シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「追憶」(2017年日本映画)

2017年05月21日 | 映画の感想・批評
 少年時代のつらい時期を一緒に過ごした3人が、ある事件をきっかけにバラバラの生活を送ることになるが、25年後、想像さえしなかった形で再会することとなり・・・。
 本作品は、降旗康男監督と木村大作撮影監督のコンビ16本目となる映画で、時代設定は、現在の平成であるが、今までタッグを組んだ「駅STATION」「夜叉」「鉄道員(ぽっぽや)」といった昭和の香り漂う作風に仕上がっている。特に、冒頭の町の風景は、昭和の映画でよく観た力強い映像だと感じた。
 物語は、人が成長していく中で抱える矛盾、不条理、虚しさといった悲しみを、そして、誰しもが平等に与えられる、そして、逃れられない「時の経過」を描いているように感じた。映画ならではの、時間軸を根に据えた重厚な映像美の連続で、しかも、それを、99分という上映時間に収めたのが素晴らしく、大御所が余裕たっぷりに作り上げた貫禄を感じた。欲を言うと、もう少し尺が長くても良いので、離れ離れになっていた25年間の3人の3人への想いを描いてもらうと、会えなくても会えなかった、そして、言いたくても言えなかったという哀しみがより深く感じられたのではないかと思う。
 それにしても、岡田准一は真面目な人だと想像する。この作品が、感情を内面に抱え込む役柄であることもあるだろうが、演技に力が入っていて、「クソ」が付くくらい真面目な演技で、正直、観ていて少し疲れた。それに対し、小栗旬は自然体、柄本佑は技巧派という印象。なので、監督が意図的にバランスは取ったのかと勘ぐってしまう。それにしても、岡田の演技はとにかく濃い。更に、熱い。脇役陣の長澤まさみは、短いながらも「海街diary」と比べると更にレベルアップした印象で、安藤サクラも安定感抜群と感じた。この映画は、物語に加え、映像や俳優陣の演技を観るだけでも楽しめる内容であった。テーマ曲も映像にピッタリで泣かせる。
(kenya)

監督:降旗康男
撮影:木村大作
原案・脚本:青島武、瀧本智行
音楽:千住明
出演:岡田准一、小栗旬、柄本佑、長澤まさみ、木村文乃、矢島健一、北見敏之、安田顕、三浦貴大、高橋努、渋川清彦、りりィ、西田尚美、安藤サクラ、吉岡秀隆他

「3月のライオン・前編&後編」 (2017年 日本映画)

2017年05月11日 | 映画の感想・批評


 近年、前後編に分けて公開される作品が増えてきた。ヒットすれば興収もほぼ倍増となり、関係者たちを潤すことになるのだが、前編の出来次第で後編の興行が左右されるのも確か。最近の成功例としては「64ロクヨン」(前編19億円⇒後編17億円)があげられるだろうか。「ちはやふる」(16億円⇒12億円)や「寄生獣」(20億円⇒15億円)はまだ合格としても、「進撃の巨人」(33億円⇒17億円)のように半減してしまう例もある。観客は何ともシビアだ。さて、この「3月のライオン」の結果はいかに。
 原作は羽海野チカが描いたベストセラーコミック。2007年に連載が開始され、今も続行中である。前編で描かれたのは、17歳の将棋のプロ棋士桐山零と、個性際立つ棋士たちとの闘いの数々。静かなはずの対局場面が、まるでアクション映画のように感情の高まりでぶつかり合う。監督は大ヒット作「るろうに剣心」ではじけた大友啓史。まさに本領発揮、特に最高峰を決める師子王戦トーナメントで、将棋の神の子と恐れられる宗谷名人との対戦を最後に持ってきたのは効果的だった。これはもう、後編を見るっきゃない。
 主人公の零を演じるのは、神木隆之介。「妖怪大戦争」で日本アカデミー賞新人賞を受賞して以来、「桐島、部活やめるってよ」「バクマン」など、数々の話題作に出演。今回も原作の零になりきっている。共演陣も豪華で、現在NHKの朝ドラ「ひよっこ」で活躍中の有村架純の汚れ役をはじめ、対戦相手となる棋士に佐々木蔵之介、伊藤英明、加瀬亮などが扮し、その熱演ぶりが見る者の心をとらえて離さない。
 後編は零がかかわってきた二つの家族のエピソードを中心に描かれる。一つ残念だったのは、零を温かく包んでくれている川本家の三姉妹のところに、実の父親が舞い戻ってきたときに、思わず零が発してしまった言葉が「人間のクズ」。原作にあるなら仕方がないかもしれないが、こんな最低の言葉を聞いてしまうと、見るほうも思わず引けてしまい、その後は零を応援する気が失せてしまったのも確かだ。
 ラストで再び宗谷名人との対戦に向かうシーンと、バックに流れる「春の歌」は好印象だったが、現実社会では14歳の最年少プロ棋士、藤井聡太クンのデビュー18連勝の話題でもちきりだ。「事実は小説(映画)よりも奇なり」とはよく言ったものだが、彼の活躍が果たしてこの作品には吉と出るか、凶と出るか、気になるところである。
 (HIRO) 

監督:大友啓史
脚本:大友啓史、岩下悠子、渡部亮平
撮影:山本英夫
原作:羽海野チカ
主演:神木隆之介、有村架純、倉科カナ、染谷将太、清原果耶、佐々木蔵之介、加瀬亮、前田吟、伊藤英明、豊川悦司、高橋一生、伊勢谷友介

「ムーンライト」(2016年、アメリカ映画)

2017年05月01日 | 映画の感想・批評


 この映画は、今年のアカデミー賞で最優秀作品賞を獲得した秀作である。「リトル」「シャロン」「ブラック」の3章立てで構成されている。
 冒頭、10歳くらいの男の子が学校帰りに何人もの同級生に追っかけられて無人のアパートの一室に隠れる。いじめである。そこへクスリの売人をやっている長身の黒人男が偶然やって来て怯える少年を見つけ、レストランで飯を食わせたあと、とりあえずガールフレンドの家に連れて行くのだ。この男が威圧感はあるがヤケにやさしくて、そのまたガールフレンドも子どもを扱うのがうまい。こうして、母一人子一人の少年シャロン(愛称リトル)は男の庇護下で成長する。母親は薬中でほとんど生活能力を欠いており、少年は男とそのガールフレンドを頼るしかないのだが、その母親が息子を男にかまわれるのが我慢ならないらしくて、昂然と言い放つセリフが痛い。「あの子がなぜいじめられるのか、歩き方を見ればわかるでしょ」と。
 黒人、母子家庭、貧困はそれだけでも十分に弱者として抑圧される対象となるのだが、西ヨーロッパならまだしも、ここはアメリカだし、おまけに保守的な南部だ。男であれば当然にマッチョであらねばならないしタフであることが求められ、ましてゲイであるなどもってのほか、10歳の少年ですらもはや徹底的に忌避され差別される客体となるのである。
 やがて、高校生となったシャロンは、いかにもちっぽけなという感じの「リトル」という愛称から、かれを唯一理解する腕力自慢の友人に“ブラック”と呼ばれるようになる。少し強そうな名前ではないか。しかし、シャロンはこの友人を巻き込んだある事件がきっかけで少年院に収監されるのだ。
 人生の歯車が狂ったまま、”ブラック”は町を出たが、結局、少年期にかれをかばってくれた今は亡き男と同じ道(クスリの売人)を歩んでいるのである。機会均等の国でさえ、このようにマイノリティは埋没して行かざるを得ない現実があるのだろう。何か、世界的な潮流という予感がして落ち着かなくなるのは私だけだろうか。
 かれを”ブラック”と名づけた高校時代の友人との久方ぶりの再会で、ふたりはかつて夜の浜辺の月光の中で忘れられない衝撃的な出来事を経験したのだが、その想い出にひたるラストがせつなくて、いとおしい。(健)

原題:Moonlight
監督:バリー・ジェンキンス
原作:タレル・アルヴィン・マクレイニー
脚本:バリー・ジェンキンス
撮影:ジェームズ・ラクストン
出演:トレヴァンテ・ローズ、アンドレ・ホランド、ジャネール・モネイ、ナオミ・ハリス、アシュトン・サンダーズ、マハーシャラ・アリ