シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「アウトレイジ 最終章」(2017年日本映画)

2017年10月25日 | 映画の感想・批評
 本作は、「アウトレイジ」「アウトレイジ ビヨンド」に続く3作目で「最終章」となっている。前2作の内容の続きで、「花菱会」と「山王会」の抗争に加え、ビートたけしが演じる大友というヤクザが、韓国に拠点を移して、チャン会長率いるフィクサーに属して、裏社会を牛耳っている所に、花菱会が韓国で事件を起こしてしまう処から物語が始まる。
 今回も、殺人シーンは残忍で、ハリウッド映画にも負けない銃撃シーンもあり、また、恫喝シーン・セリフ回しも凄みがあり、圧倒的な迫力の連続であった。3つのヤクザ(警察組織を含むと4つの構造になるが)が、自分達の陣地を守る為に、文字通り、命を掛けて戦うシンプルな構図であるが、その中に、義理を通す人が居たり、簡単に裏切ったり、駆け引きをし、権力に歯向かったり、あるいは、権力に屈したりと、現在社会に通じるものを感じた。今、自分達が生活する近くでは、一般的には、殺人や覚醒剤、恫喝や恐喝等は起こらないとしたものだが、そこはヤクザの世界。それが、すぐ隣で、起こっている。描き方が違うだけで、根幹は一緒である。監督は、ヤクザという世界を舞台に現代社会の人間を描いているのである。
 更に、ラストシーンは、このシリーズを締めくくる監督らしい終わり方だったと思う。「大友」という人物を通して、「人」が選ぶべき道を示していたと思う。北野武という人は、人情に厚い優しい人に違いないと感じた。決して、「ヤクザ」の生き方には共感は出来ないが・・・。
 塩見三省さんが病気で痩せ細っていて、前2作の恫喝シーンが観られなかったのは残念だ。ネット情報だが、病気は回復されたということなので、以前のような眼光鋭い演技(ヤクザ映画に出演されるか分からないが)を観られることを楽しみしておきたい。
(kenya)

監督・脚本:北野武
撮影:柳島克己
出演:ビートたけし、西田敏行、大森南朋、ビエール瀧、松重豊、大杉漣、塩見三省、白竜、名高達男、光石研、原田泰造、池内博之、津田寛治、金田時男、中村育二、岸部一徳他

エルネスト もう一人のゲバラ(2017年 日本・キューバ合作映画)

2017年10月18日 | 映画の感想・批評
 

 阪本順治監督の最新作「エルネスト」が劇場公開された10月6日、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が2017年ノーベル平和賞を受賞した。「どのような核兵器の使用も人類の破壊的な結果をもたらすことに注目を集める活動と、核兵器を条約に基づいて禁止することを達成するという前例のない努力」に対して授与された。核兵器禁止条約の制定などを訴えてきたNGO(非政府組織)の連合体で、20~30代の若者たちが中心を担ってきた。
 1941年生まれのフレディ前原ウルタードは、日本人の父とボリビア人の母を持つ日系二世である。1962年4月、フレディは医療が未発達であった祖国ボリビアからハバナ大学医学部への留学を目指してキューバへやって来た。寡黙だが真面目で正義感の強いフレディは、学友たちからも信頼されクラスのリーダーになっていく。その年の10月、米ソ間の対立が激化し核戦争寸前までいく“キューバ危機”のさなか、民兵として警備任務についていたフレディは憧れのゲバラと対面し、平和や平等のために戦うゲバラの魅力に心酔する。
 一緒にボリビアから来たルイサは、同じくボリビアから来た他の学生と付き合い妊娠するが、男に裏切られ1人で女の子を出産する。ルイサを静かに見守り、支えとなっていくフレディだが、祖国ボリビアで軍事クーデターが起きたと聞いて悩んだ末、ゲバラの部隊に参加することを決意する。そんなフレディにゲバラは自分のファーストネームから、エルネスト・メディコ(医師)という戦士名を授けたのだった。
 写真で見るフレディ本人は、革命戦士のイメージと違って物静かな眼差しの青年である。オダギリジョーは本人のイメージを壊すことなく、勉学に励み、ルイサには秘めた恋心を貫き、祖国解放の闘いに向う時も寡黙で正義感あふれる青年フレディを演じていて、格好いい。
 今年は、フレディ前原とチェ・ゲバラの没後50周年にあたる。軍事クーデターから祖国ボリビアを解放しようとゲリラ部隊に参加し、25歳の若さで命を絶たれたフレディ前原や彼の仲間の若者たちと、国連会議での核兵器禁止条約の採択推進に粘り強く取り組んだICANの若者たち。本作の初めの方に、ゲバラがキューバ使節団の団長として来日した際広島を訪れ、原爆ドームや原爆資料館などを訪問するエピソードが描かれていたこともあり、どうしても彼らが重なって見えてきた。時代や国・地域は違っても、自分たちの生きている社会の問題に目を向け、理想を掲げて変革の道を歩む若い世代が続く限り、「世界は、変えられる。」のだと思う。(久)

スペイン語原題:ERNESTO
監督:阪本順治
脚本:阪本順治
撮影:儀間眞悟
出演:オダギリジョー、永山絢斗、ホワン・ミゲル・バレロ・アコスタ、アレクシス・ディアス・デ・ビジェガス

「三度目の殺人」 (2017年 日本映画)

2017年10月11日 | 映画の感想・批評


 カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した「そして父になる」から4年。今や世界中から注目される是枝裕和監督が、今度はヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に正式出品。惜しくも受賞は逃がしたが、原案、脚本、編集のすべてに携わった、観るものの心を大きく揺さぶる、これぞ是枝ワールドといえる作品が、ここに誕生した。
 「そして父になる」「海街diary」「海よりもまだ深く」と、近年家族をテーマにした作品が続いた是枝監督だが、今回挑戦したのは心理サスペンス。裁判で勝つためには真実は二の次と割り切るクールな弁護士・重盛に福山雅治。解雇された工場の社長を殺した容疑で起訴された得体のしれない不気味な男・三隅に役所広司。「本当のこと」を巡り、最大のキーパーソンとなる被害者の娘・咲江に広瀬すず。すべてがわかっている是枝監督に見事な演技で応えた三人だが、観客同様、真実はこの三人にも明らかにされていなかったというから面白い。
 ほとんどの映画やドラマでは「真実」が設定されていている中でストーリーが進んでいくのだが、この作品はそうではない。話が進むにつれて真実は逃げ去り、すべてが観るものの判断に委ねられる。「真実」というものは結局当事者しか知らないものなのだということを、法廷における検事・弁護士・裁判官の法曹三者のやり取りの中でも否応なく感じさせてくれる。すべて人間の仕業であり、「神の視点」ではないということを。
 それでも気になるのは、題名にもなっている「三度目の殺人」が画面の中には全く出てこないこと。三隅には30年前に北海道で起こした強盗殺人の前科があり、今回も真実であるならば二度目となるのだが・・・。美しいシネスコ画面の雪の中、赤い血しぶきが三人のほおに同じように降りかかる。自分はこの意味深長なシーンから「三度目の殺人」とは一体何なのか考えてみた。
 (HIRO)

監督:是枝裕和
脚本:是枝裕和
撮影:瀧本幹也
出演:福山雅治、役所広司、広瀬すず、斉藤由貴 吉田綱太郎、満島真之介、市川実日子、橋爪功

「パターソン」(2016年 アメリカ・フランス・ドイツ)

2017年10月04日 | 映画の感想・批評


 むかし、ジム・ジャームッシュの代表作「ダウン・バイ・ロー」を見て背筋がゾクゾクした。あの冒頭部分である。アメリカの裏寂れた町の通りをモノクロームのキャメラがずんずん横移動して行く。まるで電車の車窓から町を見ているように。
 幼かったころ、電車に乗ると座席に後ろ向きに膝まづいて車窓を眺めたものだ。右から左へ風景が際限も無く通り過ぎて行く。私はそれをいつまでも見飽きることなく見ていた。私の「横移動撮影」好きの原点である。つまりは映画好きになった根本はそういうことと関係があるのかもしれない。
 さて、主人公はニュージャージー州にあるパターソンという地方都市の公営バスの運転手だ。ドタバタ喜劇で一世を風靡した凸凹コンビのルー・コステロを生んだ町だという。主人公の名前が町と同じパターソンというのもおかしいが、ジャームッシュは詩、ノート、腕時計、ポスト、ビール、何組もの双子などなど、そうしたものを繰り返し登場させて、それが巧まざるユーモアというか、不思議なニュアンスを醸し出しているのだ。それに、主人公の妻は絵に描いたようなペルシャ美人で、草間彌生風の水玉模様のデザインに凝っているのがまたおかしい。
 当然バスが登場し、窓から風景が例によって横移動する。やはりこの人は横移動撮影が好きなのか。
 月曜から始まり月曜で終わるこの映画の主人公は毎日判で押したように6時10分か15分に起き、歩いて近くのバスのターミナルに行き、バスに乗り込んだあと日課のごとくノートを取り出しては詩を書く。
 繰り返しのクスグリをひとつ例に引こう。主人公が帰宅するとまずポストの郵便物をとって、傾いたポストを垂直に立て直すという動作を毎日繰り返す。それを窓越しにブルドッグが見ていて、主人が玄関から入る前に慌てて部屋の中央の愛用の椅子に移動するという動作も繰り返される。実はこのワンちゃんが主人の帰る前にオモテヘ出てポストを押して傾け、さっと家に入るという場面があとのほうに出て来て種明かしされる。つまり、ワンちゃんは毎日主人がポストを直すのを確認しては、何食わぬ顔で待ち構えていたわけで、これには笑ってしまった。
 何の変哲もないありきたりな1週間を描いてかくも感興を呼び起こす手腕には脱帽するしかない。しかも、絶えず見る者の頬を緩ませる。最後に永瀬正敏が登場するのだが、なかなか味のあるいい場面だった。
 間違いなく今年の収穫のひとつである。(健)

原題:Paterson
監督:ジム・ジャームッシュ
脚本:ジム・ジャームッシュ
撮影:フレデリック・エルムズ
出演:アダム・ドライヴァー、ゴルシフテ・ファラハニ、バリー・シャバカ・ヘンリー、永瀬正敏