サバニが沖縄にもたらしたもの

2006年10月17日 | 風の旅人日乗
10月17日

今晩で、KAZI(舵)2003年9月号に掲載された、沖縄の伝統帆装船・サバニ「海の系図を求めて」の最終回。
読み終わったら、ゆっくり瞳を閉じて、沖縄・慶良間で帆漕するサバニをイメージしてみてください。
(text by Compass3号)

(昨晩からの続き)

サバニが沖縄にもたらしたもの

横山晃が船型を分析したのは糸満のサバニだが、サバニは、糸満、宮古水域、八重山水域では、それぞれ船型が微妙に異なる。しかも地域による違いだけではなく、舟大工一人一人が、敢えて他人に迎合しない、自分自身の形を持っていたと言われる。
宮古の池間島出身で、現在は石垣島でサバニを造っている船大工・新城康弘は、サバニの船首部船底の膨らみについて、横山とは別の理論で説明している。「この船底の膨らみはサバニが風に流されるのを防ぎ、また波を切り開く役目を果す」。
新城が造ったサバニの船底は、前部の比較的エッジの立ったV~Uシェイプから後半部のフラットなシェイプへとなだらかに変化していく。前半部の形でアップウインドを効率良く走り、後半部のフラットな部分でダウンウインドをパワフルに走る、最近のレーシング・ヨットと似た考え方だ。いや、最近のレーシング・ヨットのほうが、数十年前から造られている新城のサバニを真似たことになる。これに似た局面構成の船底を最近どこかで見たなあ、と記憶をたどったら、それは今年の第31回アメリカズカップ予選2位になったオラクル〈USA‐76〉だった。タッキングしない限り、上りもダウンウインドも今回の挑戦者のなかでダントツに速かったボートだ。
新城にサバニを造ってもらったある船主によると、そのサバニは他のどのサバニよりも長く波に乗ることができ、どんなに時化ても船首が波に沈むことなく常に波を切り続けるのだという。新城は、自分の技術を残すサバニを、自分の体力が続くうちにもっともっとたくさん造りたいと望んでいる。
現代の糸満うみんちゅたちも、「サバニにもいろいろあるけど、糸満のサバニこそが本筋なんだ」という気概を持っている。"これが本物の糸満サバニだ"と誇れる新艇を自分たちで造ろうという気運が、最近糸満の漁師を中心に盛り上がっているらしい。こういった動きやサバニ帆漕レースの人気ぶりを観察していると、サバニは、サバニという文化だけにとどまらず、沖縄人の誇りそのものを思い出すキーワードになったように見える。

今、沖縄でサバニをきっかけにして起きているようなことが起爆剤になって、自分たちの海文化を思い出し、見直し、復活させ、自分たちの誇りを取り戻すことに繋がる活動が日本全国に広がっていけば、すでに化石になりつつある日本の海文化の未来も少しは明るくなると思う。自分が生きている世界を、経済という側面だけしか知らないで死んでいくのは、淋しいことだよなあ。(文中敬称略)

参考資料
素晴らしき哉「サバニ」 横山晃 舵誌1976年11月号~1977年1月号
潮を開く舟サバニ -舟大工・新城康弘の世界 安本千夏 南山舎