シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「空飛ぶタイヤ」(2018年日本映画)

2018年06月27日 | 映画の感想・批評
「半沢直樹」「下町ロケット」「陸王」等の池井戸潤原作小説の初の映画化作品である。初の映画化からだろうか、主役級の俳優が脇役を固めるという贅沢な配役で、これぞ、エンターテイメント作品である。理屈抜きに楽しめた。
 演出も、いくつかのテーマを持ちながらも、きちんと纏まっていて、難解にはなっていない。長瀬智也が大企業の不正を暴く為に、追い込まれ、悩み、苦労する中小企業の社長役だが、何と言っても「主役」なので、一発逆転の成功物語であるのは、観る前から分かっていて、安心して観ていられた。また、サザンオールスターズが歌う主題歌「闘う戦士たちへ愛を込めて」は、主題歌からこの映画が生まれたのではないかと思ってしまう程、映画にバッチリ合っていた。更に、セリフもよく考えられていたように思う。対立する長瀬智也演じる中小企業社長と、ディーン・フジオカ演じる不正を隠蔽している大会社の課長との、人間対機械のような会話や、中小企業社長とその部下達や取引先との生々しい会話が印象に残った。ラストシーンも、長瀬智也とディーン・フジオカが、お互いに守るべきものがあるという立場を理解した上で、自らの主張を静かに戦わせていて、緊張感のある深いシーンになっていた。人間が真剣に生きるとこうなるのかと。決して、お互いに個人的には好きではないが、尊重する部分はあるということだろうか。大人だ。
 本当にうまく纏まっていて、映画は、やはり「スジ(=脚本、原作)」なのかと再認識出来た映画だった。ただ、間違いない原作があったからもしれないが、前述のように、豪華な俳優がこれだけ出演しているし、テーマもたくさんあるので、もう少し長尺になって良いので、一つひとつの話をじっくり描くと、“社会派エンターテイメント作品”になっていたようにも思う。決して、“社会派”だけが良いという訳ではないが、更に、重厚感のある作品になっていたように思う。個人的好みで、深田恭子が、あの主演時間だけでは惜しい。良い役柄だったのに。もっと、観たかった。
(kenya)

監督:本木克英
脚本:林民夫
原作:池井戸潤
撮影:藤澤順一
出演:長瀬智也、ディーン・フジオカ、高橋一生、深田恭子、寺脇康文、小池栄子、阿部顕嵐、ムロツヨシ、中村蒼、柄本明、佐々木蔵之介、六角精児、大倉孝二、津田寛治、升毅、笹野高史、岸部一徳他

羊と鋼の森(2018年日本)

2018年06月20日 | 映画の感想・批評


 「羊」の毛で作られたハンマーが、「鋼」の弦を叩く。ピアノの音が生まれる。
 生み出された音は、「森」の匂いがしたー。

 2016年、「火花」「君の膵臓を食べたい」などの話題作を抑えて第13回本や大賞を受賞した「羊と鋼の森」の映画化。
 映画が始まると、原作の世界がそのままスクリーンに広がっていき、命を吹き込まれた登場人物たちが原作の雰囲気を壊すことなく動き出していく。
 北海道の森に囲まれた家で育った外村は、これといった将来の夢を持っていなかった。放課後のある日、体育館にピアノの調律師・板鳥を案内したことで、彼の人生は変わっていく。板鳥が調律したピアノの音に、生まれ故郷と同じ森の匂いを感じ、調律の世界に魅せられたのだ。
 社会人としての人生が始まったばかりの外村は、調律の技術はもちろん、人とのコミュニケーションの取り方もぎこちない。だが、そんな彼を先輩の調律師たちは時には厳しく、時には優しく温かく指導してくれる。外村は先輩たちの仕事ぶりから学んだこと、教えてもらったことなど、大切だと思うことをいつもメモに取っている。彼は自分を不器用で調律師としての才能がないと思い悩んでいるが、決してそんなことはないと思う。初めて板鳥に出会った日、ピアノの音に森の匂いを感じる感性の持ち主だ。まだまだ未熟だが、伸び代をいっぱい持った青年だ。
 「どうやったら調律ってうまくなるんですか?」と問う外村に「焦ってはいけません。こつこつ、こつこつです」と板鳥は答える。また、大失敗をしてしまった時には「きっとここから始まるんですよ」とさりげなく励ましの言葉をかけてくれる。先輩の柳の「才能って言うのは、好きだっていう気持ちなんじゃないか」というのはいい言葉はだが、本当に好きなものに出会い、好きな気持ちをどこまでも持ち続けていくのはなかなか難しい。だからこそ余計に心にジーンとくる言葉でもある。
 自分の将来の進路を決めかねている若い人たちや、仕事に悩んでいる人たちには、ヒントになりそうなメッセージがいっぱい散りばめられている。新たに職場の同僚となり、社会人として一歩を歩み始めた青年の成長していく姿を見守り、後進をじっくりと育ててくれる先輩たち。そんな素敵な人間関係も丁寧に描かれている。
 原作では聴くことができないピアノ演奏もたっぷり堪能できる。さらに、ピアノの調律シーンでは繊細な作業だけでなく、鍵盤を引き出したり、肩でピアノを持ちあげたりする力仕事も見せてくれる。(久)

監督:橋本光二郎
脚本:金子ありさ
原作:宮下奈都
撮影:山田康介
出演:山﨑賢人、鈴木亮平、上白石萌音、上白石萌歌、堀内敬子、仲里依紗、城田優、森永悠希、佐野勇斗、光石研、吉行和子、三浦友和

「万引き家族」(2018年 日本映画)

2018年06月13日 | 映画の感想・批評


 何とも後を引く映画だ。決してその時だけ楽しめる娯楽作品ではない。しかし「カンヌ国際映画祭パルムドール受賞」という嬉しいニュースは、この作品の興行的な価値をグンと高めたようだ。受賞後間もない時期の公開とあって、是枝裕和監督作品としては「海街diary」をはるかに凌ぐ大ヒットとなっている。家族について、血の繋がりについて、そして今の日本が抱える様々な社会のひずみについて、否応なしに考えてしまうこの作品に多くの観客がつめかけているということは、大変喜ばしいことだろう。
 「誰も知らない」「そして父となる」など、様々な家族の形を見つめ続けてきた是枝監督。今回はすでに死亡している親の年金を、家族が不正に受給していた事件を知ったことが製作のきっかけとなったそうだが、「死んだとは思いたくなかった」という家族の言い訳の中に潜む背景を探り出すことが、この『犯罪でしかつながれなかった家族』の誕生の元となったようである。
 目黒区で起こった幼児虐待死亡事件の記憶も新しいが、物語はいつものように街角のスーパーで鮮やかな連係プレーで万引きをし終えた父子が、その帰り道、団地の廊下で寒そうに震えている女の子を見つけ、家に連れて帰るところから始まる。高層マンションの間に建つ古い平屋には、父子の他に母とその妹、祖母が一緒に暮らしていた。女の子の体を調べてみると、そこらじゅう傷だらけ。いったんは夫婦で団地へ返しに行くのだが、ドア越しに罵り合う両親の声を聞くと、彼らの虐待から守るためにも、二人は女の子を自分の子として育てることを決意する。
 息子に教えられることといえば万引きだけだと言いつつも、情が厚く憎めない父に、是枝作品は4度目となるリリー・フランキー。夫が連れ帰った女の子に愛情をかけることで自身が受けた心の傷を癒そうとする母に、実生活でも母となったばかりの安藤サクラ。祖母には今回が是枝作品最後の出演と決め、入れ歯を外し、顔つきを変えて熱演の樹木希林。この実力派三人の演技合戦を見ているだけでも十分なのだが、さらに二人の子役、城桧吏君と佐々木みゆちゃんがまた素晴らしい!!勝手な大人たちに振り回される役なのだが、その時々の表情が何とも絶妙なのだ。未来に向け、成長していく姿も救いとなる。是枝監督は子どもたちが持っている力を引き出すのが本当に上手い。
 私事で恐縮だが、先日今年は出来がよく、収穫を楽しみにしていた玉ねぎをごっそりに誰かに持っていかれた。近所の人のアドバイスもあって警察に伝えたのだが、現場を検証され、住所や電話番号を聞かれながら、真っ先に思い浮かべたのがこの作品。カンヌ受賞に対する文科大臣の祝意伝達に「公権力とは距離を保ちたい」と言い放った是枝監督。そのあっぱれ振りに感心しながら、玉ねぎを盗るにも理由がある、豊作でとても食べきれなかった玉ねぎで喜んでくれた人がいてよかったのだと、思いを新たにしたのである。
(HIRO)

監督:是枝裕和
脚本:是枝裕和
撮影:近藤龍人
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡み優、城桧吏、佐々木みゆ、池松壮亮、樹木希林、柄本明、高良健吾、池脇千鶴、緒方直人

妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ (2018年日本)

2018年06月06日 | 映画の感想・批評


両親(橋爪功、吉行和子)、長男夫婦(西村まさ彦、夏川結衣)、思春期の息子2人という三世代6人の大家族を切り盛りする専業主婦が、ある日夫の『それを言っちゃあおしまいよ』級の暴言に傷つき、家出をする。
残された「平田家」のてんやわんやを描いたお話し。
果たして、妻はどこへ?夫はちゃんと迎えに行けるのか?


夫婦、親兄弟の有り様を説教臭くなく、現代的意義を込めてやんわりじんわり問いかけてくる。
クスリ、ニヤニヤ、うふふな笑いをにじませながら。

王道のコメディ。安定感がある。
山田洋次監督、80歳を越え、なお意気軒昂。
シリーズ3作目。
どうやら十分にシリーズ化されそう。次は?
大方の予想はつきそうなところも、それもまたいい。



主演の夏川結衣が何とも上手い!
何処にでも居そうな主婦をふんわりと、さもありなんとばかりに演じている。
プッとふくれた表情、家事をてきぱきこなしつつ、かとおもえば、ソファにどっかり、裾があがって艶かしく足を見せてくれて。
同性でもおもわず色っぽいと思ってしまった。
夫のお土産のスカーフをいとおしそうに手にとるところは、本当にかわいい。
こういうありふれた家庭人を演じられる稀有な女優さんかと。
「孤高のメス」や「歩いても歩いても」も好きな作品だが、時にはバリバリのキャリアウーマンも見てみたい。


また、親は親。孫息子が「パパよりもママを選ぶ」というと、「かわいそうな息子!」と本音のでるおばあちゃん。
同じ他家から入った嫁同志、さっきまで息子の嫁に同調していたはずなのに。
我が身を映すような長男にじれったい思いのおじいちゃんも、反省して涙を流す長男の頭をポンポンと、まるで幼子を諭すようなしぐさに、父の愛情がにじみ出る。

煙ったがられながらも心配してくれる妹(中嶋朋子)はおもわず、「おにいちゃん」と追いかけてくれるし、年の離れた末っ子の弟(妻夫木聡)は、おっかなびっくりながらも、初めて兄にしっかりと意見してくれる。そのおかげでやっと重い腰を上げることができたでしょ❗

傍にいる人をちゃんと見てますか?
子どもたちは「親は本当に愛し合ってるのかな」と見つめていますよ。
時には出会いの頃を子どもに語り、信頼しあっている姿を見せてあげないとね。

夫婦で見ると年代と今の状況によってはチクチク、ギクッとなるかも。

公開初日に1人で、昨夜は夫と息子と3人で。

我が家は?
ご心配なく。ウィストン·チャーチルの奥さん並みに、十分手のひらで夫を転がしてますから。(ホンマかいな)

ネタバレ少々
シリーズ2は未見ながら、あれ、この人は前作で亡くなったはずなのに、また同級生役ってどうよ。
うーん、ひっかかるのは、私の器量が狭い?
シリーズ作品の難しさかも。いっそ、毎回違う同級生役の設定でレギュラー出演もいいかも。
「丸田さん」から「角田さん」。次は?

いささかでき過ぎ感のある次男の妻(蒼井優)、次あたりで毒を吐いてくるか?
まだまだ初々しい彼女の、月を見上げての台詞が沁みる。劇場でご確認あれ❗
(アロママ)


監督:山田洋次
脚本:山田洋次、平松恵美子
撮影:近森眞史
出演:橋爪功、吉行和子、西村まさ彦、夏川結衣、中島朋子、林家正蔵、妻夫木聡、蒼井優 他