過去を知り、未来を思う

2006年10月14日 | 風の旅人日乗
10月14日

昨晩から引き続き、KAZI(舵)2003年9月号に掲載された、沖縄の伝統帆装船・サバニ「海の系図を求めて」から。
(text by Compass3号)

沖縄の伝統帆装船・サバニ
 「海の系図を求めて」

文 西村一広
text by Kazuhiro Nishimura

(昨晩からの続き)

過去を知り、未来を思う

翌々日、台風6号のために欠航していた座間味行きフェリーの運航再開第1便に乗って、1年ぶりの座間味へと向かう。前日にハワイから沖縄入りしたナイノア・トンプソン、荒木をはじめとするアウトリガーカヌー・クラブの若者たちから成る我ら「まいふなーチーム」がこのフェリーの上で揃い、ナイノアがハワイから持参した海図でレースで走る実際のコースを確認しながら、座間味島への航海を楽しむ。
ナイノア・トンプソンについては、龍村仁監督の映画「ガイアシンフォニー」や星川淳氏著の「星の航海師」などによって知っている人も多いことだろう。ナイノア・トンプソンは、祖先から伝承された古代航法だけを頼りに、いかなる航海用具も用いず、太平洋を自在に行き来する能力を持ったナヴィゲーターである。ナイノアはその古代航法によって、ハワイからタヒチ、イースター島、トンガ、ニュージーランドに至る太平洋を、古代セーリングカヌーを復元した〈ホクレア〉で何度も航海してきた。それらの航海を通じて、ナイノアは、ポリネシア文化圏のすぐ近くに浮かぶ日本という国、人、文化に強い何かを感じている。言葉にはあえて出さないが、彼は、自分たちポリネシア人の故郷が実は日本なのではないかと強く感じているフシがある。だからこそ、サバニという舟、その文化全体にも深い敬意を抱いている。それが、沖縄を訪れてこのサバニ帆漕レースに参加したいと彼が強く願った理由なのである。
同じフェリーの貨物デッキには、今回のサバニレースに参加する大小、新旧、様々なサバニが載せられて、座間味島に向かっている。ほとんどが沖縄各島から集められた船齢数十年のサバニたちだが、今年は新艇の数も増えてきた。古いサバニを保存するだけでなく、伝統工法に則った新しいサバニを作ることで、サバニ造船技術も保存することに協力したいと考える船主が現われるようになったのだ。
来る度にその海の美しさに圧倒される座間味島では、今回のサバニ帆漕レースに参加するチームが楽しそうに準備をしていた。年に一度のこの催しを心待ちにしていた現代のうみんちゅたちだ。今年、第4回サバニ帆漕レースにエントリーしたのは34隻。スタート前日、真っ白い砂浜が続く古座間味浜の沖では、レース中の西洋型ヨットと交錯するようにしてサバニたちがセーリングしている。濃淡の茶色に染められたサバニのセールが、強い光が溢れる青い海の色彩の中で、柔らかく目を癒す。世界のどこに行っても見ることができない、日本オリジナルの光景が目の前に広がっていた。
このサバニ帆漕レースの意義は、少なくとも今のところはまだフィニッシュラインでの勝敗ではないと思う。自分たちの祖先が乗っていた帆掛け舟を蘇らせ、水に浮かべ、皆が揃って座間味から那覇までの海を走ること。先人達が大海を渡るのに使っていたのと同じ形の舟が語りかけてくるものを身体で感じ取りながら海を渡ること。それをより多くの人たちが体験すること。これらのことが今は重要なのだと思う。それによって、未来に繋がるものも見えてくるようになるのだろう。
座間味から那覇まで約18マイルの航海は、今年もあっという間に終わってしまった。もっともっと乗っていたかった。また一年待たなければいけない。

(続く)