シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「ゲティ家の身代金」(2017年、アメリカ・イタリア)

2018年05月30日 | 映画の感想・批評
 1973年というから、今からもう45年ばかり前の事件である。アメリカの石油王ジャン・ポール・ゲティのハイティーンになる孫ジョン・ポール・ゲティⅢ世がイタリアで誘拐される。私も当時センセーショナルに報じられた外電をよく覚えている。ところが、飽くことのない金銭欲に凝り固まったこの大富豪は身代金の要求に対して、記者団を前に「一文たりとも払うつもりはない」と言い放つのだ。
 実はこれには色々と事情があって、大富豪の三男坊(ゲティ・ジュニア)夫婦の長男(Ⅲ世)が誘拐されるのであるが、このジュニアがダメ男で父親の期待に応えられず挫折し薬漬けとなって、とうとう離婚する羽目になる。しっかり者の妻ゲイルは慰謝料を受け取らないかわりに子どもたちの親権を獲得する。いうなれば、大富豪にとっては大打撃で、このときゲイルとの確執が生じるのである。
 しかし、大富豪も人の親であり祖父である。実のところ、大勢いる孫の中でもジョン・ポールⅢ世がとりわけかわいいらしい。そこで、かつてCIAに在籍した元諜報員チェイスを雇って誘拐犯たちと交渉させるのである。こうして、ゲイルとチェイスを軸にⅢ世救出の秘策が練られるのである。
 いくらかフィクションの部分があるので、真実かどうかわからないが、Ⅲ世を誘拐した実行犯のイタリア人がその面倒を見る役割を与えられてアジトを転々とするうちに、Ⅲ世に対して徐々に情が移ってくるという設定がおもしろい。
 それと、大富豪の拝金主義、人間不信と、その裏腹にある家族愛みたいな心情が映画に膨らみを持たせ、老優クリストファ・プラマーがいい芝居をする。
 スコット監督は、往年の名匠ラオール・ウォルシュやヘンリー・ハサウェイを彷彿とさせるいつもながらのタフな力業で133分の長丁場を飽きさせずに観客をハラハラさせる。とても80歳とは思わせない力業で。
 ところで、Ⅲ世を演じた若手有望株チャーリー・プラマーはクリストファ・プラマーとは無関係らしい。また、当初の配役ではケヴィン・スペイシーが大富豪を演じる予定だったが、例の醜聞によって交替したそうだ。(健)

原題:All the Money in the World
監督:リドリー・スコット
原作:ジョン・ピアースン
脚本:デヴィッド・スカルパ
撮影:ダリウス・ウォルスキー
出演:ミシェル・ウィリアムズ、クリストファ・プラマー、マーク・ウォールバーグ、チャーリー・プラマー、ティモシー・ハットン、ロマン・デュリス

「ザ・スクエア/思いやりの聖域」 (2017年 スウェーデン、他)

2018年05月23日 | 映画の感想・批評
 本日よりシネマ見どころの執筆陣に加わるKOICHIです。よろしくお願いします。

 第70回カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作。傍観者効果、現代美術への懐疑、ココロの病を持つ人への行き過ぎた配慮と偏見、SNSを故意に炎上させる宣伝方法、奔放なアメリカ人記者との恋愛 etc・・・多種多様なテーマがふんだんに盛り込まれている。
 主人公のクリスティアンは現代アート美術館のキュレーターで、「ザ・スクエア」と題する参加型のアート作品の展示を計画していた。現代アートはアーティスト以外に、作品の解釈をするキュレーターや評論家の存在が不可欠で、展示や説明を担うクリスティアンはある意味で作品の共同制作者とも言える。そんなクリスティアンの周囲で起こる事件の数々を、オストルンド監督は意地悪でアイロニカルな視点で描いている。
 猿のパフォーマンスをする男の行き過ぎた行為を、誰も止めようとしないシーンがある。これは傍観者効果というよりも、パフォーマンスを制止すると自分が現代アートを理解していない無粋な人間になってしまうからだ。ところがいったん誰かが止めに入ると、他の人々も加勢して「殺せ」と叫び出す。極端から極端へと移行する集団心理の怖さがある。
 トークイベントの際に、ココロの病を持つ観客が女性司会者に卑猥な言葉を投げつける。女性に対する明らかな侮蔑の言葉だが、誰も止めようとはしない。病気だから仕方がない、注意しても理解されない、病人や障害者は社会性がなくても構わないという配慮(?)が働いているのだろうが、まさにこれこそが偏見ではないだろうか。このような考え方が真逆の方向に走れば、猿のパフォーマンスの時のように「病人や障害者は殺せ!」という極論に走ってしまう可能性がある。監督の冷ややかな視線の裏には、偏見に満ちた現実と集団心理への深い憂慮があるのではないか。
 人々を冷笑するような場面が多いが、監督が唯一、熱意を持って真摯に描いているのが貧困層への偏見と階層間の断絶の問題である。クリスティアンは、ある日財布とスマートフォンを盗まれてしまう。GPSを使って盗品のありかを捜し出すと、そこは貧困層の住む地域にあるアパートだった。一計を案じたクリスティアンは脅迫文めいたビラをアパートの全戸に配り、なんとか財布とスマートフォンを取り戻す。だが、そのビラを読んだ住人の一人が自分の息子が犯人だと勘違いし、無実の子供に制裁を課してしまう。怒った子供はクリスティアンの前に現れ、無実の証明と謝罪を要求するが、クリスティアンは子供を冷たくあしらってしまう。やがてクリスティアンは非を認め、先入観にとらわれている自分を反省し、子供とその両親に謝罪するべく再び貧困地域を訪れるのだが・・・(KOICHI)

原題:The Square
監督:リューベン・オストルンド
脚本;リューベン・オストルンド
撮影:フレドリック・ヴェンツル
出演:クレス・バング、エリザベス・モス、ドミニク・ウェスト  

サバービコン 仮面を被った仮面(2017年 アメリカ映画)

2018年05月16日 | 映画の感想・批評


 1950年代のこれぞ“アメリカ!”という白人ばかりの富裕層(中間層かも?)の住宅街に住む一家を中心に繰り広げられるドラマである。一家は、父親(マット・デイモン)、足の悪い母親(ジュリアン・ムーア)、その母親の妹(ジュリアン・ムーア二役)と、息子(ノア・ジェーブ)の4人家族である。
 そんな一家のとなりに、ある日、黒人一家が引っ越してくるところから物語が始まる。すぐに、住民会議が開かれ、「黒人を追放しよう」と盛り上がり、黒人の入居を承認した役人らしき人物までもが悪者にされてしまう始末である。そうか、この映画は、トランプ政権への批判をテーマとした映画なのかと思いきや、映画は進んで、ある晩、白人一家に強盗が押し入り、足の悪い母親があっけなく殺害されてしまうのである。うんっ?これは、サスペンスも絡めるのかと思いきや、犯人はこれまたあっけなく分かってしまい、サスペンスではなく、一連の犯人の行動から、男女の恋愛感情や親子の愛情を絡めるのかと思いきや、最後まで、どれも充分絡まないという状況で終わるのであった。
 脚本がコーエン兄弟なので、難解な表現が多いとは予想していたが、予想以上の結果だった。自分には、かなり難易度の高い内容だった。映画に掛ける想いが多すぎて、題材をたっぷり盛り込んだので、時間が足りなかったかもしれない。実は、コーエン兄弟はもっと大作にしかったのではないかと勝手に推測してしまった。あるいは、最近は、トランプ政権を批判する俳優や映画関係者が多いようだ。ぱっと思い出すだけでも、スピルバーグ・スピルバーグ監督「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」やキャサリン・ビグロー監督「デトロイト」もその傾向があると思う。コーエン兄弟もそう思っているのであれば、人種問題だけにテーマを絞ってみても良かったのではと思う。
 ここからは、ネタバレに繋がるので未見の方は注意してもらえればと思うが、疑問点が多く出てくる映画だった。何故、父親と義理妹は、母親の殺害を計画した?単なる、男女の感情?お金?何故、ジュリアン・ムーアの二役は必要だった?何故、黒人は白人の住宅街に引っ越してきた?そして、何故、黒人の住居を認めた?等々・・・。いつもは、鑑賞中には、疑問点は出てこないのだが、本作は、次から次へと疑問点が出てきた。私の理解度の乏しさを踏まえても、もう少し、説明があれば良かったのかなと思う。
(kenya)

原題:「SUBURBICON」
監督・脚本:ジョージ・クルーニー
脚本:ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン
撮影:ロバート・エルスウィット
出演:マット・デイモン、ジュリアン・ムーア、オスカー・アイザック、ノア・ジューブ、グレン・フレシュラー、アレックス・ハッセル、ゲイリー・バサラバ、ジャック・コンレイ、カリマー・ウェストブルック、トニー・エスピノサ、リース・バーク他

君の名前で僕を呼んで(2017年イタリア、フランス、ブラジル、アメリカ)

2018年05月09日 | 映画の感想・批評


 昨年ノーベル文学賞(今年はセクハラ疑惑のあおりで受賞が見送られたが…)を受賞したカズオ・イシグロの「日の名残り」の監督ジェームズ・アイヴォリーが、本作で本年度アカデミー賞脚色賞を受賞した。結果は残念だったが、エリオ役のティモシー・シャラメも主演男優賞にノミネートされ、史上最年少受賞を期待されていた。
 1983年夏、北イタリアの避暑地。17歳のエリオは、大学教授の父の助手で、アメリカからやってきた24歳のオリヴァーの自信に満ちた態度に反発を感じながらも、次第に惹かれていく。オリヴァーもまた、年の割には大人びたエリオに惹かれていく。自分の感情に戸惑いながらもオリヴァーへの気持ちを隠せず、ついつい態度に出てしまうエリオに比べ、オリヴァーはエリオを傷つけまいと普通に接しようとする。それでもまるで磁石のように引かれたり、反発したりしながら、2人は恋に落ちていく。
 エリオの両親の2人への接し方がいい。エリオとオリヴァーの感情に気づきながらも、2人を遠ざけようとしない。夏が終わりアメリカに帰る日が近づいたオリヴァーを送りがてら2人で旅行することになるが、むしろいい思い出になると喜んでくれる。また、エリオか帰ってきた時に父親が自分の若い頃の思いを息子に語るシーンがある。同性を好きになることを非難したり否定しないで、人を愛することを知った息子に温かい言葉をかける、こんな父子関係ってなんて素敵なのだろうと思った。
 この父親のセリフがあってこそ、オリヴァーへの恋心を昇華させようとしてラストのロングショットでみせるエリオの表情が生きてくる。主演男優賞ノミネートもうなずける。
 映画を見ながら旅先のチェコでのある光景を思い出していた。プラハから東へ65㎞のクトナー・ホラという小さな都市に、内部が4万人の人骨で飾られた墓地教会(納骨礼拝堂)がある。せっかく訪れたが中に入る勇気がなく入口前にたたずんでいると、2人の男性が教会から出てきた。2人ともとても美男子で明らかに恋人同士だとわかる雰囲気を漂わせていた。「君の名前で…」でいえばエリオタイプの繊細そうな彼が教会の見学で少し色を失っているようなのを、オリバータイプの彼が優しく気遣っていた。あれから7年の歳月が流れたが、2人にはエリオとオリヴァーのような別離が訪れていなければいいのだが…。
 4月28日から2週間だけだが、幼なじみの少年たちを描いたアイスランド映画「ハートストーン」が京都シネマで上映されている。思春期にさしかかり美少女に夢中になるソールを応援しながらも、内に秘めた親友への特別な感情に気づき当惑するクリスティアン。こちらも2人の美少年が主人公だが、「君の名前で…」よりも辛いラストを迎える。南欧と北欧では太陽の日差しが違うように、映画の空気感にもこれほど差があるのかと思ってしまった。(久)

原題:Call Me By Your Name
監督:ルカ・グァダニーニ
脚色:ジェームズ・アイヴォリー
原作:アンドレ・アシマン 「君の名前で僕を呼んで」
撮影:サヨムブー・ムックディープロム
出演:ティモシー・シャラメ、アーミー・ハマー、マイケル・スタールバーグ、アミラ・カサール

「レディ・プレイヤー1」 (2018年 アメリカ映画)

2018年05月02日 | 映画の感想・批評


 CGや3D、4D作品と進化し続ける映画に、また一つ革命が起きた。それはVR(バーチャルリアリティ)の世界を観客も一緒に体感しようというもの。時は2045年。荒廃した街とは裏腹に、VRの世界は素晴らしい進歩を遂げ、若者たちに希望を与えていた。そこは「オアシス」と呼ばれ、専用のキットを身に着けてログインすれば、もう一つの世界に入り込み、別の人生を楽しむことができるのだ。そのオアシスの創設者が亡くなり、遺言でオアシスに隠された3つの謎を解き明かした者に全財産を与え、オアシスの後継者に任命すると発信したものだからさあ大変。世界中で膨大な遺産をかけた争奪戦が繰り広げられることとなる。
 最先端の映像技術でVRの世界を作り上げ、さらに謎解きゲームの楽しさを合体させたこの快作を監督したのは、なんとスティーブン・スピルバーグ。1970年代からもう半世紀近く活躍し続け、世界中で最も有名な監督といっても過言ではない巨匠が、社会派ドラマの傑作「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」に続いて、こんな若者受けする娯楽作を発表するとは、ファンにとってうれしい限りだ。
 原作はアーネスト・クラインのベストセラー「ゲームウォーズ」。未来世界でありながら1980年代のスタイルや文化を祝福しているこの原作を、スピルバーグは自分好みに楽しく、また自分が生きてきた時代を振り返って感慨深く料理しました、との感ありあり。いやあ、出てくる、出てくる!映画、音楽、ゲーム、コミックなどあらゆるポップカルチャーから有名キャラクターたちが大集合。その中には日本生まれの「AKIRA」のバイクやメカゴジラ、ハロー・キティにガンダム、三船敏郎のそっくりさんまでいて、今回久しぶりに来日したスピルバーグの日本びいきな面を再確認。自分が知っている映画のシーンやキャラを見つけ出す度に嬉しくなり、思わず歓声が…。今回は久しぶりに3Dで観たが、3Dメガネをかけることによってゴーグルを装備した主人公と同じようにVR空間をさまよったような感覚が得られ大正解。未見の方にはぜひ3Dでの観賞をお勧めしたい。
 ところで今、格闘技やサッカーなどコンピューターでの対戦型ゲームを五輪種目にするかどうかが話題となっている。国際オリンピック委員会は2024年のパリ大会での採用を検討しているそうだが、果たしてゲームはスポーツと捉えられるだろうか。スピルバーグなら、将来インターネットのプロバイダー会社がゲームをすることを仕事として人を雇うぐらいだから、当然アリと答えそうだが、今まで数々の作品を世の中に贈り出してきた監督、その実績があるからこそ最後に主人公に言わしめたのだろう。やっぱり「現実も大事」だよと。
(HIRO)

原題:READY PLAYER ONE
監督:スティーブン・スピルバーグ
脚本:アーネスト・クライン、ザック・ペン
撮影:ヤヌス・カミンスキー
出演:タイ・シェリダン、オリビア・クック、ベン・メンデルソーン、リナ・ウェイス、サイモン・ペッグ、マーク・ライランス、森崎ウィン、フィリップ・チャオ、ハナ・ジョン=カーメン