シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「ズートピア」 (2016年 アメリカ映画)

2016年05月22日 | 映画の感想・批評


 32万→44万→29万→35万→38万、この数字の並びはいったい何を表してるかおわかりだろうか。実はこれ、現在大ヒット中の映画「ズートピア」における、毎週土日の観客動員数の推移を表したものである。ほとんどの作品が、週を追うごとに動員減となるのが普通なのだが、「ズートピア」は違う。さすがにGW中は「名探偵コナン」にトップを譲ったものの、3週目より連続3週第1位、それどころか動員記録が尻上がりにアップしているのである。こんな現象は1昨年の「アナと雪の女王」以来のこと。さすがディズニーブランド強しの感があるが、それだけではない。これは「ズートピア」という作品自体が持っている力に他ならない。とにかくよくできている。面白いだけでなく、テーマ性もしっかり持っていて、子どもから高齢者まで、あらゆる人々に夢と希望を与えてくれる貴重な作品なのだ。
 よくぞ考えたものだ。動物たちが人間のように暮らす文明社会、動物たちの理想郷ともいえるところが「ズートピア」。“誰もが夢をかなえることができる”その場所で、立派な警察官になろうと奮闘するのは主人公のウサギのジュディ。パトロール中に出会ったキツネの詐欺師ニックと共に不可解な失踪事件の謎を解き明かしていく。
 誰もが知っているお馴染みの動物たちが一堂に集まり、人間と同じように暮らす姿は圧巻だが、その一方で動物たちが持つ本来の習性や特徴もしっかりアピールして、キャラクターに生かしているところが何とも愉快だ。特にナマケモノのフラッシュのエピソードは、抱腹絶倒間違いなし。笑いをこらえるのに涙が出た。さらに動物の9割が捕食される側の動物であることに着目し、固定観念や偏見が生まれる現実と、それをなくしていくことの大切さを訴えているテーマは誰もが共感できるところ。折りしもG7で各国首脳が日本に集まり協議したばかりだが、国や人種、宗教などは違っても、多様性を尊重し、一人ひとりの活躍の場が保障された世界〈ユートピア〉の実現をぜひ目指していきたいものだ。
 ・・・こんなことまで考えさせてくれるアニメ「ズートピア」って、やっぱりすごい!!
(HIRO)

原題:ZOOTOPIA
監督:バイロン・ハワード、リッチ・ムーア
脚本:ジャレド・ブッシュ、フィル・ジョンストン
製作総指揮:ジョン・ラセター
音楽:マイケル・ジアッチーノ
声の出演:ジェニファー・グッドウィン、ジェイソン・ベイトマン、シャキーラ
日本語吹き替え版声の出演:上戸彩、森川智之、高橋茂雄(サバンナ)、芋洗坂係長



「64 ロクヨン 前編」(2016日本映画)

2016年05月11日 | 映画の感想・批評
 

 本来は後編を見てから取り上げるべきだろうが、前編だけでも十分見応えのあるできばえなので敢えて紹介することとした。
 時代は昭和64年1月初旬に遡る。周知のとおり昭和天皇が生死の間をさまよい、年も改まった1月7日早朝、崩御した。その2日前に事件は起こる。7歳の少女が誘拐され、県警は万全の体制でのぞむのだが、まんまと犯人に出し抜かれて身代金を奪われた挙げ句、数日後には少女が遺体となって発見されるという最悪の事態を迎える。やがて、事件は迷宮入りし、時効直前の平成14年12月に話は飛ぶのだ。
 当時、捜査の第一線にいて苦い経験をした刑事(佐藤浩市)は、いま広報官として県警記者クラブとの窓口に異動している。警察庁長官が時効を前に被害者の遺族を訪問し、必ず犯人を検挙すると決意を表明するパフォーマンスが企画され、広報官はその段取りを押しつけられることになる。そこで、さまざまな問題が噴出する。
 たとえば、県警本部長は警察庁のキャリアが一時的に身を置くポストだが、それ以外にも警務部長がそうであるらしく、いっぽう現場の捜査を指揮する刑事部長は県警生え抜きの最上ポストであるという。ところが、刑事部長のポストまで召し上げようという警察庁の謀略が進行しているとか、交通事故の加害者の実名報道をめぐる広報と記者クラブのせめぎ合いとか、誘拐事件発生時に犯人からの電話録音を担当していた連中が不可解な退職をしているとか、そういう確執やトラブル、謎が徐々に吹き出して来るのだ。
 圧巻は記者クラブと広報官の対決だろう。ここは群像劇としてもよくできている。私は原田眞人監督の秀作「クライマーズ・ハイ」を思い出してしまった。
 ある日、記者がふらりと広報へ現れて捜査一課に誰もいないが何か事件か、と聴いてくる。何も耳にしていない広報官はあわてる。そこで、次なる大きな壁が立ちはだかるのである。映画誕生当時の連続活劇ではないが、さあ、みなさんこれからどうなるか、あとは次回のお楽しみである。(健)

監督:瀬々敬久
脚色:瀬々敬久、久松真一
原作:横山秀夫
撮影:斉藤幸一
出演:佐藤浩市、綾野剛、榮倉奈々、夏川結衣、三浦友和、永瀬正敏、瑛太、奥田瑛二、窪田正孝、吉岡秀隆、緒形直人、坂口健太郎、椎名桔平、滝藤賢一

「レヴェナント 蘇えりし者」(2015年 アメリカ映画)

2016年05月01日 | 映画の感想・批評


アメリカ西部の原野で、毛皮狩りをするレオナルド・ディカプリオ扮するハンターが、クマに襲われ、瀕死の重傷を負う。一命を取り留めるも極寒と原住民からの追手に逃げきれず、仲間に裏切られ、更に、口封じの為、目前で息子を殺され、過酷な大自然での孤独な復讐劇に出発するドラマである。
 「復讐する」という気持ちだけで、生き抜くのである。クマに襲われて負った傷口を焼いて消毒したり、生肉・生魚を食べたり、馬と一緒に崖から落ちた後、死んだ馬の内臓を取り除いて、皮だけの馬のお腹で寝たり、とにかくサバイバルの連続である。筋肉ムキムキではないのに、あのしぶとさ・執念を引き出したのは気持ちだけであろう。それを表現したディカプリオは素晴らしかった。徐々に痩せていくのもリアル感を醸し出していた。
 演技が素晴らしい上に、この映画には強いメッセージが込められていると思う。それは、ラストで復讐をやり遂げたディカプリオが画面を真正面から凝視するシーンが表していると思う。人間の善悪とは何か?何を糧に生きていくのか?どう生きていきたいのか?映画の中にどっぷりと浸かっていた観客を一瞬にして現実に引き戻し、たくさんの問いを投げかけてくるのである。生きていくって、大自然のサバイバルよりも大変かも・・・。考えさせられる映画であった。
 そのディカプリオがアカデミー賞ノミネート5回目で、初めてオスカーを手にし、イニャリトゥが監督賞を、ルベツキが撮影賞を受賞した。冒頭で声を失い、表情に気持ちを表現しなければならず、ディカプリオの受賞は納得。映画ならではの演技だったとも思う。是非、あの表情を大画面でご覧頂きたい。撮影も、ロングショットを多く取り入れ、壮大な大自然を感じられて、映画らしかった。また、監督の授賞式のコメントも良かった。劇中のセリフ「肌の色で決めつけられる」に重ねて、「肌の色は髪の毛の長さと同じように意味の無いこと」。詩人でもありますね。賞は逃したが、助演男優候補のトム・ハーディも受賞してもおかしくない演技だったと思う。作品賞が取れなかったのはやっかみかな?
(kenya)

原題:「The Revenant」
監督・脚本・製作:アレハンドロ・G・イニャリトゥ
撮影:エマニュエル・ルベツキ
音楽:坂本龍一、アルヴァ・ノト
脚本:マーク・L・スミス
製作:アーノン・ミルチャン、スティーヴ・ゴリン、ジェームズ・W・スコッチドープル
出演:レオナルド・ディカプリオ、トム・ハーディ、ドーナル・グリーソン、ウィル・ポールター