わが青春時代のトップスターだったロバート・レッドフォードが老体に鞭をうつように挑んだ力作である。全編レッドフォードのひとり芝居、まさに終盤は満身創痍の痛々しさだ。私は思わずヘミングウェイ原作「老人と海」のスペンサー・トレイシーを思い出した(以下、結末を明かしているのでご注意ください)。
映画は、「すべてを失ってしまった」という男(レッドフォード)のナレーションで始まる。そこから8日前にさかのぼり、インド洋の真ん中でヨットのひとり旅を続ける男が遭難し、無線も何もかも駄目になって途方に暮れる。そのうち、ものすごい嵐に遭って大破したヨットを放棄し、救命ボートで海を漂うことになる。
しまいに万策尽きて、男は遺書を書きガラス瓶に入れて流す。それが冒頭のナレーションである。やがて日が落ちて夜のしじまの中で遙か彼方に一条のひかりを見出すや、理性を失った男は自身の存在を知らせようと救命ボートの上で書籍やら何やら燃やせるものは何でも火をつけるのだが、救命ボートが燃えだして海に飛び込んだ男はなす術もなくずんずん沈んで行くのである。こうして自然の脅威と、人間の不屈の精神、知恵と工夫の戦いが描かれる。「太平洋ひとりぼっち」ではないが、ヨットの生活やいろんな機器の修繕修復作業が写実的に描写され、この映画に真実味を与えている。
ところで、絶望した男に幸運の女神が微笑んだかに見えた瞬間が一条のひかりであるが、ほどなく一艘の舟がサーチライトを照らしながら燃えるボートの方へ近づいてくるのが海中からもわかる。男が死に者狂いで海面へ浮き上がろうと水をかくと、海の中へすっと救いの手が差し伸べられて映画は終わるのだ。
人生の皮肉を描かず、どんなことがあっても諦めるな、最善を尽くせ、そうすれば必ず願いはかなう、というところが、いかにもアメリカ映画らしくていい。(ken)
原題:All Is Lost
監督:J・C・チャンダー
脚本:J・C・チャンダー
撮影:フランコ・G・デマルコ、ピーター・ズッカリーニ
出演:ロバート・レッドフォード
映画は、「すべてを失ってしまった」という男(レッドフォード)のナレーションで始まる。そこから8日前にさかのぼり、インド洋の真ん中でヨットのひとり旅を続ける男が遭難し、無線も何もかも駄目になって途方に暮れる。そのうち、ものすごい嵐に遭って大破したヨットを放棄し、救命ボートで海を漂うことになる。
しまいに万策尽きて、男は遺書を書きガラス瓶に入れて流す。それが冒頭のナレーションである。やがて日が落ちて夜のしじまの中で遙か彼方に一条のひかりを見出すや、理性を失った男は自身の存在を知らせようと救命ボートの上で書籍やら何やら燃やせるものは何でも火をつけるのだが、救命ボートが燃えだして海に飛び込んだ男はなす術もなくずんずん沈んで行くのである。こうして自然の脅威と、人間の不屈の精神、知恵と工夫の戦いが描かれる。「太平洋ひとりぼっち」ではないが、ヨットの生活やいろんな機器の修繕修復作業が写実的に描写され、この映画に真実味を与えている。
ところで、絶望した男に幸運の女神が微笑んだかに見えた瞬間が一条のひかりであるが、ほどなく一艘の舟がサーチライトを照らしながら燃えるボートの方へ近づいてくるのが海中からもわかる。男が死に者狂いで海面へ浮き上がろうと水をかくと、海の中へすっと救いの手が差し伸べられて映画は終わるのだ。
人生の皮肉を描かず、どんなことがあっても諦めるな、最善を尽くせ、そうすれば必ず願いはかなう、というところが、いかにもアメリカ映画らしくていい。(ken)
原題:All Is Lost
監督:J・C・チャンダー
脚本:J・C・チャンダー
撮影:フランコ・G・デマルコ、ピーター・ズッカリーニ
出演:ロバート・レッドフォード