サバニを引き継ぐ者たち

2006年10月15日 | 風の旅人日乗
10月15日

さらに引き続き、KAZI(舵)2003年9月号に掲載された、沖縄の伝統帆装船・サバニ「海の系図を求めて」から。
(text by Compass3号)

沖縄の伝統帆装船・サバニ
 「海の系図を求めて」

(昨晩からの続き)

サバニを引き継ぐ者たち

精神的略奪に耐えて残した海の文化

沖縄の人たちは、本土政府から自分たちの文化を奪われ続けてきた。明治時代が始まった頃、沖縄の人たちは自分たちの民族衣装を着ることを禁止された。第2次世界大戦が始まると、本土政府は沖縄人が土地の言葉を使って会話することを禁止した。土地の言葉を使って会話している者を敵国スパイとみなすというのだ。それ以前の時代には一切の武器を持つことも禁止された。沖縄で空手が生まれた理由である。
自分たちの言葉を奪われる悲しみはどんなだっただろうか。「基礎施設」という分かりやすい言葉があるのに「インフラ」といい、「協力」「共同作業」という美しい響きの自国語を持っているのにわざわざ「コラボレーション」とオチョボ口で言う現代の日本人には、到底理解できない悲しみだったことだろう。
そんな圧政の中で、沖縄の人たちは自分たち独自の船を守ってきた。帆かけサバニである。帆かけサバニは、沖縄の人たちが辛うじて守ることができた数少ない文化のひとつである。鎖国政策を敷いた徳川幕府によって日本全国で徹底された船の構造制限の影響も受けたし、なぜか沖縄だけは鉄釘を使えないという制限も受けた。しかしそれらの制限の中で、彼らはサバニ文化を発展させ続けた。鉄釘ではなく、木の釘(フンドー)と竹釘(タケフズ)で船板を強固に合わせるサバニ構造を編み出した。それは他地域の和船に比べて驚異的に長い寿命をサバニに与えることになった。
現在は杉材を組み合わせて造られているサバニだが、僅か二百数十年前までは、大木を刳り抜いて造るサバニが主流だった。丸木舟の時代を持つということは、サバニはその血統をさらに過去にまで遡っていくことができる舟だということを意味する。日本は、実は世界最古の造船用工具・丸ノミ形石斧を出土している国である。鹿児島県加世田市の栫ノ原(かこいのはら)遺跡から出てきた一万二千年前の石斧である。木を刳り抜いて舟を造る道具である。世界最古の造船工具が出てきたということはつまり、九州地方には世界最古の舟があった、ということになるのである。我々の祖先は、この地球という天体の海に初めて舟を浮かべた生物なのかも知れないのである。そして、現在我々が実際に見て触れることができるサバニは、その一万二千年前の世界最古の丸木舟の、直系の子孫なのかも知れないのだ。
近世の圧政の中にあっても、自分たちの文化を守るという頑固さを持ち続けた沖縄人の矜持こそが、サバニという舟を現代に伝えることを可能にしてくれたのだ。

(続く)