シネマ見どころ

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2014年上半期ベスト5発表!

2014年07月26日 | BEST
 本年も折り返し点を通過し、ブログ執筆者3名が7月20日(日)に大津市の某所に集い、上半期の総括ということでベスト5作品を発表して個々の作品についてコメントして貰いました。以下はその座談会の採録です。(Ken)


Ken:上半期総括ということで、みなさんから順にベスト5を発表してください。まず久さんから。

久:私は日本映画を見た本数が少なくて、いろんな国の映画を見てたら日本映画が少なくなるのは当たり前かなと、これ言い訳です(笑)。日本映画は3本しか見ていない。1位は「太秦ライムライト」、2位は「超高速!参勤交代」、3位は「小さいおうち」。全部でこれだけ。「太秦ライムライト」はつまらないかなと思って見たら、意外としっとりした映画で、主人公が斬られ役一筋で来た人で、ものすごい真面目さとか、役者としては上手じゃないかも知れないけれど、人柄が滲み出ているような作品だった。外国映画はとりあえず5本選んで来たが、なかなか順位をつけにくい。テーマもまるっきり違うし、出ている人たちも違うし、描かれている中身、社会とかも全然違うし、それが一つ一つ見ていておもしろかったとか、いろいろ迫ってくるものがある。4位の「ワンチャンス」などは明るい映画で。それから3位に挙げた「世界の果ての通学路」はドキュメンタリ。見ていると泣けてくる。といっても悲しいとかじゃない。世界の4カ所かな、インド、ケニヤ、モロッコ、あと中南米の国だったと思うが、その子どもたちが学校に通う苦労を描いている。例えばモロッコなどは学校まで4時間かかるのだけれども、毎日ではなくて週末に自宅に帰りまた学校へ行って向うで1週間過ごす。ケニヤなどはジャングルじゃないけれど野生の動物とかを避けながら学校まで2時間かけて通う。中南米でも1時間かかる。日本の子どもたちでそこまでして学校に行きたいという子がいるかどうか。

HIRO:いまの日本の子どもたちに見せたいですね。日本の子どもたちは手厚くされているので(笑)。

久:インドの話は車椅子で行くんだけれど、その車椅子を幼い弟たちが押して行く。それも1時間とか1時間半かけて。貧しい家の子どもだと思うが車椅子も日本のように性能のよい車椅子ではないので途中でパンクしたり、それはいろんなこととかあって、それでも学校へ行きたいという子どもたちの、目の輝きがね、すごい。本当に日本の子どもたちにも見て欲しい。

Ken:1位はどうですか。

久:「あなたを抱きしめる日まで」、見ましたか。

Ken:見ました。

久:この映画は主人公のジュディ・デンチが貧しい家で育ってあまり学も無い。アイルランドはカソリックだから、バージンでなければいけないとか、宗教的なこととかいろんな縛りがある中、ジュディ・デンチはそれに外れた女で、結婚しないで妊娠して修道院に入れられ、実際に生んだ子どもは取り上げられて、そこの修道院はその子を里子に出したりしていた。その後の子どもの行き先とか全然教えてくれないので、彼女がだいぶ年を取ってからその子を探すという物語だが、今でもイギリスとは違ってアイルランドはカソリックの意識が強かったりして、宗教関係者の欺瞞性が痛烈に出ていた。私自身が神とか信じないが、本来は宗教は人を幸せにするためにあるべきものなのに、人を不幸にしてしまうということに対して怒りを感じた。彼女と一緒に子どもを探してくれる人がどちらかというとイギリスのエリートで、ふたりの教育の差などが会話の中に出ていてすごくおもしろかった。

Ken:2位は何ですか。

久:「鉄くず拾いの物語」。主人公たちとかを本人が演じている。

Ken:これはドラマですか。

久:ドキュメンタリじゃなくてドラマです。

HIRO:どこの国の映画ですか。

久:ボスニア・ヘルツェゴヴィナとフランスなどの合作。主人公達は保険がない。妊娠して出血して医者に行ってもお金が無い、保険が無いので診てもらえない、そういう状況とかが描かれ、医療というのは人を助けるためにあるのにお金とか規則とかそういうものが優先される。こういうことがあるんだという、知らないことが見られるというのが映画のいいところだ。5位はイタリア映画「フォンターナ広場 イタリアの陰謀」。ミラノで起きた事件で、警察権力とか裁判とか、1960年代の話で、労働組合の幹部とかは常に公安警察に監視されていて、事件が起きると彼等の犯行のように疑われる。警察の中にはまともな人もいて労働組合の幹部が犯人だということに疑いを覚えるが、最終的に彼も殺される。事件の表面的な裏にはいろんなことがあるということを思わせられたりする。けっこう重い映画だった。4位の「ワンチャンス」は、実話の映画化で本人が全部歌ってくれていて、オペラね。ある意味、歌を聴くだけでも映画を見る値打ちがある。

Ken:それではHIROさん。

HIRO:すばらしい作品ばかりですごいですね。私など見たくても見られないものばかりで。田舎に住んでいるのでメジャーな作品ばかり並んでしまったが、日本映画の1位は「WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~」。若い俳優がやっている単なるコメディかなと思っていたら、段々とその中に見ている者が入って行けるというか、上手に作られていて、さすが「ウォ-ターボーイズ」などを作った矢口監督らしい作品になったと思う。最後は感動できるというか、今までにない撮り方で見せてくれたので、すごいと思った。日本のよいところ、田舎のよいところも撮っていて、時間をかけてスーパーに買物に行くし、恋愛のシーンを入れたりして、普段ありそうな、妙に作られていそうで作られていないところがいい。むかしから伝わる伝統行事など日本の文化にも触れていて、そういうのが非常に印象に残った。私は初めて近江八幡のイオンシネマの試写会に当たって、これを見たが、子どもからお年寄りまで幅広く来ていて、みんな非常に感動していた。残念なのは公開されてからヒットしなかったことだ。もっと見て欲しいと思う。2位は「ぼくたちの家族」。1位と2位をどうしようか迷ったが、こちらが1位でもよかった。お母さんが脳腫瘍と診断されて、それまでバラバラだった男たちが一緒になってどうにかして助け合う。悪あがきしながら希望の道を見つけ出す作品だが、私の家も同じ家族構成なので、年格好もそっくりで、本当にこういう家族って日本中いっぱいいるだろうなと思った。やはりいざというときにバッとこう一緒になってできるというのはいいなと思いながら、バラバラなんだけど一つに繋がっているということが分かった。これからこの家族が、病気も治っていないし、どうなって行くのか、分からないけれども、ぜひみんなでハワイに行ってもらって(笑)、療養して欲しいと思った。3位は「麦子さんと」。これもお母さんが病気になって、今まで放っておいた子どもらと一緒に過ごしたいということで突然やって来るが、最初煙たがっていた子どもたちもお母さんの生まれ故郷に行ってその生い立ちや考え方などを地元の人たちと一緒に知って、自分のことをずっと気にかけてくれたんだなあというのが分かって感動できる。主演の堀北真希は新人だった「三丁目の夕日」でも感動させてもらったが同じように感動した。なかなか上手な俳優さんだと思った。4位は「小さいおうち」。ちょっと期待が大きすぎてもう少し盛り上がるかと思ったが。細かいシーンでもう1回見て確かめたいというところがある。濡れ場のシーンなんか全然無いのだけれど、松たか子の足が映ったり、吉岡秀隆の裸が映ったり、じわっと何かあったのだろうなと考えさせられるような場面が出てきて、山田監督だから上品に撮っていると思われて、そういうところがよかった。5位は「クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」。Yahooの評価では今でも1位で、大人が見ても感動させる作品だった。父親の存在を確認させる作品となっていてよかった。「利休にたずねよ」は次点。海老蔵ファンにとってはものすごくいいんじゃないかと思った。外国映画も悩んだが、1位がこれもまた家族の映画で「ネブラスカ」にした。父親がインチキ宝くじに当たったことを信じていて、息子が父親を連れて引き替えに行く。その道中で父親の若い頃や母親との出会い、そうしたことを息子が知っていくという作品。これも最後に家族愛が感じられるいい終わり方だった。2位は「ゼログラビティ」。これ1位にしてもよかったが、映像、映画という素材であれだけの宇宙空間を描けたのはすごい。これはアイマックスで見たがよかった。宇宙に行きたいとは思わなかったけれど(笑)。最後、宇宙から地球に戻ったときはこういう風なんだと思った。3位は「ウルフ・オブ・ウォールストリート」にした。ディカプリオは前から演技が巧いなと思っていたが、またこれで確認できたという感じで、ウォールストリートで働いている人たちのハッタリとか、それを思いっきり出すにはエネルギーが要るので女性の力とか麻薬の力を借りてやってるんだなと思った。日本だと規制が厳しいがアメリカではあんな風に簡単に麻薬を手に入れて使っているんだなと思った。豪快な作品だった。4位は「とらわれて夏」にした。これは拾いものだった。Kenさんの推薦もあって見たんだけど、けっこう印象に残った。(母ひとり子ひとりの)主婦が脱獄囚を匿ってしまう。この脱獄囚が魅力的な人物で、なぜ刑務所に入っていたのかという過去がフラッシュバックで途中に入れられて段々分かってくる作りになっていた。この男に惹かれて行く母親と息子の気持ちもよくわかった。彼がちょっと恐そうなんだけれどもいいところもある。上手にピーチパイを作る。みんなで作るところがものすごく印象に残っていて、最後それを生かして息子がケーキ屋さんになって大成功するオチもいいし、刑を終えて出所してきたときにちゃんと待っていたというシーン、いま思い出すだけで鳥肌が立つほどよい。5位は「それでも夜は明ける」。アカデミー賞を取った作品で、重たかったけれど、なるほど、みなさんの支持を得られる作品だと思った。注目は「アナと雪の女王」。子どもが本当にクラスのうちでも三分の一以上いや半分ぐらいが見ている。休み時間でもみんなが唄を歌う。1年生、2年生の子がね、上手に(笑)。それだけ社会に浸透している作品というのが最近なかったから、すごいなと思った。DVDも買ってしまった。100万枚以上、最初の段階で売れたらしい。まあ、中身はディズニーの域だったけれど。

久:氷にばーっと変わって行くところがすごかった。

HIRO:あれすごかったですね。3Dでは見てないので、ぜひ3Dで見たいなと思う。

Ken:私の日本映画の1位は「そこのみにて光輝く」。ずいぶん重い映画で、日本映画伝統のリアリズムの秀作というか、非常に重たいけれど強く印象に残る作品だった。2位は「ぼくたちの家族」。動物ものと難病ものは苦手で見ないのだが(笑)、これは昨年「舟を編む」を撮った石井裕也監督だから見ておいたほうがよいと思って見たら、想像していたのと全然違う映画で、難病もののお涙頂戴どころか、途中で話をがらっと変えちゃって、ラストがハッピーエンドだというのにびっくりして、これはこの監督にしてやられたな、と。難病物と見せかけておいてハッピーエンドに持って行くその手法はすごいなと思った。3位は「小さいおうち」で、これは反戦映画の一つの秀作というか。去年の例の「東京家族」。あれは微妙な映画だった。映画監督としては二人目の芸術院会員に選ばれた山田洋次が、あの黒澤明ですらなれなかった芸術院会員の名誉を受けて、第一号の先輩である小津安二郎に敬意を表してその「東京物語」という傑作をリメイクするという冒険をあえてした。失敗したら晩節を汚すというリスクも顧みず「東京家族」を撮って、結局小津を超えられなかったけれど、まあリメイクとしてはよく出来ましたという程度の水準を確保して、俺は「男はつらいよ」だけじゃないんだと言いたかったのだろう。それで「小さいおうち」で本来の山田監督にまた帰って来たという、そういう位置づけの作品ではないか。反戦を声高に叫ぶのではなくごくありふれた日常を描くことによって戦争がひたひたと足下に寄せてくるような時代の雰囲気を描いてみごとだった。例えば東京オリンピック。当時ヘルシンキと最終決戦になって東京が勝った。これで日本も一等国になったとみんな喜ぶ。中国と戦争をしてアメリカやイギリスとも関係が悪化して、そういう中でソ連に急速に接近して行く。まさにそれは現代に通じるような話で、当時と同じ状況だと山田監督が警鐘を鳴らしているように理解した。日独伊三国同盟のドイツやイタリアは独裁者が国民を力づくで押さえ込んで戦争を遂行していたので、戦争が終わりみんなほっとした。ところが、日本は少し違って国民もまた戦争指導者と一緒に戦争を煽っていた。連合軍は日本を開放して日本人に喜ばれると思っていたところ、実は日本人の多くが戦争に負けて悔しがり泣くのを見てショックを受けた。日本人というのはそういうところがあって、いまの政権はそうした危険をはらんでいる。4位は「白ゆき姫殺人事件」。これは実にうまいというか、話術が巧みで見る者はすっかり術中にはまってどんでん返しを喰わされる。5位は「愛の渦」。ポルノチックな内容がやがて変貌して、乱交に参加した男女がディスカッションドラマのようにお互いの人となりを暴いて行く進行に、これまでの映画には無い新鮮さを感じた。モスクワで賞を取って話題となった「私の男」は「そこのみにて光輝く」同様きわめて重いテーマだが、近親相姦というテーマが倫理的にちょっとついて行けなかった。それから「WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~」「超高速!参勤交代」もおもしろかった。外国映画の1位は「ゼロ・グラビティ」。この映画のすばらしさは今さらいうまでもない。2位はカンヌ映画祭で喝采されたという「アデル、ブルーは熱い色」。一発ぶん殴られたような衝撃を受けた。主人公の女の子はとても魅力的な可愛い子だが、彼女が惚れて絡め取られてしまう相手のレズの女性に扮した女優がいかにもという感じで、適役だった。男の私でも素直に感動した。3位は「8月の家族たち」。メリル・ストリープがやたらうまい。みごとだった。最後は母娘で取っ組み合いとなる家族の確執をうまく描いた。4位は「罪の手ざわり」。いくつかのエピソードが収斂されて行く語り口に感心した。5位は「あなたを抱きしめる日まで」。英国の老女がアメリカに里子に出されたわが子のその後を案じて探す。さあ、次はどうなるかというスリルがよかった。外国映画は選ぶのに苦労して、結局、「ウルフ・オブ・ウォールストリート」「アメリカン・ハッスル」「ネブラスカ」「ダラス・バイヤーズ・クラブ」「とらわれて夏」などおもしろい作品がいっぱいあって選外に漏れてしまったのは残念だ。


【久さんのベスト5】
日本映画
1位「太秦ライムライト」(落合賢)
2位「超高速!参勤交代」(本木克英)
3位「小さいおうち」(山田洋次)
外国映画
1位「あなたを抱きしめる日まで」(スチーブン・フリアーズ、2013年英国)
2位「鉄くず拾いの物語」(ダニス・ダノヴィッチ、2013年ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、フランス、スロヴェニア)
3位「世界の果ての通学路」(パスカル・プリッソン、2012年フランス)
4位「ワンチャンス」(デヴィッド・フランケル、2013年英米)
5位「フォンターナ広場 イタリアの陰謀」(マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ、2012年イタリア)

【HIROさんのベスト5】
日本映画
1位「WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~」(矢口史靖)
2位「ぼくたちの家族」(石井裕也)
3位「麦子さんと」(吉田恵輔)
4位「小さいおうち」(山田洋次)
5位「クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん」(高橋歩)
外国映画
1位「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」(アレクサンダー・ペイン、2013年アメリカ)
2位「ゼログラビティ」(アルフォンソ・キュアロン、2013年アメリカ)
3位「ウルフ・オブ・ウォールストリート」(マーチン・スコセッシ、2013年アメリカ)
4位「とらわれて夏」(ジェイソン・ライトマン、2013年アメリカ)
5位「それでも夜は明ける」(スチーヴ・マックィーン、2013年アメリカ)

【Kenのベスト5】
日本映画
1位「そこのみにて光輝く」(呉美保)
2位「ぼくたちの家族」(石井裕也)
3位「小さいおうち」(山田洋次)
4位「白ゆき姫殺人事件」(中村義洋)
5位「愛の渦」(三浦大輔)
外国映画
1位「ゼログラビティ」(アルフォンソ・キュアロン、2013年アメリカ)
2位「アデル、ブルーは熱い色」(アブデラティフ・ケシシュ、2013年フランス)
3位「8月の家族たち」(ジョン・ウェルズ、2013年アメリカ)
4位「罪の手ざわり」(ジャ・ジャンクー、2013年中国・日本)
5位「あなたを抱きしめる日まで」(スチーブン・フリアーズ、2013年英国)

「観相師」(2013年韓国映画)

2014年07月21日 | 映画の感想・批評
 15世紀中葉の李氏朝鮮、ひなびた寒村にくたびれ果てたようなやもめ男(観相師)が17歳になる倅と亡き妻の弟の三人でひっそり暮らしている。ところが、人相を見て人物やその将来を言い当てる才能を買われ、義弟とともに都に呼び寄せられたことがきっかけで彼らの運命の歯車が徐々に狂っていく。とにかく波瀾万丈の物語だ。
 病を得た国王(文宗)は年端もいかない王子の行く末を案じ、万一王位を継承したあと王族の中に謀反を企てる者はいないかを観相師に探らせる。自分が生きているうちにその芽を摘んでおこうというわけだが、下心があると見られていた王の実弟(首陽大君)もその器でないと判断した観相師の報告に、王は安堵して薨去するのである。
 ところが、である。実はこの実弟の首陽大君という男がとんでもない悪いやつで、まんまと観相師はかつがれて、王権を簒奪しようと目論むこの男の策略で政争の真っ直中に引きずり込まれてしまうのである。
 それにしても、李氏朝鮮の歴史は隣国の中国における政争と似て血なまぐさい。わが国でいえば戦国武将たちの下克上、あるいは肉親間の骨肉相はむような惨状が朝廷の内部に持ち込まれたようなものだと思えばよい。本朝では暗殺された可能性のある天皇はいても、おおっぴらに天皇を葬り去ろうとした事件は中世以降ないのではないか。
 というわけで、首陽大君(のちの国王世祖)のクーデターが成功することは朝鮮史をひもとけば容易に知見できる史実である。映画には描かれないが、亡き国王の忘れ形見である少年王(端宗)はやがてこの悪辣な叔父によって配流され毒殺されたらしい。おまけに、結局のところ、権力争いは庶民を巻き込んで多大の犠牲を強いるのである。観相師の身に起きる悲劇は、いつの時代、どの国にあろうとも戦火によってわが子を奪われる親たちを象徴しているように思われた。(ken)

原題:관상
監督:ハン・ジェリム
脚本:キム・ドンヒョク、ハン・ジェリム
撮影:ゴ・ナクソン
出演:ソン・ガンホ、イ・ジョンジェ、ベク・ユンシク、チョ・ジョンソク、キム・ヘス

「ぼくたちの家族」 (2013年 日本映画)

2014年07月11日 | 映画の感想・批評


 「えっ、母さんの命があと1週間しかない?!」突然家族に降りかかった紛れもない事実。確かに徴候はあった。物忘れがひどくなり、大事な席で突然意味不明の独り言をつぶやいたり、身近な人の名前を間違えたり…。「母さんをそう簡単に死なせてなるものか!!」病院で脳腫瘍だと診断された時、それぞれバラバラだった男たちが、一つになって動き出す。
 ぼくたちの家族を紹介しよう。長男・浩介に妻夫木聡。真面目すぎて、中学時代は引きこもってしまったこともあるが、今は結婚して独立し、もうすぐ子どもも生まれる。この窮地には長男として家族を背負って頑張らなくては、という思いが痛々しいほど伝わってくる。二男・俊平には期待の若手俳優、池松壮亮。気楽な留年生活を送っている大学生で、家族のことには無関心だったが、そのフットワークの良さが意外な展開を導くことに。父・克明には長塚京三。小さな会社の社長だが、会社は火の車。見栄っ張りで、父親らしく生きようとはしているが、どこか空回り。おそらくバブル時代に多額のローンを組んで、東京郊外にちょっと立派なマイホームを建てたのだろう。この人ならと頷ける。母・玲子に原田美枝子。病状が進むにつれ少女のように純真になり、本音を次々語りだすところは実に痛快。そこでこの家族の真の姿が浮き彫りになってくるのだが、それぞれ問題を抱えながらもやはり一つの家族。「こういう時は、笑おうよ。」が口癖の、ぼくたちの母さんがみんな大好きなんですね。
 この素晴らしい俳優たちの名演を得て、「家族とは何か?」というテーマに「これは自分自身の話だ」と受け止め、果敢に挑戦したのは、昨年「舟を編む」で数々の賞に輝いた石井裕也監督。実は小生も夫婦と息子2人の4人家族。年恰好もよく似ているので他人事のように思えなかった。はたしていざという時、息子たちはこんな風に動いてくれるかなあ…。
 (HIRO)
 
監督、脚本:石井裕也
撮影:藤澤順一
出演:妻夫木聡、原田美枝子、池松壮亮、長塚京三、黒川芽以、ユースケ・サンタマリア、鶴見辰吾
 
 

太秦ライムライト(2014年日本)

2014年07月01日 | 映画の感想・批評
 

 その他大勢、名無しの浪人であったり、侍であったり、映画やTVに登場すると、主人公に斬りかかり、ある時は剣も交えずあっという間に斬り殺され、時には剣を交えるも最後には斬り倒される。時代劇の立ち回りはそんな存在がいてドラマを盛りたてる。
 普通ならスポットライトは当たらない、そんな斬られ役一筋に生きてきた俳優が注目されている。その人の名は“福本清三”。あのトム・クルーズが主演したハリウッド映画「ラスト・サムライ」にも請われて出演した。斬り役との間(ま)と距離、どうすれば迫力ある殺陣を見せられるか、その工夫と技が世界に認められたのだ。しかし最近ではお茶の間から時代劇が消えてしまい、あの独特の斬られる型“海老反り”を見ることが出来なくなった。
 本作は“5万回斬られた男―福本清三”の初主演映画である。自分は主役をやるような俳優ではないと断り続けていたが、製作・脚本の大野裕之の熱心な要請にようやく引き受けたという。映画を見ているうちに福本清三をモデルにした主人公の香美山清一の、どんどん打ち切られていく時代劇の現場を何とか残したいという思いと、福本清三本人の時代劇の文化を残さなければという思いがダブってくる。一つのことをひたむきに励んできた男の顔に刻まれた深い皺がカッコいい。
 チャップリンの「ライムライト」の老道化師は、励まし続けてきたバレーの踊り子の晴れ舞台を見ることなく息を引き取る。一方「太秦ライムライト」の香美山は、引退して郷里で暮らしていたが、かつて殺陣の稽古をつけた愛弟子のさつきが時代劇で大役を掴み、彼女のために斬られ役として撮影に戻って来る。
 かつては百人を超す俳優が所属していた京都の東映太秦撮影所だが、今その数は激減している。しかし先日TVで最近新人が入って来たと報道されていた。次代に時代劇の灯を繋ぎ、彼らの活躍の場がなくならなければいいなと思う。(久)

監督:落合賢
脚本:大野裕之
撮影:クリス・フライクリ
出演:福本清三、山本千尋、本田博太郎、合田雅吏、萬田久子、小林稔侍、松方弘樹