謹賀新年、読者の皆さまには旧年中のご愛読に感謝し、今年もまた引き続きご愛読いただきますようお願い申し上げます。
さて、恒例の執筆者によるベストテン発表です。デジタル化による映画製作の簡便化・量産化、ネットでの映像コンテンツの配信という新しい公開方法も加わり、年間1000本以上もの内外作品が公開される時代が到来しました。したがって、みんなが共通して見ている作品も少なくなっており、各自のベストテンが多様化しているのもそうしたことを反映しています。
注記:原則として2019年1~12月に京阪神で劇場公開された作品を対象とした。日本映画作品名のあとの括弧書きには監督、外国映画作品名のあとには原題、監督、製作年・製作国を入れた。日本公開題名・人名表記はキネマ旬報映画データベース、外国映画の原題・製作年・製作国はInternet Movie Databaseを参考とした。
◇久
【日本映画】
1位「カツベン!」(周防正行)
この作品自体が活動弁士付き無声映画のような雰囲気を持った映画。周防監督の映画愛が溢れていた。
2位「ニッポニアニッポン フクシマ狂詩曲」(才谷遼)
何か事が起こっても誰も責任を取らない、水に流して曖昧に済ませてしまう。こんな日本でいいのと問われている。
【外国映画】
1位「家族を想うとき」(ケン・ローチ、Sorry We Missed You 、2019年イギリス・フランス・ベルギー)
“Sorry We Missed You”というタイトルに込められたローチ監督のメッセージに心が震えた。いつもブレない監督の作品が好きだ。
2位「ニューヨーク公立図書館 エクス・リブリス」(フレデリック・ワイズマン、Ex Libris-The New York Public Library 、2017年アメリカ)
世界で最も有名な図書館の舞台裏。3時間25分のドキュメンタリーが、私たちが図書館に対して持っている固定観念を打ち砕く。こんな図書館が身近にあれば、もっと利用したくなる。
3位「バハールの涙」(エヴァ・ウッソン、Les filles du soleil 、2018年フランス・ベルギー・ジョージア・スイス)
ISに拉致された息子を取り戻すため、銃を取って立ち上がったクルド人女性バハール。2018年ノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラドの自伝と重なった。
4位「バジュランギおじさんと、小さな迷子」(カビール・カーン、Bajrangi Bhaijaan、2015年インド)
真面目なインド人青年が、声の出ないパキスタン人の迷子の少女を故郷へ帰そうと出た旅の途中で出会う様々な困難。心が通い合えば国や宗教が違っても争いごとは避けられる。
5位「マイ・ブックショップ」(イザベル・コイシェ、The Bookshop、2017年イギリス・スペイン・ドイツ)
イギリス東部の海辺の小さな街で、周囲の反対にあいながら書店を開店した女性の物語。最近は本屋で本を買うよりも図書館で借りるばかりだが、活字の奥に広がる世界は好きだ。
6位「天才作家の妻ー40年目の真実ー」(ビョルン・ルンゲ、The Wife、2017年スウェーデン・アメリカ・イギリス)
女性の書いた本は読まれないという言葉に小説家になることを諦めた妻と、ノーベル文学賞を受賞した夫の間の秘密。夫を“支え続けた”愛情と怒りに揺れ動く妻役のグレン・クローズが良かった。
7位「僕たちは希望という列車に乗った」(ラース・クラウメ、Das schweigende Klassenzimmer、2018年ドイツ)
1956年、ベルリンの壁建設5年前、自分たちの人生を左右する重大な選択を迫られた東ドイツの高校生たちの苦悩と友情の物語が感動的。
8位「イエスタデイ」(ダニー・ボイル、Yesterday、2019年イギリスほか)
地球規模の12秒間の停電で、世界中からビートルズを知っている人がいなくなってしまうなんて…。やっぱりビートルズナンバーは素晴らしい!
9位「ROMA/ローマ」(アルフォンソ・キュアロン、Roma、2018 年メキシコ・アメリカ)
中産階級の家庭で家政婦として働く若い女性の日常を通して、1970年代のメキシコの市民生活と社会が垣間見える。
10位「ディリリとパリの時間旅行」(ミッシェル・オスロ、Dilili à Paris、2018年フランス・ベルギー・ドイツ)
ベル・エポックのパリを満喫しながら、ディリリとオレルと一緒に誘拐事件の謎を解いていく贅沢なアニメだった。
◆HIRO
【日本映画】
1位「蜜蜂と遠雷」(石川慶)
国際ピアノコンクールを舞台に、世界を目指す若き4人のピアニストたちの挑戦、才能、運命、そして人間としての成長を描く。4人の若手俳優の熱演と、日本最高峰のピアニストたちの本物の演奏が、「その会場にいる」という臨場感を盛り上げる。
2位「新聞記者」(藤井道人)
東京新聞・望月衣塑子記者の同名ベストセラー「新聞記者」が原案。メディアへの介入など、現代社会が抱える様々な問題に踏み込む。韓国の若手トップ女優シム・ウンギョンと日本のエース、松坂桃李の演技合戦も見物。
3位「愛がなんだ」(今泉力哉)
成田凌の出世作。どこかいい加減だけれど許せちゃう、主人公テルコの片思いの相手マモちゃんを好演。いつも一緒にいたい気持ちは、ついに「相手と同化したい」気持ちまでに発展。それなら自分の場合はどうなのか、自身の恋愛観についても思わず考えさせられてしまう。
4位「半世界」(阪本順治)
スマップを卒業して、映画や舞台等、本格的に演技の世界に入り込んだ稲垣吾郎。山奥で自然と共に生きる炭焼き職人を力演。共演の長谷川博己とも十分張り合っていける演技力を証明した。人生の半分に差しかかり、ふと立ち止まる主人公たち。さて、前期高齢者に突入した自分はこれからどう生きる?!
5位「カツベン!」
そのユニークな発想と信念で、愉快な人間模様を描き続ける周防正行監督。映画が活動写真とよばれた頃に活躍した活動弁士が今回の主人公。まるでカラーの活動写真を見ているような展開が見ていて楽しい。八幡堀、三井寺、旧豊郷小学校等、滋賀のロケ地がうまく生かされているのもうれしい。
6位「よこがお」(深田晃司)
身に覚えのないことで不利な状況に陥り、気がつけば日常が崩壊するという、誰にでも起こりうる不条理に呑み込まれていく訪問看護士の市子と、すべてを失い、自由奔放に生きるリサという違った人格(よこがお)を持つ主人公を筒井真理子が熱演。その復讐劇から、希望は見えるか?!
7位「旅のおわり世界のはじまり」(黒沢清)
中央アジアのウズベキスタンを舞台に、巨大な湖に棲む幻の怪魚を探すためにやってきたバラエティ番組のリポーター役を、元AKB女優前田敦子が挑む。言葉も通じない異国に放り込まれた女性が、いかに自分の殻から踏み出し、勇気を手に入れるか、初めて目にするウズベキスタンの景色とともに新鮮な感覚の作品。
8位「長いお別れ」(中野量太)
自分の家族がかかることで認知症が身近な存在になり、この作品の父親とオーバーラップして、考えさせられること多々あり。現実はこんなに甘くないと思いながらも、前向きに生きようとする娘や孫たちに希望を与えられた。
9位「人間失格 太宰治と3人の女たち」(蜷川実花)
世界でもっとも売れている日本の小説「人間失格」、その誕生秘話をドラマティックに映画化。主人公の太宰治に小栗旬、正妻に宮沢りえ、愛人に沢尻エリカ、最後の女に二階堂ふみと、役にぴったりの俳優陣。本物の太宰も、こんな風にかっこよかったんでしょうね。
10位「キングダム」(佐藤信介)
続編を早く見たい!と思わせる、上手い演出。売れっ子になってしまった吉沢遼のスケジュールを確保するのは、至難の業か?!
【外国映画】
1位「ROMA/ローマ」
やっぱりこの作品以上の衝撃と感動は現れなかった。ドキュメンタリー風の白黒画面も一段と印象を深くする。
2位「ジョーカー」(トッド・フィリップス、Joker、2019年アメリカ)
貧しい道化師アーサー・フレックが、あの「バットマン」の悪役、かつゴッサムシティの英雄ジョーカーにどのような形で変身していったのか、そのパフォーマンスに震える!!アーサーに扮するホアキン・フェニックスの熱演が見事。
3位「グリーンブック」(ピーター・ファレリー、Green Book 、2018年アメリカ)
1936年から66年まで毎年作成・出版されていたグリーンブック。黒人旅行者を対象としたガイドブックで、黒人たちが差別、暴力、逮捕を避け、車で移動するために欠かせないツールとして重宝がられたそうだ。人種のるつぼといわれるアメリカならではのヒューマンコメディが感動を呼ぶ。
4位「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」(クエンティン・タランティーノ、Once Upon a Time ...in Hollywood、2019年アメリカ)
クエンティン・タランティーノ監督自身が幼少期を過ごした60年代のハリウッド黄金期最後の瞬間を、郷愁とリスペクトを込めて脚本を執筆し、過去8作品の集大成として監督。ロマン・ポランスキー監督とシャロン・テートも登場し、あの事件が起きるきっかけを描く。ブラッド・ピットとレオナルド・ディカプリオの初共演もそれぞれ見せ場があり、見事に成功。タランティーノらしい暴力描写も健在だ。
5位「イエスタデイ」
今年一番の「拾いもの」。同世代ダニー・ボイル監督も大のビートルズファンだったそうだ。とにかく出てくる曲をよく知っていて、その場の状況にぴったりなのだから嬉しくなってしまう。主役の二人も庶民的で好感が持てる。
6位「運び屋」(クリント・イーストウッド、The Mule、2018年アメリカ)
クリント・イーストウッドの次回作は「リチャード・ジョエル」。90歳にして衰えることのないバイタリティはこの「運び屋」でも証明済み。
7位「真実」(是枝裕和、La vérité 、2019年フランス・日本)
「万引き家族」でカンヌに旋風を巻き起こした是枝監督の世界進出作品。フランスの大女優カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュにアメリカの演技派イーサン・ホークを絡め、「真実」という名の自伝本を出版した大女優とその娘の、心の中の<真実>を問う。この作品でも子役がうまく使われていて、是枝監督らしい家族愛に一役買う。
8位「アド・アストラ」(ジェームス・グレイ、Ad Astra、2019年アメリカほか)
宇宙旅行も夢ではなくなってきた昨今だが、近未来、地球から遙か43億㎞、太陽系の彼方で行方不明となってしまった父を追いかけ、その謎を解こうとする宇宙飛行士にブラッド・ピットが扮する。撮影監督にホイテ・ヴァン・ホイテマを起用したのは大正解。「インターステラー」に続き、宇宙空間を見事に表現。ブラピの演技にも貫禄が出てきた。
9位「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」(J・J・エイブラムス、Star Wars: Episode IX - The Rise of Skywalker、2019年アメリカ)
よくぞ納得いくようにまとめてくれました。42年に渡るサーガの集大成。レイア姫演じる故キャリー・フィッシャーの映像もいっぱい残っていて大感激。
10位「アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール」(マイケル・ラドフォード、La musica del silenzio、2017年イタリア)
久しぶりに見たイタリア映画。使われていた言語は英語だったが、幼少時代や歌のシーンになるとイタリア語に。本国ではどのように上映されているのでしょう?!アンドレア・ボチェッリについて詳しく知れたのがよかった。そして何といってもその歌声に感動!!
◆kenya
【日本映画】
1位「居眠り磐音」(本木克英)
昔からの友人を斬らざるを得ないことになり、恋人とも別れ、浪人生活の中で、人の優しさに触れていく哀しみを抱えた主人公役に、松坂桃李が合っていて、現代にも通じるチャンバラエンターテイメント映画だった。
2位「僕はイエス様が嫌い」(奥山大史)
小規模予算の映画だが、小学生の目線で、じっくりと人間を捉え、温かみのある映画。こんなタイプの映画がロングラン上映されてほしい。
3位「天気の子」(新海誠)
新海誠監督の前作「君の名は」よりも、ストーリー分かり易く、前作よりも観やすかった。主題歌も良かった。
4位「よこがお」
人と人との繋がりで人間は生きていくが、この主人公は、ある事件をきっかけに、誰の何を信じれば良いのか分からなくなってしまう。人間のドロドロした部分がよく出ていた。
5位「台風家族」(市井昌秀)
草彅剛が悪いイメージの役は初めてではないだろうか。ピエール瀧が準主役だった為、公開が延び延びになっていたようだが、親子愛をベースにした期待以上に心温まる映画だった。演出はもちろんのこと、オリジナル脚本が素晴らしいと感じた。久し振りのMEGUMIが良かった。
6位「アルキメデスの大戦」(山崎貴)
戦艦大和建設を予算面からの切り口にした斬新さに驚き、実際にあったのかどうか分からないが、建設にあたっての軍部の真意に驚いた。緊迫したやりとりシーンの演出が上手い。主演の菅田将暉と少尉役の柄本佑、海軍造船中将役の田中泯の3人は、ずば抜けて良かった。
7位「ひとよ」(白石和彌)
恨みながらも、家族であることを背負い続けなければいけない状況に耐える人達。「人」って複雑。2019年12月4日アロママさんのブログにある「ひとよ」の解釈方法が本作品を物語っていると思う。ちなみに、登場時間は短いが、本作のMEGUMIも良かった。
8位「新聞記者」
よく本作が今の日本で、公開出来たなあと感心した。関連のドキュメンタリーも公開され、かなりのロングランになっているようである。隣国では、この映画は製作もされないし、万が一、製作出来たとしても公開されないだろう。
9位「マスカレード・ホテル」(鈴木雅之)
エンターテイメント映画の王道の中の王道。キムタクは何をやってもキムタクであることが再確認出来る映画だった。
10位「決算!忠臣蔵」(中村義洋)
あの忠臣蔵をお金の面から切り取った映画。吉本興業がコラボしているので、全編に渡ってお笑いの流れ。堤真一の関西弁での「なんでやねん!」連発には笑った。オチ(結果)も分かっているので、安心して楽しめた。
【外国映画】
1位「ROMA/ローマ」
終始、壮絶な人生展開に圧倒させられる。白黒だが映像に力がある。2001年公開の同監督作品「天国の口、終わりの楽園。」もお薦め。NETFLIXの勢いが凄い。「映画」=「映画館」の時代が変わろうとしているのか。
2位「芳華-Youth-」(フォン・シャオガン、芳華 Youth、2017年中国)
苦しい時期を共有した仲間が、時と共に離れ離れになる。そして、落ち着くべく時が来れば、落ち着いていく。人の一生とは儚く切ないもの。こういった作品のロングランを期待したい。
3位「帰れない二人」(ジャ・ジャンクー、江湖八女、2018年中国)
主役のチャオ・タオが素晴らしい。ヤクザに襲撃された際に、凛とした表情で追っ払うシーンには圧倒された。自分に自信のある目・表情をしていた。刑期を終えた後との違いを見事に演じ切った力にも圧倒された。
4位「女王陛下のお気に入り」(ヨルゴス・ランティモス、The Favourite、2018年アイルランド・イギリス・アメリカ)
女優3人の演技が観応え十分。個人的には、アカデミー賞を獲ったオリビア・コールマンより、レイチェル・ワイズが良かった。本作品には関係無いが、レイチェル・ワイズの旦那は、ダニエル・クレイグだった!ビックリ!
5位「ブラック・クランズマン」(スパイク・リー、BlacKkKlansman、2018年アメリカ)
スパイク・リーの手にやっとアカデミー賞が渡った。ここ最近の世の風潮を忖度し、アカデミー協会が気を遣ったのか。充分、作品としては出来上がった印象があるので、気を遣ったと云われるアカデミー協会にとっては、酷な話かな?原題のスペルにも一工夫が見られますね。
6位「運び屋」
やはりイーストウッドは監督だけではなく、画面に登場してほしい。それにしても、かなり老体にムチを打って演技している印象が強くなってきた。
7位「ホテル・ムンバイ」(アンソニー・マラス、Hotel Mumbai、2018年オーストラリア・インド・アメリカほか)
2008年インドムンバイで起きたテロを基にした映画で、悩むリーダーや一体になる難しいさが表現されていたのが良かった。それにしても、テロの恐ろしさと、若年期の教育の重要性をひしひしと感じた。
8位「プライベート・ウォー」(マシュー・ハイネマン、A Private War、2018年イギリス・アメリカ)
2012年シリアで命を落とす戦場記者メリー・コルヴィンを描いた映画。戦場でしか生きられない、その現場に駆り立てるパワーに身震いさせられた。
9位「エンテベ空港の7日間」(ジョゼ・パジーリャ、Entebbe、2018年イギリス・アメリカほか)
1976年エールフランス機が4人の犯人によってハイジャックされた。向かった先は、ウガンダのエンテベ空港。犯人の目的は何か?乗客乗員を無事に助け出すことは出来るのか?犯人側と政府側のそれぞれの視点があるのが面白かった。
10位「THE INFORMER/三秒間の死角」(アンドレア・ディ・ステファノ、The Informer、2019年アメリカ)
昨年は、ロザムンド・パイクの年だった。「プライベート・ウォー」「エンテベ空港の7日間」と本作を観た。2019年12月11日のブログにも書いたが、兎に角、美しい。彼女を観るだけで価値がある。
◇アロママ
【日本映画】
1位「男はつらいよ お帰り 寅さん」(山田洋次)
よくぞ50作目を!山田洋次監督、主演者たちが元気で居てくれることに感謝。一つ一つ懐かしくて、歴史の厚みに感動してしまう。
2位「カツベン!」
久しぶりの周防作品。映画への愛情をひしひしと感じ、日本映画史にますます興味がわく。成田凌は苦手だったけど、いい作品に恵まれたと思うし、頑張った。
3位「蜜蜂と遠雷」
鑑賞後に原作を読んだが、ピアノコンクールの映像化に挑戦した作品。演奏家たちの苦悩と同時に、演奏できる喜びがあふれていた
4位「新聞記者」
今の日本でよく作ってくれたと、制作陣に敬意を表したい。ドキュメンタリー映画の「i-新聞記者ドキュメント」も観られてよかった。日本の報道の自由度がかなり低いことも哀しいかな、現実。若い人たちが選挙に行かないのは、我々大人たちの責任なのだが。彼女の健康をひたすら祈りたい。
5位「劇場版 そして、生きる」(月川翔)
有村架純ファンとして、観られてよかった。ラストの母親らしい笑顔がいい。「ナラタージュ」の若いカップルはここでも結ばれなかった!でも、「今でも好き!」と言える人が在ることは、それだけで生きる力になる。脚本の岡田恵和はやはり上手い!
6位「小さな恋のうた」(橋本光二郎)
単なる青春バンド物でない、問いかけるテーマは大きいし重いが、希望を感じられた。若者の力を信じよう。
7位「アルキメデスの大戦」
菅田将暉の数学者っぷりがカッコいいし、新しい視点の戦争もので、面白かった。歴史に「もし・・・」はないのだけれど、戦争はこうやって引き起こされていることを改めて思う。
8位「ひとよ」
母親の究極のエゴ、田中裕子が圧巻。子どもたちは振り回されただけではないのだけれど。タイトルをひらがなで表記しているのもニクイ。
9位「人間失格 太宰治と3人の女たち」
蜷川実花作品は初めて見る。色彩の美しさはさすが。久しぶりに友人と太宰について語り合う機会を持てた。宮沢りえと二階堂ふみがいい。沢尻がそもそも苦手なので、「ああやっぱり!」感をもったが、他の役者さんたちの仕事が傷つけられて残念。
10位「みとりし」(白羽弥仁)
こういう仕事があるのだ!東京の有楽町で見られた貴重な体験、そこにワクワクしてるって、どんだけ田舎者(笑)。
【外国映画】
1位「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」
タランティーノ作品は初めて観た。この作品も監督自身の映画愛を感じる。土埃とタバコのにおいが漂ってきそう。ブラピのカッコよさを改めて知ったし、ディカプリオのダメっぷりもチャーミング。
2位「ある少年の告白」(ジョエル・エドガートン、Boy Erased、2018年オーストラリア・アメリカ)
現代のアメリカでいまだに存在する、LGBT矯正プログラムに戦慄の思いがした。あの美しいニコール・キッドマンがもう十分に母親を演じきってるって・・・。
3位「天才作家の妻-40年目の真実-」
グレン・クローズの静かな怒りが圧巻。「メアリーの総て」から時代を経てもなお・・・。
4位「それだけが、僕の世界」(チェ・ソンヒョン、그것만이 내 세상、2018年韓国)
イ・ビョンホンも魅力的だったが、サバン症候群の弟を演ずるパク・ジョンミンに圧倒された。身につまされる話だった。
5位「ガーンジー島の読書会の秘密」(マイク・ニューウェル、The Guernsey Literary and Potato Peel Pie Society、2018年イギリス・フランス・アメリカ)
第二次世界大戦中のイギリスの秘話を知った。リリー・ジェームズがいい!「ダウントン・アビー」の出演者達を見つけて、間もなく公開の劇場版に、期待が高まる。
6位「グリーンブック」
黒人差別はもはや過去ではないのだろうが、声高にでなく、ユーモアにのせて、ふっと力を抜いて、語りかけてくれる。
7位「ベン・イズ・バック」(ピーター・ヘッジズ、Ben Is Back 、2018年アメリカ)
「ある少年の告白」に続いて、ハードな役を演じたルーカス・ヘッジズのメンタルを心配してしまうほど、のめり込む。一口で薬物障害を片付けられないことをこの映画で感じたが、自ら手を出した人はやはりアカン。こちらも、ジュリア・ロバーツが立派なお母ちゃんやってる!
8位「イエスタデイ」
ビートルズを誰も知らない世界にスリップしてしまったら?!ある種のファンタジー。この作品のリリー・ジェームズも可愛い!そして、ビートルズの偉大さを改めて知る。
9位「記者たち 衝撃と畏怖の真実」(ロブ・ライナー、Shock and Awe 、2017年アメリカ)
「バイス」と同日に観たのが良かったが、正直言って難しかった。タイトルが軍事作戦名だったとは!今また中東で戦争が起きそうな気配。国内外を問わず、報道の自由を守れるのか。
10位「メリー・ポピンズ リターンズ」(ロブ・マーシャル、Mary Poppins Returns、 2018年アメリカ・イギリス)
大好きなメリー・ポピンズが帰ってきた!それも50年前の作品へのリスペクト満載で!ファンの期待を裏切らないでくれて、ありがとう!
◆KOICHI
【日本映画】
1位「愛がなんだ」
愛という死に至る病をコミカルに描いた作品。テーマは主人公テルコの狂気。流血騒ぎになってもおかしくないテーマを淡々とユーモラスに描いている。
2位「さよならくちびる」(塩田明彦)
三人(ハル、レオ、シマ)の関係が1対2ではなく、1対1対1であることが関係性を複雑にしている。けれどもそれは救いでもある。愛のベクトルが交差していないからだ。音楽によってバラバラだった三人はひとつになれた。
3位「凪待ち」(白石和彌)
ギャンブル依存の男の更生が、家族の再生や東日本大震災からの復興と呼応している。
4位「洗骨」(照屋年之)
沖縄の離島に伝わる「洗骨」という風習を通して、崩壊寸前の家族が再生していく物語。
5位「ひとよ」
母親は自分が犯した殺人を後悔していない。<人を救うための殺人は認められるのか>という問題提起をすれば、日本では珍しい哲学・思想映画になったかもしれない。
【外国映画】
1位「運び屋」
アールの勝手気ままな行動が、麻薬取締局の捜査を混乱させてしまうというコミカルな展開に、作者の人生哲学が垣間見える。
2位「ROMA/ローマ」
クレオと子供たちの絆には、時代や地域を超えた美しさがある。個人的な感動が普遍的な感動に昇華している。
3位「家族を想うとき」
社会制度の不備によって崩壊していく家族の姿がリアルに描かれている。ケン・ローチと是枝裕和は作風に共通点が多いが、家族の問題を描く是枝裕和に対して、ケン・ローチは社会制度の糾弾に重心を置いている。
4位「ジョーカー」
アーサーの狂気は環境(貧困やいじめ、虐待体験etc)に起因するものなのか、それとも生来の病気なのか。スリリングな展開に最後まで目が離せなかったが、主人公が殺人鬼へと変貌していく過程には共感できなかった。
5位「魂のゆくえ」(ポール・シュレイダー、First Reformed、2017年アメリカ)
環境汚染企業の問題がトラーをテロリストへと変質させたのでなく、あくまでもきっかけに過ぎないのではないか。トラーの信仰には揺らぎがあり、揺らぎがあれば病める信者の魂を救うことはできない。
◆健
【日本映画】
1位「町田くんの世界」(石井裕也)
イジメや妬みや傲慢、卑下とは無縁で、いつも他人を気遣い、周囲に安らぎを与えるという町田くんの存在は一種のファンタジーだが、「舟を編む」「ぼくたちの家族」と同様に全編に漂うほのぼの感が心地よい映画に仕上げた。
2位「新聞記者」
公正中立に真実を報道するのがメディアの役割だと誤解している人が多い。それは必要条件であって、十分条件はあらゆる権力監視と批判精神である。政府高官がいう、「この国の民主主義なんて形だけでいい」と。確かにそう思っている節がある。
3位「蜜蜂と遠雷」
映像化不可能といわれた原作のテーマ「音」をみごとに映画的に俎上にのせた手腕はとても自主映画出身の監督とは思えぬ技倆だ。石川慶は瀬々とともに私が最も期待する才能である。
4位「よこがお」
「嵐電」を見ておもしろいと思ったが、同じ日にこれを見て「嵐電」が素人くさく思えたほどうまい映画。ほんの日常の断片を何食わぬ顔でサスペンスにしてしまうところが深井監督の名人芸。
5位「愛がなんだ」
原作もおもしろいが、それを映画的にうまくまとめて、原作以上に登場人物のキャラを際立たせたところがこの映画の手柄だろう。
6位「さよならくちびる」
女ふたりのデュエットコンビにマネジャー兼伴奏の男が絡むロードムービーの秀作。小松菜奈と門脇麦の魅力が全開した。
7位「火口のふたり」(荒井晴彦)
これまでの荒井映画を眼高手低と見ていた私は目を瞠った。荒井の最高傑作ではないか。主役のふたりの身体を張った熱演に拍手を送りたい。
8位「楽園」(瀬々敬久)
ミステリかと思ったら、かなり根深い人間の本性を抉るような骨太のドラマが展開されるのだが、結局ラストは謎に決着をつけることでミステリの定石を踏襲した。それが蛇足に思えた以外は、やはり瀬々の力量は並大抵ではないと感心した。
9位「旅のおわり世界のはじまり」
見聞を広めるとか異文化に触れることの意味を押しつけでなく、自然に教えてくれるような秀作だった。往古に日本列島に暮らした先人たちは多様な文化を受け容れることで寛容の精神を培ったのだろう。
10位「閉鎖病棟 それぞれの朝」(平山秀幸)
主要登場人物で唯一正気な主人公の元死刑囚を通して、国家による制度化された殺人(死刑)、被害者に一方的な非のある殺人、世のため人のためにやむなく犯す殺人を提示し、すごんで見せた平山の真剣な眼差しにたじたじとなった。
【外国映画】
1位「アイリッシュマン」(マーティン・スコセッシ、The Irishman、2019年アメリカ)
役者もいい、演出もスタイリッシュなのに加えて実録ものだから面白くないはずがない。昨年席巻したネットフリックス旋風の秀作群のひとつ。
2位「芳華-Youth-」
青春時代を文化大革命に翻弄され、生き延びる者、失脚する者の岐路を描き、波瀾万丈の大河ドラマに仕上がった。とにかく面白いこと請け合い。
3位「ROMA/ローマ」
首都メキシコシティのローマ地区。そこで暮らす中流の6人家族とその下女の日常を透徹した客観性で見つめるキュアロンの作劇術はメキシカン・レアリズモとでも呼ぼうか。
4位「THE GUILTY/ギルティ」(グスタフ・モーラー、Den skyldige、2018年デンマーク)
着想の勝利。無声で始まった映画に声が加わり果たして音声の使命は果たせているのか、と問いかけるような映画。音声だけでカーチェイスをやってしまうのだから!
5位「女王陛下のお気に入り」
宮廷ものというジャンルがあれば、これは「バリー・リンドン」と並ぶケッサクだ。
6位「天才作家の妻-40年目の真実-」
グレン・クローズがみごと。ノーベル文学賞に輝く夫を支え続けてきた妻が実は、という秘密の暴露も面白いが、やっぱり主演ふたりの競演が見応えたっぷりといえようか。
7位「2人のローマ教皇」(フェルナンド・メイレレス、The Two Popes、2019年イギリス・イタリアほか)
史上初の南米出身のローマ教皇と生前退位した前任教皇の交代劇を描く実録映画。主演ふたりの名優が舌を巻く抑制した名演で圧倒する。
8位「ブラック・クランズマン」
この映画を見て納得した。KKKに潜入したユダヤ系のFBI捜査官が「お前まさかユダヤ人ではないだろうな」と疑われる。大都市圏は別にして南部の保守的な風土では黒人と同様に差別される有色人種すなわちアジアの民なのだ。
9位「工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」(ユン・ジョンビン、공작、2018年韓国)
最近の韓国映画はアジアのトップを行くといっていい。スケールといい、おもしろさといい、小気味よいテンポといい、今や日本映画は後塵を拝する格好だ。
10位「象は静かに座っている」(フー・ボー、大象席地而坐、2018年中国)
思いっきり間をとって、じらしてじらして台詞をいわせ、次の動作に入る独特の演出が4時間の長尺に結実した挙げ句、カットを要求された新鋭監督が苦悩の末に自死した秀作。