つい数年前に起こったアメリカのケーブル局FOXテレビでのセクハラ騒動。
実在の人物を本名で描き、ところどころフィクションも混ぜての、アメリカならでは告発映画。それも娯楽作品に仕上げてしまうという、日本では「ありえん!」
なので、ネタバレも含めての執筆をお許しください。
結論は既に承知の話し。とはいえ、こういう事件があったことはうっすら記憶にあった程度である。昨今のハリウッド女優たちを先頭に巻き起こった#Mee Too の動きが表面化するよりも以前に、企画も持ち上がって準備をされていたというから、それも凄い話。告発されたCEOがすでに故人になっていること、告発した女性キャスターは20億円を超える示談金を受け取る代わりに、事件について執筆も許されない守秘義務を負っていることも有名な話らしい。
実在のメーガン・ケリー(シャーロン・ステート演)の印象に近づけるべく、特殊メイクを施したカズ・ヒロ(辻一弘)が2度目のオスカー受賞でも話題になった。しかし、肝心のメーガンも告発したカールソンも観たことがない日本人の私にとっては、「まあ、きれいな女優さん!」なのだが。そこはカズ・ヒロさんにちょっと申し訳ない気もしつつ。
メインキャスターを降ろされ、すっぴんでテレビに出て反感も買いつつ、淡々とセクハラ告発を準備するグレッチェン・カールソン(ニコール・キッドマン演)。彼女の勇気と覚悟には敬意を表したい。
キッドマン、昨年も『ある少年の告白』の母親役には感銘を受けたが、年々、深みが増して、ますます好きな女優さんになってきた。初めて彼女をスクリーンで見たのは『プラクティカル・マジック』」だったかと。『めぐり合う時間たち』の演技には圧倒された。『グレース オブ モナコ』の王妃も重みがあった。声がかわいらしすぎるのが難か?笑
強さだけでない、告発した後の苦悩、特に孤独を悟って静かに涙するところは胸が痛かった。子どもたちに「ママ!」と声をかけられ我に返る。その表情の変化がキッドマンは上手い!
主役のシャーリーズ・セロンについてはほとんど観たことが無かった。なので、どこまでがメイクで、どこがこの人の本来の顔なのかは不明だけれど、一言!「かっこいい!」何より、この作品の制作者の一人だというところにも拍手!
トランプ大統領(当時は候補者)とのやり取りも爽快。ただ、アメリカのマスコミや政治事情、特にFOXが共和党支持というあたりをきちんと押さえられていなかったので、前半のキャスターとしての彼女の主張と局内での立ち位置が私にはわかりにくかった。男性キャスターの中にもセクハラ親父がいたというのだが。顔の識別ができない。協力してくれる夫と局内の男性陣とが見分けられず。うう、悔しい。
その分、CEOロジャー役のジョン・リスゴーの憎々しさ、嫌らしさが際立って、いかにもなエロ親父を演じきっていた。メイクの成果も大きいらしいが、私はリスゴーも過去作を知らないまま。
カールソンの告発後、野心に溢れたメーガンがどう立ち上がるのか、一緒に動くべきか逡巡する姿こそがこの作品のメイン。じわじわと広がる社内の人間関係の変化、波を起こす。女性の敵は女性でもある。ロジャーの妻や初老の女性秘書も本当は同じ被害者の立場のはず。
もう一人の若きキャスター、ケイラ(マーゴット・ロビー演)。彼女は架空の女性だが、登場シーンは本当に痛々しい。特に、女友達に「誰にも言えなかった」と涙ながらに告白するシーンにはこちらも泣けてきた。マーゴット・ロビーの前作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」での無邪気なシャロン・ステートが思い出されて、これからも期待できる若手女優さんの一人になってきた。次回作が楽しみ。な、だけに本作のケイラ役の熱演は胸が痛かった。
ずしんと来る作品。
娘世代の勇敢さに拍手を送る。と同時に、裏返せば我々やその上の世代からずっと女性たちがあいまいにしてきた、見過ごして知らん顔してきた、そのツケを娘世代がようやく返そうとしていることに、親世代が突き付けられているとも思う。
セクハラを受けた女性たちの心の傷を思うと胸が痛い。声を上げたところで、更に傷つけられる、今の世の中。アメリカに限らない、日本でも同じ。
幸いにも私は厳しい社会で仕事をしたこともないし、ぬくぬくと守られて生きて来たが、辛い体験をしてきた人たちが昔も今もいることは紛れもない事実。
どうか、こういう映画を作る必要のない世の中に早くなってもらいたい。
当事者がこれ以上傷つけられることのないよう、法的にも社会的にも守られる世になってもらいたい。
女性のみならず、男性の皆さんもしっかり見てもらいたい。
(アロママ)
原題:BOMBSHELL
監督:ジェイ・ローチ
脚本:チャールズ・ランドルフ
出演:シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビー、ジョン・リスゴー
実在の人物を本名で描き、ところどころフィクションも混ぜての、アメリカならでは告発映画。それも娯楽作品に仕上げてしまうという、日本では「ありえん!」
なので、ネタバレも含めての執筆をお許しください。
結論は既に承知の話し。とはいえ、こういう事件があったことはうっすら記憶にあった程度である。昨今のハリウッド女優たちを先頭に巻き起こった#Mee Too の動きが表面化するよりも以前に、企画も持ち上がって準備をされていたというから、それも凄い話。告発されたCEOがすでに故人になっていること、告発した女性キャスターは20億円を超える示談金を受け取る代わりに、事件について執筆も許されない守秘義務を負っていることも有名な話らしい。
実在のメーガン・ケリー(シャーロン・ステート演)の印象に近づけるべく、特殊メイクを施したカズ・ヒロ(辻一弘)が2度目のオスカー受賞でも話題になった。しかし、肝心のメーガンも告発したカールソンも観たことがない日本人の私にとっては、「まあ、きれいな女優さん!」なのだが。そこはカズ・ヒロさんにちょっと申し訳ない気もしつつ。
メインキャスターを降ろされ、すっぴんでテレビに出て反感も買いつつ、淡々とセクハラ告発を準備するグレッチェン・カールソン(ニコール・キッドマン演)。彼女の勇気と覚悟には敬意を表したい。
キッドマン、昨年も『ある少年の告白』の母親役には感銘を受けたが、年々、深みが増して、ますます好きな女優さんになってきた。初めて彼女をスクリーンで見たのは『プラクティカル・マジック』」だったかと。『めぐり合う時間たち』の演技には圧倒された。『グレース オブ モナコ』の王妃も重みがあった。声がかわいらしすぎるのが難か?笑
強さだけでない、告発した後の苦悩、特に孤独を悟って静かに涙するところは胸が痛かった。子どもたちに「ママ!」と声をかけられ我に返る。その表情の変化がキッドマンは上手い!
主役のシャーリーズ・セロンについてはほとんど観たことが無かった。なので、どこまでがメイクで、どこがこの人の本来の顔なのかは不明だけれど、一言!「かっこいい!」何より、この作品の制作者の一人だというところにも拍手!
トランプ大統領(当時は候補者)とのやり取りも爽快。ただ、アメリカのマスコミや政治事情、特にFOXが共和党支持というあたりをきちんと押さえられていなかったので、前半のキャスターとしての彼女の主張と局内での立ち位置が私にはわかりにくかった。男性キャスターの中にもセクハラ親父がいたというのだが。顔の識別ができない。協力してくれる夫と局内の男性陣とが見分けられず。うう、悔しい。
その分、CEOロジャー役のジョン・リスゴーの憎々しさ、嫌らしさが際立って、いかにもなエロ親父を演じきっていた。メイクの成果も大きいらしいが、私はリスゴーも過去作を知らないまま。
カールソンの告発後、野心に溢れたメーガンがどう立ち上がるのか、一緒に動くべきか逡巡する姿こそがこの作品のメイン。じわじわと広がる社内の人間関係の変化、波を起こす。女性の敵は女性でもある。ロジャーの妻や初老の女性秘書も本当は同じ被害者の立場のはず。
もう一人の若きキャスター、ケイラ(マーゴット・ロビー演)。彼女は架空の女性だが、登場シーンは本当に痛々しい。特に、女友達に「誰にも言えなかった」と涙ながらに告白するシーンにはこちらも泣けてきた。マーゴット・ロビーの前作「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」での無邪気なシャロン・ステートが思い出されて、これからも期待できる若手女優さんの一人になってきた。次回作が楽しみ。な、だけに本作のケイラ役の熱演は胸が痛かった。
ずしんと来る作品。
娘世代の勇敢さに拍手を送る。と同時に、裏返せば我々やその上の世代からずっと女性たちがあいまいにしてきた、見過ごして知らん顔してきた、そのツケを娘世代がようやく返そうとしていることに、親世代が突き付けられているとも思う。
セクハラを受けた女性たちの心の傷を思うと胸が痛い。声を上げたところで、更に傷つけられる、今の世の中。アメリカに限らない、日本でも同じ。
幸いにも私は厳しい社会で仕事をしたこともないし、ぬくぬくと守られて生きて来たが、辛い体験をしてきた人たちが昔も今もいることは紛れもない事実。
どうか、こういう映画を作る必要のない世の中に早くなってもらいたい。
当事者がこれ以上傷つけられることのないよう、法的にも社会的にも守られる世になってもらいたい。
女性のみならず、男性の皆さんもしっかり見てもらいたい。
(アロママ)
原題:BOMBSHELL
監督:ジェイ・ローチ
脚本:チャールズ・ランドルフ
出演:シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビー、ジョン・リスゴー