シネマ見どころ

映画のおもしろさを広くみなさんに知って頂き、少しでも多くの方々に映画館へ足を運んで頂こうという趣旨で立ち上げました。

「ゼウスの法廷」(2013年、日本映画)

2014年04月21日 | 映画の感想・批評
 いうまでもなくゼウスとはギリシャ神話に登場する万能の神である。映画では司法の審判者たる裁判官を象徴している。個々の案件をきめ細かく調査・分析することなく、判例主義によって画一的・効率的に判決を出す現行司法制度に鋭く切り込んだ力作である。
 高橋玄監督は、警察を内部告発して行き場を失う末端の警官を描いた「ポチの告白」という3時間あまりに及ぶ問題作があった。社会派のテーマを正面に掲げて正攻法で勝負する人で、たとえば現在公開中の中村義洋監督「白ゆき姫殺人事件」の舌を巻くほどうまい話術の妙には遠く及ばないのだが、ところどころもたつきながらも、ぐっと惹きつけて離さない何かがある。
 しがない食料品店の倅が現行司法に疑問を抱いて勉学に勤しみ司法試験に合格する。裁判官に任官するころにはすっかり牙を抜かれて、上司にも気に入られ、家柄のよい地方の娘(小島聖)と婚約しているという設定だ。これを塩谷瞬が演じていて、役柄がそういうこともあってずいぶん感情のこもらない物言いだなあと思っていたら、クレジット・タイトルで吹替だと知った。撮影中に二股交際のスキャンダルが発覚したこともあり、塩谷のイメージを払拭するために急遽吹替にしたと、ネットで監督が語っていたのには失礼ながら吹き出してしまったが、いや塩谷瞬はよく健闘している。
 ところで、塩谷の婚約者は、かれが多忙にかまけて相手にしないので大学の同窓会で再開した男と浮気を始めるが、過って男を転落死させてしまう。ここまでが少し長いのだけれど、このあとが映画のハイライト。塩谷の上司は裁判所始まって以来の不祥事だと息巻くし、司法を改革しようと退官した先輩判事(野村宏伸)が弁護士を引き受け、対する検事は元の同僚判事という中で、塩谷は自分を裏切った婚約者の法廷で彼女に審判を下す役割を申し出るのだ。
 果たして裁判の行方はどうなるのか。周囲が固唾を呑む中で粛々と審理は進んで行く。 (けん)

監督:高橋玄
脚本:高橋玄
撮影:石倉隆二
出演:小島聖、野村宏伸、塩谷瞬、出光元、宮本大誠


「アナと雪の女王」 (2013年 アメリカ映画)

2014年04月11日 | 映画の感想・批評


 この春最大の話題作。アメリカでは「ライオン・キング」を抜いてディズニー・アニメーション史上NO.1の興行収入を達成。アカデミー賞では長編アニメーション賞と主題歌賞のダブル受賞。日本でももうすぐ興収100億円に届きそうな勢いで大ヒット中だ。(4月11日現在)
 原案はアンデルセンの童話「雪の女王」。心が凍ってしまった少年カイと、彼を救おうとする少女ゲルダの物語だが、このゲルダがアナのモデルとなっている。そして、本作では「雪の女王」をアナの姉とすることで、「家族愛」というテーマが物語の大きな核となっているのが特徴だ。
 このアレンデール王国家姉妹のキャラクターが実に対照的で面白い。姉のエルサは責任感が強く、感情を内に秘めて行動するしっかり者タイプ。対する妹のアナは行動的で感情をオープンに表し、人をすぐに信じてしまうお人よしタイプだ。この二人が反発しながらも固い絆で結ばれ、相手のために自分を犠牲にしようとする姿に心打たれる。ディズニー作品の王道といったところ。
 本作の中心となる舞台は“雪と氷の世界”。様々な表情を持つ雪と氷の姿をアニメーションでこれほどまでに美しく、また冷たく表したのは初めてだろう。まさに「FROZEN」!!特にエルサが自分の感情を解き放ちながら氷の世界を作っていくところは圧巻で、全身が凍りつくような感動を覚えた。
 それにこの作品の最大の魅力は、全編にわたりブロードウェイの舞台を感じさせるミュージカル作品になっていること。主題歌の「Let It Go」をはじめ、とにかく楽曲が素晴らしい。また、吹き替え版で姉妹を演じた、松たか子と神田沙也加の澄み切った歌声にも注目。ゴールデンウィークには日本語吹き替え3D版も登場するそうで、ぜひもう一度見てみたい。
 (HIRO)

監督:クリフ・バック、ジェニファー・リー
脚本:ジェニファー・リー
製作総指揮:ジョン・ラセター
音楽:クリストフ・ベック
声の出演:クリステン・ベル、イディナ・メンゼル、ジョナサン・グロフ(字幕版)
     松たか子、神田沙也加、ピエール・瀧(日本語吹き替え版)

ブログの源となった本 「シネマ見どころ」の紹介

2014年04月08日 | 
 

 当ブログ「シネマ見どころ」は、そもそも1998年1月に朝日新聞滋賀版においてスタートした同名の映画紹介コラムに端を発しています。週1回、映画館で公開中の話題作、問題作、秀作を1本取り上げて執筆者が交替で鑑賞のポイント、見どころを紹介し解説するという連載コラムでした。2001年4月、紙面刷新に伴って舞台を朝日新聞PR紙「あいあいAI滋賀」に移し、同紙が廃刊となる2009年12月までの12年間にわたって読者のみなさんにご愛読いただき連載を続けることができました。途中で執筆者の一部に異動がありましたが、連載終了時の執筆者4名が何か記念をという思いで各自60編ずつ計240編の選りすぐりを1冊にまとめたのが単行本「シネマ見どころ」(2011年8月刊行)です。本文には作品ごとの基本情報及びDVDの有無を記載し、また巻末には読者の利便に供するため題名・人名索引をつけていますので、テレビやDVDでの作品鑑賞において格好のガイド本となること請け合いです。
 ただ、自費出版で刊行したため、一般の書店に置いていません。興味のある方はぜひ下記取扱のお店で手にとっていただき、お買い求めいただければと願っております。頒価は1冊2,000円(消費税はかかりません)です。
 なお、滋賀県下の公立図書館(全館)、京都府立図書館、京都市立図書館(全館)、大阪府立図書館等と滋賀県立高等学校全校の図書室に備置いただいております。
 特にお取り扱いをいただいている映画館は大手シネコンの直営館ではなく、地元資本の映画館ですので、滋賀県下の映画ファンの皆さんは映画を見るならぜひ下記の劇場をごひいきいただきますようお願いします。

【お取扱店】
大津市・大津アレックスシネマ
甲賀市・水口アレックスシネマ
彦根市・彦根ビバシティシネマ
米原市・ジョーヌ・ブラン(おいしいパン屋さん)
長浜市・文泉堂書店(庭が美しい、長浜一の老舗書店)、
    パティスリー・ル・ミエル(おいしいケーキ屋さん)
    ビビ・キャラ(カットが上手い、映画好きチーフのいる美容室)

*この本の購入につきまして、詳しくは hiroshigeking19541@yahoo.co.jp までご連絡ください。郵送も可能です。

ワンチャンス(2013年イギリス映画)

2014年04月01日 | 映画の感想・批評
 4,5年前に日本でも話題になったスーザン・ボイルという女性を覚えているだろうか。見かけはぱっとしないが、彼女が歌いだすとその美しい歌声に聴衆はうっとりと魅了された。そんな彼女が登場し注目されたのが、イギリスのオーデション番組「ブリテンズ・ゴット・タレント」だ。
 本作の主人公ポール・ポッツもまた、その番組から生まれたオペラ歌手である。予告編を見た時、ポール・ポッツが実在のオペラ歌手とは知らなかったので、てっきりスーザン・ボイルからヒントを得て製作されたフィクションかと思った。歌い出すまでのシャイで自信のなさそうな雰囲気が似ていた。
 子どものころからいじめられっ子、今は冴えないケータイ販売員のポールだが、いざという時には彼を応援してくれる人たちがいた。息子のオペラ好きを認めない鋳鉄労働者の父親とは対照的に、ポールに協力的な母親。メル友だったジュルズに、ポールの代わりに勝手にデートの約束を送信する販売店のボス。ヴェネチアのオペラ学校で学びたいというポールの夢を後押ししてくれたジュルズ。
 しかし、ポールはヴェネチアで憧れのパヴァロッティの前で歌う機会を得たが、「君はオペラ歌手には向いていない」と言われすっかり自信をなくして帰郷。「オペラ歌手になりたい」という夢を実現できず、このままただの「オペラ好き」に終わるのかと思われたポールに、人生最大のチャンスが訪れる。「ブリテンズ・ゴット・タレント」に出場が決まったのだ。
 ポールが出場応募に躊躇した時、舞台そででパヴァロッティの言葉を思い出し怖気づいた時、彼を励まし勇気づけてくれたのは妻のジュルズだった。ポール・ポッツの現在の活躍は、本人の才能はもちろんだが、愛する人の才能を信じ、躊躇っている時には実力を発揮できるよう背中を押してくれる人たちがいたからこそである。映画の中でポールが歌う楽曲の吹き替えを本人が行っているのも嬉しい。(久)

原題:One Chance
監督:デヴィット・フランケル
脚本:ジャスティン・ザッカム
撮影:フロリアン・バルハウス
出演:ジェームズ・コーデン、アレクサンドラ・ローチ、ジュリー・ウォルターズ、コルム・ミーニー