シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「ジャージー・ボーイズ」(2014年アメリカ映画)

2014年10月21日 | 映画の感想・批評


 トニー賞受賞のブロードウェイ・ミュージカルの映画化である。御年84歳のクリント・イーストウッドは、かねてより音楽的感性にすぐれた巨匠だと思っていたが、50代の終わりに撮ったチャーリー・パーカー伝「バード」から30年近い年月を経て、再び音楽の世界を描く機会を得た。
 ニュー・ジャージー州の田舎町にたむろする十代後半の不良グループ3人がバンドを組み、やがて才能のある作曲家志望の若者を加入させたことによって、フォー・シーズンズというグループ名でメジャーデビューを果たすのである。リーダーのトミーは根っからのワルで遊び人。低音が売りのニックは気はいいけれど脳天気。ボーカルのフランキーは個性の光る抜群の歌唱力で中心的存在。作曲担当のボブは野心満々の自信家。そのうち、トミーが裏の世界から多額の借金をしていて追いたてられていることがわかり、グループは危機に瀕する。
 借金の取り立てが現れるスタジオは今まさにエド・サリバン・ショーが始まろうとしているそのときで、例の分厚い身体を猫背で丸めるサリバンがフォー・シーズンズを紹介する後ろ姿が捉えられる。このサリバンの背後からのシルエットがそっくりだった。そっくりといえば、若き日の「ジョー・ペシ」が調子の良さそうなエージェントまがいとして出てくるのも笑わせる。それにしてもよく似た俳優を見つけてきたものだ。
 フランキーを可愛がる地元の顔役に扮したクリストファ・ウォーケンが渋くていい。ラストで出演者が一堂に会して踊るというサービスは「舞妓はレディ」でもやっていたが、ウォーケンまでが踊り出すのには思わず頬が緩んでしまった。 (ken)

原題:Jersey Boys
監督:クリント・イーストウッド
脚本:マーシャル・ブリックマン、リック・エリス
撮影:トム・スターン
出演:ジョン・ロイド・ヤング、エリック・バーゲン、クリストファ・ウォーケン、ヴィンセント・ピアッツァ、マイケル・ロメンダ

「ふしぎな岬の物語」 (2014年 日本映画)

2014年10月12日 | 映画の感想・批評


 「北のカナリアたち」から2年、サユリスト待望の新作。映画出演118本目となる本作では、初めて企画も手掛け、モントリオール世界映画祭で「審査員特別賞グランプリ」と「エキュメニカル審査員賞」の2冠受賞という快挙を遂げる。劇中でカフェに集う人々同様、審査員たちも格別の小百合マジックに心が癒された感あり。
 美しい海を臨む岬にある「岬カフェ」。店主・悦子は早くに夫を亡くし、一人でカフェを営んできた。そこで飲むとびきりおいしいコーヒーと、悦子との和やかな語らいが村人たちの楽しみ。“永遠のマドンナ”吉永小百合ならではのヒロイン像だ。そんな彼女をカフェの裏で「何でも屋」を営みながら見守る甥の浩司。自由気ままに生きる岬村の“問題児”だが、その純で一途な人柄は村を引っ張っていく大事な原動力でもある。阿部寛のダイナミックな身体とコミカルな演技が役にピッタリだ。常連客の代表、不動産屋のタニさんに笑福亭釣瓶。30年間カフェに通い詰め、悦子に想いを寄せているのだが、その告白シーンが何とも微笑ましい。この二人は吉永が直々にオファーしたらしいが、それに応えようと懸命の演技だ。他にも竹内結子と笹野高史が演じる出戻り娘と父親、東京から虹を追いかけてやってきたという父娘、店に忍び込んだドロボー等、様々な思いを背負った人々が登場し、悦子の入れたコーヒーに元気をもらって再生していく。
 監督は「孤高のメス」「八日目の蝉」などの名作を手掛けた成島出。モチーフとなった喫茶店がある千葉の岬にオープンセットを作り、オムニバス形式でエピソードが連なる原作の温もりを大切にしながら、味わい深い作品に仕上げた。
 おいしいコーヒーにはおいしい水がつきもの。この作品では舟で小さな島に渡り、湧水を汲んでくるシーンがあるが、実は自分もおいしいお茶とコーヒーが飲みたいばっかりに、余呉(長浜市)の山奥にある胡桃谷(くるみだに)まで出かけて採水している。やっぱり違います!
(HIRO)

監督:成島出
脚本:加藤正人、安倍照雄
撮影:長沼六男
出演:吉永小百合、阿部寛、竹内結子、笑福亭鶴瓶、笹野高史、米倉斉加年

「舞妓はレディ」(2014年日本)

2014年10月01日 | 映画の感想・批評


 秋も深まり、京都には国内はもとより海外からも多くの観光客が訪れる季節がやって来た。「Shall we ダンス?」よりも前から、20年来の企画を温めてきたという周防正行監督の新作は、京都の花街を舞台にした楽しいミュージカル風ドラマだ。
 歴史の古い花街・下八軒には、舞妓はたった一人しかいない。そのたった一人の舞妓・百春も三十路がすぐそこまでやってきているという危機的状況だ。そんな下八軒の老舗のお茶屋・万寿楽に舞妓志願の少女・春子がやってくる。ところがこの春子、津軽弁と鹿児島弁を混ぜこぜにして話し、何を言っているやらまるで通じない。たまたま居合わせた言語学を教える大学教授・京野のはからいで春子は万寿楽の仕込み(見習い)になれるが、彼女を待っていたのは舞踊・鼓・三味線の厳しい稽古、花街のしきたり、何よりも京野がじきじきに教える京言葉のレッスンだった。
 あれ、これってどこかで見たような…。下町のコックニー訛り丸出しのイライザと、彼女に英語の正しい発音を教え込もうとするヒギンズ教授が繰り広げるミュージカルの名作「マイ・フェア・レディ」である。そう思って見ていると、「マイ・フェア・レディ」の中の名曲「スペインの雨」ならぬ「京都の雨はたいがい盆地に降る」と歌い出すではないか。そう、これはまさに京都版「マイ・フェア・レディ」なのだ。だいたいタイトルからして「舞妓はレディ」と察しが付く。
 上流階級のヒギンズ教授が、正しく英語を発音できないイライザたちを見下しているのに比べ、京野教授は決して春子の方言を否定しないところに好感が持てる。むしろほほえましく思っているが、世界の観光都市・京都の舞妓はやっぱり京言葉でおもてなしと、レッスンがスタートする。
 一見さんお断りのお茶屋の様子がうかがえ、併せて京都観光もできる、肩が凝らずに楽しめるエンターテインメント映画だ。(久)

監督:周防正行
脚本:周防正行
撮影:寺田緑郎
出演:上白石萌音、長谷川博己、富司純子、田畑智子、草刈民代、渡辺えり、竹中直人、岸部一徳