之脇海、清原果耶、松井愛莉、北村匠海、矢田亜希子、木野花、原田知世、堤真一