ロシア軍がウクライナに侵攻して早4ヶ月、戦局は落ち着くどころか、今もウクライナのショッピングセンターにロシアのミサイルが投下されて、一般市民が多数被害を受けたというニュースが入ったばかり。かたやウクライナもNATO加盟国からの武器の支援を依頼したというから、解決までの道のりは遠くなるばかりだ。そんな中、ウクライナの広大なひまわり畑が登場する、戦争によって引き裂かれた男女の悲哀を描いたイタリア映画が話題となっている。初公開から50周年を記念し、HDレストア版として蘇った「ひまわり」だ。
実はこの作品、映画ファンになるきっかけを作ってくれた、自分にとっても生涯忘れることができない作品で、高校2年生の時、担任の先生からいただいた「高校生入場料100円の割引券」を使って観たのが最初なのだが、今でもしっかり覚えている「感動の場面」は3カ所。一つ目は戦争が終わっても帰ってこなかった夫アントニオを探しにソ連へと向かった主人公のジョバンナが、生きていた夫を目撃するやいなや、そのいきさつを察して、夫が降りてきた列車に飛び乗ってしまうシーン。必死で探していた夫には、遠い異国の地で新しい妻と可愛い子どもがいたという事実を知ったショックは計り知れないものがあったのだろう。ソフィア・ローレンの迫真の演技が胸に刺さる。二つ目は雪と氷の戦場で倒れ、凍死状態だったアントニオを現地の娘マーシャが救い出そうとするシーン。息を確かめながら徐々に命の回復を知るマーシャの笑顔がキラキラと輝いてまぶしい。アントニオにとってこのマーシャの笑顔は、生命の源ともいえる太陽のように思えたに違いない。「戦争と平和」で注目されたリュドミラ・サベーリエワの起用は大正解だった。三つ目はやはりあのラストシーンだ。どうしてもジョバンナに逢いたくてイタリアに戻ってきたアントニオだが、もう昔のように戻れないことを知り、静かにモスクワ行きの列車に乗り込む。これはもう本当に永遠の別れなのだという、マルチェロ・マストロヤンニの哀愁を帯びた表情が一段と濃く目に焼き付いた。そこに被さるヘンリー・マンシーニの永遠の名曲が、否応なしに場を盛り上げる。
今回、これらの感動の場面をもう一度確かめられたのは嬉しい限りだが(さすがに泣けはしなかったけれど・・・)新しい発見もあった。それは題名にもなっている「ひまわり」が決して鑑賞する美しい花としては描かれていないこと。冒頭いきなりひまわり畑のシーンから始まるのだが、激しく風に揺れて何とも落ち着かない。これから何かが起きるぞという予告のような気がした。“揺れる”という意味ではジョバンナがアントニオを探しにモスクワからウクライナへ向かう列車の中から見える広大なひまわり畑。しかし、ジョバンナには悠長にひまわりの花を見ている余裕などないのであろう。その心の中を表すようにひまわりも揺れる、揺れる!!なんとか落ち着いた姿が見られたのがエンドロールだ。これは新しい未来に向けて決意を固めたジョバンナの心の中と同じ。後戻りできない一つの理由として、ジョバンナにも新しい命の誕生があった。登場する赤ん坊の顔を見てあっ!と思い出した。当時、ソフィア・ローレンはイタリア映画界の大プロデューサー、カルロ・ポンティととってもいい仲だったのだ。彼そっくりの自分の愛息まで登場させるとは、この決意は強固だ。
当時のソ連での現地ロケはなかなか許可が下りなかったそうだが、「ひまわり」では度重なる交渉の結果実現でき、立派な町並みや施設、親切な政府高官や住民など、精一杯のアピールかもしれないが、当時のモスクワやウクライナ地方の様子をいろいろ見学することができる。ウクライナ支援につながる上映でもあるこの機会が、一刻も早い解決に少しでも結びつくことを祈るばかりだ。
(HIRO)
原題:I GIRASOLI
監督:ヴィットリオ・デ・シーカ
脚本:チェーザレ・サヴァッティーニ、アントニオ・グエッラ、ゲオルギ・ムディバニ
撮影:ジュゼッペ・ロトウンノ
出演:ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニ、リュドミラ・サベーリエワ、ガリナ・アンドリーワ、アンナ・カレナ、ゲルマノ・ロンゴ、グラウコ・オノラト、グナール・ジリンスキー、カルロ・ポンティJr
劇場で飾られていた支援に向けての「こま」
50年前に初めて買ったパンフレットの表紙。