シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「セシウムと少女」(2015年日本映画)

2015年09月21日 | 映画の感想・批評
 高校生のミミちゃんは、少しほかの子と違っていて自己主張する正義感の強い女の子だが、夏休みに入ったある日、寝たきりの祖母が大切にしている九官鳥のハクシが籠から脱走してしまったので、何とか探し出そうと思案する。そこで出くわしたのが神様と称する変なおじさんたち。中でもウミさんという神様は鳥に詳しくて頼りになるらしい。変なおじさんたちの応援でハクシの探索が始まるのである。
 ところで、ハクシという名前は「博士」ではなく、祖母の実家があったあたりにむかし国民的詩人の北原白秋が住んでいて、祖母が白秋を愛読していたことから、鳥の名前を「ハクシュウ」と名づけ、それが「ハクシ」になったのだという。白秋の登場には伏線があって、探訪に出たミミちゃんは東京のあちこちを歩き回るうちに福島の原発事故の数日後に降った雨の影響で東京近郊を流れる河川の上流がセシウムに汚染されている事実を知るのだが、東京の三大水系のひとつ荒川の流域に白秋が晩年住んでいた町(阿佐ヶ谷)がある。こうして、ミミちゃんは夏休みの自由課題に原発の問題を取り上げることにするのだ。
 周知のとおり日本は原子爆弾を投下された唯一の被爆国であり、1954年3月には米軍のビキニ環礁の水爆実験によって近くで操業していた第五福竜丸が被爆した(その12月には、これに触発されて製作された反核映画「ゴジラ」が公開された)。そうして、東北大震災時の福島原発事故だ。このときには、登場人物のひとりがいみじくも指摘したように、はるか遠くの原発推進国ドイツとイタリアがいち早く原発放棄を決断した。おそらく世界は日本人をまったく学習しない民族だと嗤っているのではないか。
 反原発映画というと、眉間にしわを寄せて深刻に原発反対を叫びがちだが、この映画は違う。アニメをあしらったりコラージュ風に展開する実験的な手法が楽しくておもしろい。
 ミミちゃん以下登場人物がみんな明るくて前向きで、いっこうに悲観などせず、人類の未来にいくばくかの希望をもっているところがいい。九官鳥のハクシならぬ「青い鳥」がきっと見つかるに違いないという希望を。
 最後に、原発を拡散し、武器を売り歩き、世界に誇る日本国憲法を踏みにじる現政権に言いたい。恥を知れと。 (健)

監督・脚本:才谷遼
撮影:加藤雄大
出演:白波瀬海来、川津祐介、山谷初男、長森雅人、飯田孝男

「ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション」 (2015年 アメリカ映画)

2015年09月11日 | 映画の感想・批評


 またまたやってくれました、トム・クルーズ!今回はいきなり飛び立とうとする飛行機に素手でぶら下がるなんて、まあなんと恐ろしい!!ワイヤーで守られているとはいえ、スタントマンは一切使わず、自ら過酷なアクションに挑戦していく姿には毎回本当に感動してしまう。しかし、これは序の口。その後もオペラハウスの屋根から飛び降りたり、カー+オートバイチェイス、さらに息づまる潜水アクションと、危険と背中合わせのわくわくシーンが息つく暇なく登場するのだ。53歳(!)になった今も、ますますレベルアップが可能だなんて、先日の世界選手権で200連勝を達成した吉田沙保里選手が「霊長類最強女子」なら、同じレスリングを志したトムはさしずめ「ハリウッド最強男子」か。もちろん体重別であるが…。
 このシリーズ、20年前に映画化されて今回が6作目となるが、前身は1966年から始まったテレビシリーズ。日本でも「スパイ大作戦」という題名で放映され、人気を得た。主人公イーサン・ハントに指令が伝われば消滅する仕組みや、時間との競争という哲学が半世紀もの間変わらず貫かれているのがうれしい。そして変わらないといえばおなじみのあの曲。自分もお気に入りで、ずっとケータイの呼び出し音になっている。♪~~ミッション発令、ミッション発令!!
 今回はイーサンが所属する米国の極秘諜報機関IMFの解体という危機も描かれ、そこに多国籍スパイ組織“シンジケート”の陰謀も加わって、イーサンは多方面から追跡されることになる。彼を支えるのはイーサンの能力を信じて疑わない仲間たち。チームのリーダーとして存在感が増したトムもいいが、その仲間たちがまた魅力的。前作に続きよき相棒を演じるサイモン・ペッグにジェレミー・レナー、何とアレック・ボールドウィンも加わって、IMFはさらにおもしろくなりそう。このメンバーたちと任務遂行できるなら、美女のお誘いもお預けかな?!
(HIRO)
 

原題:「Mission:Inpossible-Rogue Nation」
監督:クリストファー・マッカリー
脚本:クリストファー・マッカリー
撮影:ロバート・エルスウィット
出演:トム・クルーズ ジェレミー・レナー サイモン・ペッグ レベッカ・ファーガソン ヴィング・レイムス アレック・ボールドウィン

「さよなら、人類」(2014年、スウェーデン=ノルウェイ=フランス=ドイツ)

2015年09月01日 | 映画の感想・批評

 
 それにしても、このとぼけた北欧流のユーモアは病みつきになるかもしれない。スウェーデン映画の期待の星ロイ・アンダーソンという異才が紡ぎだすコント風のエピソードの積み重ねがおかしくも哀しい。
 たとえば、冒頭、日常の夕餉前のごくふつうに見られる家庭の光景。台所では妻がせっせと夕飯の仕度に余念がなく、ひとつ隔てた部屋で手持ち無沙汰の亭主が食卓に置かれたワインを取り上げ、栓を抜いて準備にかかろうとする。ところが、これが容易に抜けない。あの手この手を尽くすが栓は微動だにしないのである。と、突然、旦那は胸を押さえてその場に倒れこむ。心臓発作でも起こしたのだろう。何も知らない妻は鼻歌まじりに料理の手をとめないという人生の苦いひとこま。あるいは、冴えないふたり組の中年セールスマンが吸血鬼の牙だとか、笑い袋だとか、気味の悪いマスクだとかを売り歩き、いっこう売れない話は見ているこちらにはおかしいのだが、当人たちは真面目だからほのぼのと哀愁が漂う。あるいはまた、スウェーデン国王カール12世がロシア遠征の途次に立ち寄った酒場。露払いの将校が酒場にいた女性客を全員追い払うという伏線が敷かれ、そこへ乗り込んできた若き国王がソーダ水を所望し、できればそこにいるハンサムなボーイ君についでもらえまいか、と注文したあと、うつろな目でボーイを見つめながらその手に手を重ね合わせる挿話は何とも奇妙な味だ。
 18世紀頃から現代まで、とりとめのないエピソードが連ねられていくのだが、中には人類の残酷の歴史を告発する風な話もあって、何人もの黒人奴隷を巨大なタンクに押し込んで下から炙るとか、実験室で固定された猿の頭部に電流を流すとか、ブラック・ユーモアに包まれた文明批判である。
 終始カメラを固定して撮っていて、ひとつのエピソードの間はカット割りをしないという自己ルールがあるかのような禁欲的なスタイルが特徴だ。それと、独特の間。北野武も句点のような間を多用するが、アンダーソンは句読点の間といえばよいか、これが巧まざるユーモアを醸しだす。第71回ヴェネチア国際映画祭で金賞を受賞した異色作である。(健)

原題:En duva satt på en gren och funderade på tillvaron
監督・脚本:ロイ・アンダーソン
撮影:イストバン・ボルバス
出演:ホルガー・アンダーソン、ニルス・ウェストブロム、カルロッタ・ラーソン、ヴィクトル・ギュレンバリ、ロッティ・トーノルス、ヨナス・ゲホルン、オラ・ステンソン