シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

女と男の観覧車 (2017年 アメリカ)

2018年07月25日 | 映画の感想・批評


1950年代のニューヨーク郊外のリゾート地、コニーアイランドを舞台に、息詰まる女と男のすれ違いをウディ・アレン監督が、ケイト・ウィンスレットをヒロインに描く、出口のない泥沼映画。

元女優のジニーはリゾートレストランのウェイトレス、ビーチの監視員をしている演劇志望の青年ミッキーと不倫中。
日々、「こんなはずじゃない、私の場所はここじゃない」と葛藤している。
ジニーの連れ子の少年リッチーは火遊び好きで、母親を困らせる。
再婚相手の夫ハンプティは気はいいのだが、時々義理の息子に暴力をふるう、粗野な一面を持っている。
自宅は見世物小屋の跡を改装した、外から部屋が丸見えのおんぼろ屋。窓からは遊園地の観覧車が見える。

そんな3人家族のところへ、絶縁したはずの娘キャロライナが父親ハンプトンを頼ってやって来る。
ギャングと結婚したものの不仲になり、警察に情報をタレこんだことからギャングに追われる羽目になったと。
「父親とは絶縁状態だからここまで追ってくるはずがない!」
激怒したはずの父親はいつの間にか、夜学の費用も与えて、娘を許し、将来を応援し始める。

人間関係が密な狭い地域での出会いは当然、若いミッキーとキャロライナにも訪れる。


キャロライナから無邪気にミッキーとの出会いを打ち明けられ、相談を持ち掛けられるジニー。
義理とはいえ、母親の立場でもあるジニーは嫉妬に苦しむことに。


ジニーはますます居心地の悪い思いを募らせ・・・・・・・。


公衆電話をかけるジニーの「義母の立場と若い燕を奪われたくない」葛藤シーンの静かな演技の見事さ。
ラスト近く、かつての舞台衣装をまとい入念にメイクもし、苛立ちと嫉妬の情念をぐ容赦なくえぐりだしてくる。
とてつもない長台詞にのせて。
ウィンスレットのすごい迫力!!!憑依している!

その日、京都は猛暑の記録を更新する勢いだったが、ケイトの演技に、背筋が寒くなる思いがした。



ケイト・ウィンスレットの大ファン故、この作品を見つけた時はうれしかった。ウィンスレット久々の主演作品。監督からの熱烈オファーがあったとか。

ウディ・アレン監督、名前はあまりにも有名だけれど、難解な作品が多いかと敬遠していた。
でも、「ブルー・ジャスミン」や、「それでも恋するバルセロナ」などを見ていたことに気づく。
しかも「ブルー・ジャスミン」は大好きな作品・・・・・食わずきらいはやめよう。


ところで、同じ「ケイト」の名を持つブランシェット。私はこの二人のケイトが大好き。
「ブルー・ジャスミン」でブランシェットはアカデミー賞の女優賞を得たが、同じ様に精神を病んだ女性の役を熱演。
ジャスミンにはどこか明るさがあったが、ウィンスレット演じるジニーの閉塞感はたまらない。

ブランシェットに比して、やさぐれた感じを出すのはうまい❗
かつて、「レボリューショナル・ロード」もそうだった。
デビュー当時の「ハムレット」のオフィーリアの狂気も凄かった。

あの「ルネッサンス美人」体型がなんとも色っぽくて、共感してる!?
だから好き?
そういう訳でもないんだけど🎵

たまにははじける笑顔のウィンスレットも見たくなる(笑)
「ホリデイ」がいいかしら。「ある晴れた日に」も可愛かったなあ。



50年代の軽快なジャズがストーリーの重々しさに押しつぶされそうなのを救ってくれる。
照明が何ともオシャレ。ケイトにあてられる色合いと、若いキャロライナでは色調が違っているのも面白かった。
リゾート地で働く女性たちの、今ある階層を表すファッションも見ごたえあり。

ウディ・アレン監督、80歳を超えたそうだが、意気軒高なのが頼もしい。
もうちょっと作品を探ってみよう。
(アロママ)

原題:WONDER WHEEL
監督、脚本:ウディ・アレン
撮影:ヴィットリオ・ストラーロ
出演:ケイト・ウィンスレット、ジム・ベルーシ、ジャスティン・ティンバレイク、ジュノー・テンプル他

「ヒトラーに屈しなかった国王」(2016年ノルウェー)

2018年07月18日 | 映画の感想・批評
 普段あまり馴染みのないノルウェーの歴史をひもといてみると、古くはヴァイキングの時代に遡り、14世紀にはノルウェー王家が断絶してデンマークやスウェーデンの支配を受けることになる。
 1905年、形式的にはスウェーデンと連合国を構成していたノルウェーが分離独立する。さて、政体をどうするか国民投票が行われ、共和制でなく立憲君主制を選択することに決し、新生ノルウェー王国の君主はデンマーク国王の実弟に白羽の矢が立った。かれは夫人と幼い息子を連れ立ってこの地に渡り、ホーコン7世として即位する。
 スウェーデンともどもこの国は独立以来中立に徹し、第二次世界大戦が始まってもその姿勢を堅持した。ところが、ヒトラー率いるナチスドイツは北海の軍事拠点が欲しいためノルウェーに同盟を強要する。これを無視するノルウェーに対してドイツ軍は電撃的に侵攻するのである。
 国王はファシズム勢力に加担などできるか、と抵抗する。何しろ自らの出自が他国であるという負い目からか、なおさらこの国のために軽々しく民主主義の政体を捨てるわけにいかないという決意があったのだろう。
 いっぽう、オスロ駐在のドイツ外交官が現地の軍部と本国から強行策を指示するリッベントロップ外相をなだめながら、外交努力によって国王を説き伏せようと努力する。その駆け引きの妙がポリティカル・サスペンスのおもしろさを引き出しているところが第一の見どころだ。
 若き皇太子は国王とともにレジスタンスを主張するが、政府部内には「この際ナチスと手を組むほうが得策だ」などと洞ヶ峠を決め込む輩もいて、国王の立場はいよいよ窮地に追い込まれるのである。
 結局、国王とドイツ外交官の交渉は決裂し、ノルウェーはデンマークやオランダのように占領を許してしまう。国王と皇太子は英国に亡命し、大戦が終わるまでロンドンでレジスタンスを指揮した。
 因みに現国王はホーコン7世の孫(当時の皇太子の長男)にあたり、大戦中は母と共に母の母国であるスウェーデンに一時逃れたあと、米国で亡命生活を送ったという。(健)

原題:Kongens nei
監督:エリック・ポッペ
脚本:エリック・ポッペ、ハラール・ローセンローヴ・エーグ、ヤン・トリグヴェ・レイネランド
撮影:ヨン・クリスティアン・ローセンルン
出演:イェスパー・クリステンセン、アンドレス・バースモ・クリスティアンセン、カール・マルコヴィクス、ツヴァ・ノヴォトニー

2018年上半期ベスト5発表

2018年07月11日 | BEST


本格的な夏がやって来ました。5月にはカンヌ国際映画祭で日本出品作の金賞獲得の朗報が伝えられ、是枝監督が時の人となったのもご同慶の至りですが、ほかにも多くの力作、問題作が公開された前半。執筆者6名による上半期ベスト5の発表です。(健)

注記:原則として2018年1~6月に京阪神で劇場公開された作品を対象とした。日本映画作品名のあとの括弧書きには監督、外国映画作品名のあとには原題、監督、製作年・製作国を入れた。日本公開題名・人名表記はキネマ旬報映画データベース、外国映画の原題・製作年・製作国はInternet Movie Database に従った。


◆久
【日本映画】
1位「万引き家族」(是枝裕和)
血の繋がっていない“家族”を通して、現代日本が抱えている様々な問題や矛盾が浮かび上がってくる。カンヌ映画祭パルムドール受賞も納得、見ごたえがあった。

2位「羊と鋼の森」(橋本光二郎)
ピアノの調律師という職に就いた青年と、彼の成長を見守る人々の何とも言えない温もりのある世界で綴られる物語にほっとする。

3位「空飛ぶタイヤ」(本木克英)
大企業の横暴・理不尽に挑む中小企業の経営者。大企業や系列銀行側にも不正を潔よしとしない人間もいると描かれているが、人はどこまで自分の信念を貫くことができるのだろうと、考えさせられる。

  
【外国映画】
1位「サーミの血」(Sameblod アマンダ・シェーネル 2016年スウェーデン=ノルウェー=デンマーク)
劣等民族として差別されてきたサーミ人として生きることを捨てた、少女エレ・マリャを演じたレーネ=セシリア・スパルロクの眼差しが印象的だった。

2位「希望のかなた」(Toivon tuolla puolen アキ・カウリスマキ 2017年フィンランド=ドイツ)
最近のヨーロッパ映画は難民問題を扱った映画がふえてきたが、アキ・カウリスマキ監督が描くと、どこかとぼけていて、でも深刻さが伝わってくる。

3位「シェイプ・オブ・ウォーター」(The Shape of Water ギレルモ・デル・トロ 2017年アメリカ)
ヒロインのイライザは声を失った人魚姫、半魚人は彼女を連れ戻しに来た水の世界からの使いだったのでは…。デル・トロ監督のいう「つらい時代のおとぎ話」は、不思議な感覚の映画だった。

4位「ローズの秘密の頁」(The Secret Scripture ジム・シェリダン 2016年アイルランド)
キリスト教はつくづく未婚の母とその子どもの幸せを奪うものだなと思ってしまう。ジュディ・デンチが主演した「あなたを抱きしめるまで(2013 英・米・仏)」も同じようなテーマだったなぁ…。

5位「ダンガル きっと、つよくなる」(Dangal ニテーシュ・ティワーリー 2016年インド)
娘たちのレスリングの才能に気づいた父親が、男子レスリングよりも競技環境の悪い女子レスリングのために娘たちと共に闘っていく姿に感動。



◆Hiro
【日本映画】
1位「万引き家族」
アジア最高の先進国だと思っていた日本で、こんな生活をしている“家族”がいることに世界は驚いたことだろう。こども達の魅力を引き出すのがうまい是枝監督、今回も最高でした。

2位「友罪」(瀬々敬久)
かつて許されない罪を犯した男と、癒えることのない傷を負った男が出会い、心を許しあう中でやがてその真相を知ることに。『友情』の危うさと、信じることの大切さを考えさせられた。

3位「孤狼の血」(白石和彌)
東映の代表作「仁義なき戦い」を彷彿とさせるヴァイオレンス・アクション作品。役所広司の破天荒な捜査を学びながら成長していく広島大出身の松坂桃李の刑事ぶりがいい。呉でのロケも広島とは少し違った魅力が。

4位「妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ」(山田洋次)
「男はつらいよ」が終わってからもう20年以上がたち、山田洋次監督といえば「家族はつらいよ」とイメージする人も多いだろう。エンドタイトルには4,5の数字も確認できた。続編の期待大ですね。

5位「祈りの幕が下りる時」(福澤克雄)
滋賀のいいところをしっかり撮ってくれた功績に1票。小日向文世・松嶋奈々子父娘の境遇には泣かされました。今年一番出た涙の量が多かった作品。


【外国映画】
1位「シェイプ・オブ・ウォーター」
魅力的なモンスターに惹かれていく女性の心を、ギレルモ・デル・トロ監督が優しく描く。さまざまに変化する“水の形”にも注目。

2位「スリー・ビルボード」(Three Billboards Outside Ebbing, Missouri マーティン・マクドナー 2017年イギリス=アメリカ)
アメリカの田舎町の名もない母親の格闘劇。住んでいる方には失礼だが、ミズーリ州って、今世界で“最も行きたくない場所”らしい。そこで生き延びていくには、これくらい強い心でないと。ミズーリ、半端ない!!

3位「リメンバー・ミー」(Coco リー・アンクリッチ 2017年アメリカ)
泣きました。メキシコって、こんなに先祖を大切にする国だったんですね。家族の絆を再確認するいい機会となった作品。「死者の国」が美しくあってほしいと願うのは世界共通かも。覚えやすい歌曲も魅力的。

4位「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」(The Post スティーブン・スピルバーグ 2017年アメリカ=イギリス)
「レディ・プレイヤー1」のような娯楽作もいいけれど、やっぱりスピルバーグには世界の矛盾を突いてほしい。ジャーナリストとして真実を語ることの大切さと、その代償について考えさせられる。メリル・ストリープ、まさに適役。

5位「ハッピーエンド」(Happy End ミヒャエル・ハネケ 2017年フランス=オーストリア=ドイツ)
今年76歳になるミヒャエル・ハネケ監督の新作。「愛、アムール」から3年がたったが、ますます発想がお若い。家族をテーマに、背景には難民問題やSNSの功罪についても取り入れて、衝撃的なラストは観るものの心を動揺させる。本当にハッピー??!



◆kenya
【日本映画】
1位「羊の木」(吉田大八)
人にはそれぞれ生きていく領域がある。6人の様々な経験を経た人間が、同時期に同じ場所で交錯する。映画ならではの醍醐味で楽しめた。

2位「万引き家族」
祝!是枝裕和監督。カンヌ映画祭でのパルムドール受賞。“本物”の家族とは何か。血の繋がりとは何か。重いテーマを商業ベースに乗せる技術は、素晴らしい。子役の演出力の引き出し方も素晴らしいと思う。

3位「妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ」
シリーズ三作目。山田洋次監督の定番のネタを上級ドラマに仕上げる技には感服。安定感があり、安心して観られた。

4位「嘘を愛する女」(中江和仁)
「TSUTAYA」企画から映画化された、新風のサスペンス仕立ての恋愛映画という表現が一番相応しいだろうか。監督の次回作に期待。

5位「空飛ぶタイヤ」
超豪華俳優が出演するエンターテイメント。やはり、映画がこうでなくては。もう少し、長尺でも良いので、一つひとつのテーマをじっくり描くと、更に、良くなったかも。惜しい。


【外国映画】
1位「デトロイト」(Detroit キャサリン・ビグロー 2017年アメリカ)
キャサリン・ビグロー監督の力強い演出に感心した。タイムリーでセンシティブな人種問題を、ドキュメンタリー風に描くことで、直接的に観客に訴える。男には出来ない?男勝りではなく、真の男?終始、圧倒され続けて、上映時間を短く感じた。

2位「スリー・ビルボード」
かなり横暴な人間が徐々に変わっていく、寄り添う様を、じっくりと捉えていて、観終わった後、心が暖まる感じがした。

3位「ビガイルド/欲望のめざめ」(The Beguiled ソフィア・コッポラ 2017年アメリカ)
南北戦争時の、女性同士の恐ろしい戦いを描く。ただ、実際の戦争ではなく、一つ屋根の元で起こる戦いである。ソフィア・コッポラらしい映画だと感じた。日本語タイトルの工夫と、ソフィア・コッポラの名前をもっと前面に押し出した宣伝をすれば、もっと観客が増えたように思う。

4位「アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル」(I,Tonya クレイグ・ギレスピー 2017年アメリカ)
ナンシー・キャラガン襲撃事件を題材に、ドキュメンタリー風に勢いよく、力強く、しかも、計算しつくされた映像だった。不器用に、そして、愚直に生きた人々。白黒に分けられない人生。真実は本人しか分からない(本人も分からなくなっているかも)編集がうまい。

5位「ファントム・スレッド」(Phantom Thread ポール・トーマス・アンダーソン 2017年アメリカ=イギリス)
うら若き女性が、自身の親くらいの気難しい大人の男性の懐に入り込む究極の偏愛映画である。ダニエル・デイ・ルイス演じる主人公の姉役を演じたレスリー・マンヴィルが特に素晴らしかった。アカデミー助演女優賞候補(受賞には至らず残念)に納得。



◆アロママ
【日本映画】
上半期は日本映画をけっこう見てきた。とはいえ、17作品。ランクをつけるのは難しかった。最近見たものが印象に強く残っているのは仕方ないとしても、劇場数が少なかったり、公開時期が短かったりした作品のうち、もっと知ってもらえたらなとランクに入れたくなるのもあった。今期、最大の話題作「万引き家族」をどうするかも迷った。

1位「羊と鋼の森」
山崎賢人は苦手な若手俳優の一人だったが、今作は脇役にも恵まれて、いい味を出していた。音楽が何より素晴らしかったし、一言のセリフもない分、森永悠希の表情の変化はすばらしかった。音楽の力を目で表現していた。年長者としてのあるべき姿を三浦友和に学びたい。原作をぜひ読んでみたい。

2位「空飛ぶタイヤ」
豪華キャストと大宣伝に踊らされるまいと思いつつ、けっこう骨太だったかと。「公文書偽造」などなど、何を信じたらいいのやらという今の時代、それでも自分のよって立つ所を見失わず、真理を追究する姿勢は貫きたい。「ザ・男!」感が強かった。それも何だか新鮮な気がする

3位「友罪」
これも重い作品。瑛太の演技力は群を抜いていると思う。1月に見た「光」も狂気をはらんだ役どころだった。生田斗真、食われてたか!
佐藤浩市扮する加害者家族の立場も見ていて、苦しくなる。特に交通事故のような、誰にでも起こりうる加害者側への転落。「犯罪者は幸せになってはいけないのか!」の言葉が突き刺さる。

4位「妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ」
やっぱり、山田洋次監督の王道コメディ。安心してみていられるし、シリーズ化も楽しい。

5位「blank13」(斎藤工)
今年も大人気の高橋一生、何本か見たが、この作品の高橋一生が一番美しいと思える。斎藤工監督のこれからに期待して。


【外国映画】
日本映画に比べると、今期は少なめ。全部で11作品。社会派作品が多かった。見逃しもたくさん。年末までに丁寧に拾って観ていきたい。

1位「あなたの旅立ち、綴ります」(The Last Word マーク・ペリントン 2017年アメリカ)
シャーリー・マクレーン健在!若い人たちを巻き込んでの終活は圧巻!こんなふうに最後まで変化を起こしていくパワーを持ちたい?う~ん、まあ静かに消えたいかな、私は。

2位「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」
やっぱり、メリル・ストリープ!外せない!普通の主婦から責任者として覚悟を決めていく瞬間は観ているこちらの背筋も伸びてくる。

3位「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」(Darkest Hour ジョー・ライト 2017年イギリス=アメリカ)
1、2位と女性目線の作品を挙げたけれど、チャーチルも人の子、奥さんの掌の上で転がされている姿を見ると、この作品の隠れた主人公はチャーチル夫人?
タイピスト役のリリー・ジェームズも可愛かった。

4位「スリー・ビルボード」
実は選ぶのをかなり迷った。ちゃんとこの映画を理解できたのかしらと。
娘を殺された母の強い怒りの向かった先は地元の警察。あまりに過激な攻撃の表現に周囲の理解も離れてしまう。これでは被害者家族が可哀そう・・・な話が、そういうふうにも転ばず、でも結局は「怒りだけでは人間は生きられない」ことを伝えている・・・・・のかな。

5位「ピーターラビット」(Peter Rabbit ウィル・グラック 2018年オーストラリア=アメリカ)
どうしても硬派な作品が上位を占めるのだけれど、今期の洋画の中では気楽に楽しめた。見た目の可愛さに騙されそうになる、シュールな作品。ウサギのCGの出来栄えも素晴らしいけれど、「人間はグリーンシートの前でひたすら一人芝居を続けていたのだろうな」と、制作現場を想像したら、頭が下がる!ピーターラビットにボコボコにされるマグレガー氏に一票。



◆KOICHI
【日本映画】
日本映画の鑑賞本数が少ないために、2本しか挙げられませんでした。旧作はけっこう見ているのですが、新作を見る機会が少なくてこのような結果になりました。

1位「万引き家族」
家族の愛に恵まれない者たちが集まって疑似家族を作り、祖母の年金と万引きによって生計を立てていく。本当の家族の絆は壊れている。かといって疑似家族の絆が万全というわけでもない。リリーフランキーが少年を置いて逃げようとしたことに、少年は不信の念を抱いている。JKビジネスをしていた少女は、樹木希林が少女の両親からお金をもらっていたことにショックを受けている。少年は年下の少女をかばって自分が捕まるような行動をとったが、そもそも少年の心にはこの疑似家族に対する違和感が芽生えていたのではないか。少年や少女にとって安住の地はどこにもない。「本当の家族の絆は壊れていても疑似家族の絆は強い」という安易な結論にもっていかなかったところが、この映画の深いところ。

2位「空飛ぶタイヤ」
ややありきたりな展開ではあるが、大企業内部の組織構造をよく描いている。タイヤ脱落事故を起こした運送会社の社長赤松は、企業から提示された1億円を受け取らず、真相解明のために全国を走り回る。赤松の孤軍奮闘ぶりは素晴らしいが、中小企業の社長一人の力では大企業のリコール隠しを暴くことはできない。内部告発する大企業の社員、不正を疑う銀行の調査員やジャーナリスト、同種のタイヤ事故を起こした運送会社の社員等々の協力を得て、初めて真相が明らかになっていく。お互いの存在は知らなくても、同じ志を持った者たちが同時発生的に現れて、変わるはずのないものが変わっていく。


【外国映画】
1位「女は二度決断する」(Aus dem Nichts ファテイ・アキン 2017年ドイツ=フランス)
テロの犯人であるネオナチが、およそネオナチらしくない若い男女のカップルであることに意外な気がする。海岸を二人でジョギングしている姿はまるで青春映画の主人公のようだ。何故、監督はこのようなキャスティングをしたのか。何故、主人公のカチャは一度目の爆破を中止したのか。この作品は復讐をモチーフにしているが、報復がテーマではなく、主人公の精神の崩壊を描くことに重きを置いている。壊れゆく女の心理をサスペンス調のサイレント的な映像で描いている。

2位「ロープ/戦場の生命線」(A Perfect Day フェルナンド・アラノア 2015年スペイン)
「何をやってもうまくいかない」とラストでフランス人の女性がため息まじりにつぶやく台詞が原題になっている。危険な紛争地域で、泥まみれ糞尿まみれになりながら、住民の水と衛生を守る仕事に携わる活動家を描いた作品。PKOや国境なき医師団のように世間の注目を浴びることもなく、地味で危険できつい任務に従事する要領の悪い人たち。人間生活の根幹に関わるとても大事な職務だが、殊更に意義を強調することもなく、功績を称えるわけでもなく、淡々と仕事ぶりを描いているのがいい。

3位「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」
映画の舞台が権力と最前線で闘うニューヨークタイムズではなく、二番手のワシントンポストであることがこの作品のテーマを物語っている。権力vsジャーナリズムという構図はこれまでにも多くの映画で描かれているが、この作品にはもうひとつのテーマがある。経営にも報道の仕事にも素人であった専業主婦のキャサリンは、父親と夫の遺志を受け継ぎ、ポストの社長となる。経験の浅いキャサリンに重大な決断を迫る事件が起こる。現場で働く記者たちとは違い、経営者は背負っているものがあまりにも多い。キャサリンの苦悩を描くために、舞台をポストにしたのではないか。キャサリンの決断と報道の自由の勝利は感動的である。

4位「ハッピーエンド」
ロラン家は各人が深刻な問題を抱えていて、相互のコミュニケーションは乏しく、家族関係は完全に崩壊しているように見える。母親を毒殺した少女が、祖父の自殺を幇助しようとするラストシーン。少女の父や伯母が祖父を助けにいくところで映画は終わる。祖父は死んだのか、救出されたのか、結論は観客の想像に委ねられる。あのまま祖父が誰にも気づかれずに大海の藻屑と消えたなら、絶望的なラストであったろうが、そうはならずに一抹の希望と可能性を残した作品になった。原題のHappy Endは必ずしも皮肉ではない。この家族の絆は皮一枚のところでつながっているのではないか。

5位「ザ・スクエア 思いやりの聖域」(The Square リューベン・オストルンド 2017年スウェーデン=独=仏=デンマーク)
5/23の映画の感想・批評のところでも述べたが、この作品は貧困層への偏見と階層間の断絶、現代美術や障害者への先入観、スノビズムを意地悪でアイロニカルな視点で描いている。シニカルで斜に構えた態度や音や台詞によって恐怖感を与える手法、説明的ではない語り口はミヒャエル・ハネケを連想させる。映画の中に出てくる『スクエア』という作品は鑑賞者の参加を求める参加型アートで、インスタレーションというカテゴリーに入る現代美術。キャッチフレーズは「この四角の空間の中では誰しもが平等で・・・」というものらしいが、この文言にはあまり意味はなく、関心を引くために作られたものとしか思えない。参加させることが目的なので、キャッチフレーズはセンセーショナルなものがいいと考えたのだろう ・・そんなふうに思う私もかなりシニカルなのかもしれない。



◆健
【日本映画】
1位「万引き家族」
現下の為政者の目にはきょうの米を心配する貧困家庭など見えないらしいが、国民を分断して確執を生ませようという権力者の施策に敢然と異を唱える是枝の現実直視に勇気をもらった。

2位「リバーズ・エッジ」(行定勲)
彼氏がいじめの対象にするゲイの男子を母性愛的に守る女子高生。そのいじめられっ子を慕う腐女子が現れて、3人である秘密を共有するのはまるで「スタンド・バイ・ミー」だ。

3位「友罪」
上司と衝突して記者をやめた青っぽい若者、かれと同じ町工場で働く得体の知れない友人。幼い女の子をはねて死なせた息子の贖罪を引きずる初老の男の話が並行して語られ、心の闇の深淵を覗くようだ。

4位「妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ」
法華の太鼓のような連作もの。「万引き家族」とはまた違った意味での家族の在り様を描き、人情を絡めた老練な山田演出が冴え渡って要所でウルウルとさせる。

5位「空飛ぶタイヤ」
財閥系メーカー製トレーラーで致死事故を起こした中小運送会社が整備不良を責められる。しかし、車の欠陥がもたらした事故ではないかとの疑惑が膨らみ、やがて社長自らが足を棒にして事故調査に乗り出す。正統派社会派の秀作。


【外国映画】
1位「スリー・ビルボード」
娘を殺された母親がその一因を自分に求めるが故に、憎むべき犯人を早く特定したいと願う遺族心理(実はこれが冤罪を複雑化するのだが)を描いて秀逸。主演女優が抜群にいい。

2位「シェイプ・オブ・ウオーター」
異形の者のラブロマンスがスリリングかつ興味津々。少数者の側に立って、ありふれた男女の恋など犬にでも喰わせろとでもいいたい心意気に胸がすく思いがした。

3位「ラッキー」(Lucky ジョン・キャロル・リンチ 2017年アメリカ)
ハリー・ディーン・スタントンという希有の逸材を得たキャロル・リンチは肩肘張らない自然体で、奇跡ともいうべきのどかな日常を紡ぎ出す。冒頭とラストに登場する亀が悠然と歩く姿がおかしい。

4位「30年後の同窓会」(Last Flag Flying リチャード・リンクレイター 2017年アメリカ)
ベトナムとイラクでの大義なき戦争で国に裏切られたと感じる主人公。国家の体面に押しつぶされそうになりながら個の良心を貫き通そうとする男たち。一寸の虫にも五分の魂だ。

5位「タクシー運転手 ~約束は海を越えて~」(택시운전사 チャン・フン 2017年韓国)
光州事件を扱って前半コミカルに後半は打って変わったドキュドラマで見る者を圧倒する。「君の名前で僕を呼んで」「フロリダ・プロジェクト」も捨てがたく、ほぼ横一線だった。

「ファントム・スレッド」    (2017年 アメリカ映画)

2018年07月04日 | 映画の感想・批評
 1950年代のロンドン。オートクチュールの仕立て屋レイノルズ(ダニエル・デイ=ルイス)は、ある田舎町で出会ったウエイトレスのアルマ(ヴィッキー・クリープス)に一目惚れし、二人はたちまち恋に落ちる。レイノルズにとってアルマは理想の体型であり、彼女をモデルにして、創作のイメージを膨らませていく。
 レイノルズは超一流のデザイナーであるが、気むずかしく、自己中心的で、プライドが高い。自分のためだけに時間を使いたいと、初老の現在まで独身を貫いてきた。レイノルズは亡くなった母への思慕が強く、また仕事のパートナーである姉が公私にわたって干渉してくる。音に敏感で、アルマが立てるがさつな音が気になって仕方がない。アルマはレイノルズを愛しているが、彼の気持ちがよくわからない。二人だけのディナーの席を設けても、アルマの手料理に文句を言うばかりで少しもいいムードにならない。挙句の果ては罵りあいが始まってしまう始末。思い悩んだアルマは、ある日、里山で見つけた毒キノコをレイノルズの食事に混ぜるのだが・・・
 最初は田舎娘をレディに仕立て上げる「マイフェアレディ」のようにも見えた。レイノルズ家の事情が描かれていくにつれ、「レベッカ」のようなゴシック・ロマンの不気味さが感じられ、ヒロインが毒を盛るに至ってドロドロの愛憎劇の様相を呈してきた。一体どうなるのかと思いきや、事態は意外な方向へ展開していく。
 高邁な恋愛哲学や救いようのないトラウマがあるわけではない。レイノルズは亡くなった母の幻影や分身のような姉の影響下にあるとしても、けして自分を見失っているわけではない。仕事一筋で融通が利かず、恋愛の機微に疎いところがあるだけである。アルマは故意に無作法な振る舞いをして、神経質なレイノルズを挑発する。レイノルズの怒りが爆発すると、アルマはさらに過激に攻めてくる・・・まるでゲームのように繰り広げられる恋愛バトル。結局、この映画はラブコメディーではないか。ブラックなラブコメディーというか、ユーモアのないスクリューボールコメディというか、喧嘩ばかりしている二人であるが、本当は相思相愛なのである。
 レイノルズにはこれまで何人も恋人がいたが、みんな彼の自己中心主義に音を上げて去って行った。アルマだけがめげずに最後までがちんこで闘った。都会派の気むずかしい独身主義者が、田舎娘の愛の熱量に圧倒され、打ちのめされて、屈服した・・・そんなラブストーリーである。(KOICHI)

原題:Phantom Thread
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
撮影:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス
   ヴィッキー・クリープス