お盆の大文字の送り火や地蔵盆のろうそくの炎を見ていると、とても美しく、何か幻想的な雰囲気に浸ることができるものだが、この人間が便利に使っている火も自然界においては脅威となることがある。ハワイのマウイ島で起こった山火事の様子を見ていると、とても人間の力では太刀打ちできない強大なパワーを感じたが、そこには風の力も、大きく関わっていたようだ。
ピクサー・アニメーション・スタジオの最新作は、アリストテレスの時代から物質界を構成すると考えられていた4つの基本物質(fire,water,air,earth)の世界を描いた「マイ・エレメント」。「トイ・ストーリー」でおもちゃの世界を描いた後、モンスターの世界、海の中の世界、死者の世界など、様々な想像力溢れる世界を紹介してきたピクサーだが、今回は物質の基本となるエレメントの世界を描こうというのだ。もっともアニメの世界だから、そんなにお堅い話ではないのだが・・・。
主人公は"火のエレメント"エンバーと、"水のエレメント"ウェイド。エンバーは火のエレメントらしく短気ですぐに怒りが充満し、めらめらと燃え上がってしまうけれど、家族思いの賢いエレメント。父・バーニーが営む店ファイアプレイスを手伝いながら、ゆくゆくは引き継ごうと考えている。ウェイドは涙もろくて心優しい、市役所で働く青年。誰に対しても親身になって接し、思いやりに溢れ、家族みんな陽気で仲がいいのだが、そろって涙もろく、その涙の量ときたら・・・。火と水、全く正反対の二人なのだが、店の大セールの日、勝手な客に対するエンバーの怒りのエネルギーが、店の水道管に亀裂を生み、溢れた水の中からウェイドが現れる。この二人の出会いが、エレメント達の世界に何を引き起こしたかというと・・・。
様々な「もしも」の世界を描き続けてきたピクサー、CGの技術革新とともに、それまで表せなかった視覚効果を絶えず新しい形で生み出してきたのだが、今回は4つの特徴あるエレメント達が住む世界があり、それぞれに違った文化を持ち、キャラクター達も全く異なる。ということで今までにない多くのアニメーター、VFXのプロ達が各エレメントごとにチームを組み、独特の世界を構築していったそうで、それは見応えのあるシーンの連続となっている。
また、舞台となるエレメント・シティが火、水、土、風が集まり、互いに楽しい関係を築くことができる希望に溢れた町になっているところが魅力的だ。ここは様々なエレメント達が次々移住してきた移民の街。実は監督のピーター・ソーンも両親が1970年代に韓国からニューヨークに移住してきたという移民2世で、主人公のエンバーと共通するものがある。エンバーがウェイドと出会い、お互いの良さを認めていくにつれ、街はますます魅力的に感じられるようになっていく。ここには、すでに多くの移民が集うニューヨークだけではなく、世界中のあらゆる街が、移民達に優しく、一人ひとりの力が発揮できる場所に変わっていってほしいと願う、監督の強い希望が感じられた。
火と水という、ともすればお互いを消滅させてしまう危険性もあるエレメントが触れ合ったとき、果たしてどのような反応が起きるか、これは最大の見どころだが、自然界でも、お互いの良さを引き出すような、ほどよい調整力が生まれればと願う。しかし、地球温暖化に伴い、ますます厳しい現実となることが予想され、それに備える準備はしっかりしておく必要がありそうだ。やっぱり堅い話になってしまったか・・・。
(HIRO)
原題:ELEMENTAL
監督:ピーター・ソーン
脚本:ジョン・ホバーグ、キャット・リッケル、ブレンダ・シュエ
視覚効果:サンジェイ・バクシ
声の出演:リーア・ルイス、マムドゥ・アチー、ロニー・デル・カルメン、シーラ・オンミ
日本語版声の出演:川口春奈、玉森裕太、MEGUMI,伊藤きみお