終戦70年を迎えた2015年は「日本のいちばん長い日」「野火」など、記念すべき作品が次々と公開されたが、その真打ちとして登場したのがこの作品。「母べえ」「小さいおうち」と、戦争を一般市民の側から描き、深い感銘を与えた山田洋次監督が今回選んだテーマは、原爆が投下された町、長崎だ。
1945年8月9日、長崎で助産婦をしている福原伸子は長崎医科大に通っていた次男の浩二を原爆で亡くす。夫や長男にも先立たれ、たった一人になってしまった伸子が浩二のこともあきらめようとした夜、学生服を着た浩二がひょっこり伸子の前に現れる。「浩二、あんたは元気?」「僕はもう死んどるとよ・・・。」自分は幽霊であること明かした浩二は、それから度々現れては伸子と話をするようになる。浩二には母と共にもう一人心配な人がいた。生前仲の良かった町子のことだ。堅い約束を交わした二人だったが、小学校の先生になった町子にはこれからの人生がある。町子の幸せを願う浩二は、ある重大な決心を母に話す。
「硫黄島からの手紙」で、クリント・イーストウッド監督からその演技を絶賛された二宮和也が今回も上手い。時にはユーモアを交えながら母を想う優しい医学生の役にピッタリで、本年度の「キネマ旬報ベストテン」でも見事主演男優賞に輝いた。ともすれば堅苦しく、暗い内容になりそうな題材だが、山田監督の喜劇映画作家としての味わいと、二宮のキャラクターが何とも微笑ましくコラボしていて出色の出来。母の伸子には原爆の詩の朗読をライフワークとしている吉永小百合。一つひとつのセリフに込められた思いがひしひしと伝わり、見る者の共感を誘う。そして音楽を担当したのは“核のない世界”を提唱している坂本龍一であることにも注目。ラストの長崎市民による大合唱は圧巻だ。
この上ないキャストとスタッフを結集し、広島が舞台だった「父と暮せば」の対になる作品を自分の手でと、故・井上ひさし氏の遺志を受け継いだ山田監督の渾身作がここに誕生した。
(HIRO)
監督:山田洋次
脚本:山田洋次、平松恵美子
撮影:近森眞史
音楽:坂本龍一
出演:吉永小百合、二宮和也、黒木華、浅野忠信、加藤健一、小林稔侍、橋爪功