2017年も早くも半分が過ぎ去りました。九州を中心とする西日本の豪雨、水害には心を痛めるばかりです。亡くなられた方々には心中より哀悼の意を表します。
恒例の執筆者によるベスト5の発表です。しばらくお休みされていました紅一点「久」さんが復帰されました。下半期から4人体制で当コラムを充実させるべく奮闘いたしますので、読者の皆さまのご支援を今後ともよろしくお願い申し上げます。(健)
注記:原則として2017年1~6月に京阪神で劇場公開された作品を対象とした。日本映画作品名のあとの括弧書きには監督、外国映画作品名のあとには原題、監督、製作年・製作国を入れた。日本公開題名・人名表記はキネマ旬報映画データベース、外国映画の原題・製作年・製作国はInternet Movie Database に従った。
◆久
【日本映画】
1「標的の島 風(かじ)かたか」(三上智恵)
母の故郷、京丹後に関西初の米軍基地「経ヶ岬通信所」ができた。松山善三監督の『喜びも悲しみも幾歳月』にも登場する経ヶ岬灯台が近くにある。「沖縄ではまだ戦争は終わっていない」という声が胸に響く。
2017年上半期、日本映画はたった4作品しか見ていない。他の3作品はベストにあげるほど感動しなかったので選べなかった。
【外国映画】
1「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」(Eye in the Sky、ギャヴィン・フッド、2015年イギリス・南ア)
テロリストの隠れ家の前でパンを売る少女。自爆テロを防ぐために少女の生命を犠牲にするのか。戦場から遠く離れた会議室でドローンから送られてくる映像に葛藤する軍や政府の高官たちの姿が滑稽だ。
2「わたしはダニエル・ブレイク」(I, Daniel Blake、ケン・ローチ、2016年イギリス・フランス・ベルギー)
病気で失業を余儀なくされたダニエル・ブレイクは、人と人との対応ではなくパソコン相手の諸手続きに怒りを爆発させる。番号や記号ではなく、一人の人格を持った人間としての扱いを求める世界中のダニエル・ブレイクにエール!
3「タレンタイム 優しい歌」(Talentime、ヤスミン・アフマド、2009年マレーシア)
多様な民族や宗教の違う人々が暮らすマレーシア社会。そんな中でいろいろな問題を抱えながら生きる3人の若者の愛と友情のストーリーが爽やかだった。
4「ヒトラーの忘れもの」(Under sandet、マーチン・サントフルート、2015年デンマーク・ドイツ)
第2次大戦後、戦争中にナチスがデンマークの海岸線に埋めた地雷撤去作業に、捕虜となったドイツ人少年兵たちが駆り出されたという事実に驚きと怒りを感じる。しかし、戦争の犠牲は様々な形をとって人々を苦しめるものだとつくづく思う。
5「ムーンライト」(Moonlight、バリー・ジェンキンス、2016年アメリカ)
アメリカ南部で黒人、ホモセクシュアルという最も攻撃の対象となる存在だった主人公が選んだ生き方がやるせない。
◆Hiro
【日本映画】
今年は本当に見ていない…。「この世界の片隅に」「湯を沸かすほどの熱い愛」は、BEST1級だが、昨年度対象作品。わずかに感動を得たのは「三月のライオン」の前編。ちょうど将棋ブームが始まったころで、ちょっとタイミング的には早かったか…。それにしても藤井4段、14歳にして29連勝とはすごいですね。
ということで、残念ですが今回のベスト5は棄権させていただきます。
【外国映画】
1「ムーンライト」
静かだけれど強い衝撃と溢れる感動で、何かを叫ばずにはいられないような衝動に駆られる力作。アカデミー賞作品賞受賞も頷ける。ほとんどの人は友達のケヴィンと同じ道を歩むことだろうが、それだけに一途な主人公シャロンの生き方に深い感銘を覚える。
2「マンチェスター・バイ・ザ・シー」(Manchester by the Sea、ケネス・ロナーガン、2016年アメリカ)
ケイシー・アフレックはこの作品で見事に演技力が開花。あの虚ろな目に、自信無げな話し方に、背負っている深い悲しみがそのまんま表れている。対照的に元気にふるまう甥っ子とのこれからに、明るい日が差し始めるラストもいい。
3「ラ・ラ・ランド」(La La Land、デイミアン・チャゼル、2016年アメリカ)
やっぱり映画は楽しくなくっちゃ!!というメッセージが、軽やかな音楽とともに伝わってくる。映画が存在する限り、ハリウッドはいつの時代もあこがれの場所なのだ。
4「わたしは、ダニエル・ブレイク」
『ゆりかごから墓場まで』のはずのイギリスでも、こんな厳しい現実があるとは。超高齢化社会に突入した日本も他人ごとではない、しっかり先を見通して、だれもが幸せになれる社会を目指したいものだ。
5「メッセージ」(Arrival、ドゥニ・ヴィルヌーヴ 、2016年アメリカ)
突如現れた宇宙船の形がユニーク。言語学者のエイミー・アダムスと、物理学者のジェレミー・レナーが、協力し合いながら異星人からのメッセージを解読していく。未来を予想できるという主人公の能力が、観客の想像力を無限大に広げてくれる。
◆kenya
【日本映画】
1「映画 夜空はいつでも最高密度の青空だ」(石井裕也)
主演の石田静河が良かった。漠然とだが、自分と世間にイライラを募らせながらも、生きていかなくてはいけない不条理感、やるせなさを身体全体で表現して、彼女のおかげで、この映画が成り立っている。池松壮亮を凌ぐ圧倒的な演技だと思った。今年の新人賞候補かな。
2「本能寺ホテル」(鈴木雅之)
想像より、面白かったので2位にした。京都が舞台でもあるし、綾瀬はるかが抜群に可愛かった。「海街diary」と違う面が観られた。
3「追憶」(降旗康男)
降旗監督と佐藤大作撮影による、「ザ・昭和映画」で、安定感に対して3位にランクイン。岡田准一の演技は真面目過ぎて観ていて疲れたけど。
4「恋妻家宮本」(遊河和彦)
全編軽いタッチだが、セリフがよく考えられていて、心に響く部分(共感?)する場面が多かった。
5「家族はつらいよ2」(山田洋二)
教科書通りで、映画製作を目指す人は、お手本とすべき映画では。橋爪功の息子の事件があって、パート3は出来るかな?(余計な心配?)でも、実生活でも「家族はつらいよ」
【外国映画】
1「ムーンライト」
昨年・一昨年の白人優位のアカデミー賞、そして、今年のアカデミー賞のハプニングに至るまで、年度を跨ぐ演出なのか?中々、スポットライトが当たりにくいテーマを扱う複雑な映画がアカデミー賞を受賞した。歴史的快挙かもしれない。主人公二人が、久し振りの再会をするシーンや、ラストシーンが忘れられない。
2「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
とても地味だが、生きていく勇気・希望・覚悟を与えてくれる映画だと思う。主人公のケーシー・アフレックがアカデミー賞主演男優賞を獲得したが、助演女優賞候補になったミシェル・ウィリアムズもとても良かった。
3「LION/ライオン ~25年目のただいま~」(Lion、2016年イギリス・オーストラリア・アメリカ)
親が子供の誕生をどれだけ嬉しく迎え入れたのか。ラストにテロップで、生みの親が付けた「サルー」という名前の意味が明かされる。涙なしでは観られない。
4「メッセージ」
最近、AIや人工知能がよく話題に挙がる。この映画は、人間本来の「生」や「知能」に対する警鐘なのか。監督の次作「ブレードランナー」の続編に注目。
5「ラ・ラ・ランド」
私は、ミュージカルは苦手だが、音楽が最高に良かった。今でも思い出し、身体が動き出す。アカデミー賞主演女優賞受賞のエマ・ストーンはもちろん良かったが、ライアン・ゴズリングが最後までしっくりこなかった
◆健
【日本映画】
1「愚行録」(石川慶)
冒頭のバスの場面で主人公の青年の屈折した性格を鮮やかに描写するあたりの手腕は手練れともいえるが、石川慶は今後大いに期待できる異才というほかない。
2「光」(河瀬直美)
目の不自由な人が映画を鑑賞する。その手助けとして制作される音声ガイド。主人公の女性はその原稿を書く仕事をしており、かつては将来を嘱望されたプロ・カメラマンでありながら視覚を失った失意の男との出会いがスリリングに描かれる。河瀬の最高傑作ではないか。
3「帝一の國」(永井聡)
呵々大笑、大いに楽しませてもらった。名門男子高校の生徒会長選挙に青春をかける今風の若者たちの生態をリアルに描写する。選挙に落ちたら死ぬという菅田将暉を彼にいつも寄りそう親友の志尊淳が「死んじゃ、やだ!」と抱きつく場面には笑ってしまった。
4「家族はつらいよ2」
第一作よりはるかにおもしろい社会風刺劇として、またほのぼのとした家庭劇(シットコム)として、山田洋次は松竹伝統の人情喜劇を熟練の技で紡ぎ出した。
5「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」
最果タヒの詩をベースにイメージが際限もなく拡がる恋愛のスリルとでもいおうか。日雇いで糊口をしのぐ青年と看護師でありながらガールズバーでアルバイトする女性の日常が淡々と描かれ、やがてふたりが出逢う。石井の映画作家としてのメルクマールとなる一編だ。
【外国映画】
1「アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場」
英米軍が自爆テロの準備をするテロリストの隠れ家にミサイルを撃ち込もうとするそのとき、ひとりのいたいけな少女がその前でパンを売り始める。攻撃か否か、観客は固唾を呑んでその決断を見守るのであるが、生命の尊厳の究極に迫る問題作だ。
2「セールスマン」(Forushande、アスガー・ファルハディ、2016年イラン・フランス)
貞操観や女性の立場が文化の相違によってかくまで異なり、性的被害者が加害者以上に苦しみを味わうことを強いられるイスラム社会が、とんでもない悲劇を生む。相互に敬愛する知的な夫婦の亀裂が、ある事件を境にもはや修復不能となるのだ。
3「マンチェスター・バイ・ザ・シー」
取り返しのつかない過ちを犯してそのトラウマで生きる屍となった無気力な男。生きるとは試練でもあり償いでもある、だから逃げずにひたすら生きよ、苦しめ!といっているような、極めて厳かな叱咤を浴びせられた思いがする。
4「カフェ・ソサエティ」(Café Society、ウディ・アレン、2016年アメリカ)
ニューヨークからハリウッドの叔父を訪ねて映画界の仕事に就くアレンの分身のような若者が、やがて失恋してニューヨークに戻り事業家として成功する成長物語をアレンは実に心地よく楽しく粋に撮っている。山田洋次同様、熟練の味だ。
5「ムーンライト」
黒人、貧困、母子家庭、性的少数者・・・と何重苦に苛まれる若者がこれが同じ国かと見まがうほどのアメリカ南部の差別、偏見の中で徹底的に自己を抑圧し、本性を隠してマッチョに生きようとするが、ラストの旧友との再会にせめてもの救いを見た。