25日夜、松本まで車を飛ばし「中小企業振興条例で地域をつくる-地域内再投資が地域を元気にする」という勉強会に参加しました。講師は京都大学の岡田知弘教授、主催は松本選出の県会議員さん。先日参加した自治体セミナーで開催されることを知り、同僚議員と二人で参加したものです。会場はほぼ満員状態でした。お話しの内容はまさに目からウロコでした。
かつての地方における産業政策は大規模公共工事による地域の活性化でした。これが十分機能しなかったことはこれまでの歴史が物語っています。長野県においてはバブル崩壊後、他地域が経済困窮に苦悩していた頃長野オリンピック特需に沸き経済は大きく盛り上がっていました。しかしその繁栄はオリンピック終了後急速に落込み深刻な経済危機をもたらしました。結局潤ったのは大手ゼネコンで地域には借金だけが残されました。東京一極集中の経済構造の中では、地方の投資はその大多数が中央に吸い上げられ、地方の活性化に寄与しないのです。
一方中央からの工場誘致も地域活性化にとって必ずしも有効ではありません。かつて三重県亀山市と三重県は、百数十億円もの多額の税金をかけてあのシャープの液晶工場を誘致しました。当時成功事例として報道されました。当時私が勤務していたシンクタンクでも高く評価していました。
ところが現実はそんなに甘いものではありませんでした。地域における雇用増大を期待したのですが、実際に行われたのは派遣労働者の全国からの調達でした。部品や資材など日常的な物品購入はその多くが中央でまかなわれ、地域経済への貢献度はごくわずかでした。そのあげく2009年にはシャープは撤退、中国系企業への転売が行なわれたそうです。経済のグローバル化の中で企業は世界を視野に展開し、地域への視点は失われています。
大規模公共事業と工場誘致という二つの産業政策がうまく行かないという実態があります。こうした中で岡田教授は企業進出や重要プロジェクト誘致は地域の活性化につながらないと述べています。
これまでの地域開発政策の考え方は「トリクルダウン」(滴り落ち)理論、すなわち大企業が潤えばその分け前が地元にも還元されるというものでした。ところが大型公共工事は地域経済への波及効果が少ないうえ、地域には借金が残されます。企業誘致も利益は本社に移転し地域に再投資されず、立地・撤退のサイクルの短縮化、産業の空洞化の中で工場立地も激減、たとえ成功したとしても非正規労働者や請負労働者が大多数で地域経済への波及効果にも限界があります。
こうした中で岡田教授が指摘するのは地域発展の決定的要素とは「地域内再投資力」だといいます。地域の中にある経済主体(企業・商店・農家・JA・NPO、自治体など)が毎年、地域に再投資を繰り返すことでそこに仕事と所得が生まれ、生活を維持・拡大されるのです。こうした再投資の規模や量、個性的な産業や企業、その地域の景観づくりなどの質をいかに高めるかが重要だというのです。
地域産業の維持・拡大を通して住民一人ひとりの生活の営みや自治体の税源が保証されるのです。地域内の再生産の維持・拡大は生活・景観・街並みの再生産につながるとともに、農林水産業の営みは自然環境の再生産、国土の保全にも寄与します。最終目標は「一人ひとりが輝く地域」(高橋彦芳 長野県栄村前村長)です。
こうした政策を実現するためには地方自治体の産業政策を住民生活の向上に直接つながるものにする必要があります。そして地域内再投資力を高めることが決定的に重要だと指摘します。具体的には①地域の個性の再発見、②自治体による個別経営体、協同組合への支援と再投資力の形成、③自治体を通した仕事・雇用創出、④地域金融機関との連携、⑤大企業への地域貢献への要請、⑥適正価格での公共調達、などをあげています。
確かに地域貢献という視点で見たとき、地域の商店街や中小企業の果たしている役割にはきわめて大きなものがあります。こうした地域産業を支える取り組みが求められていると感じます。
帰宅は深夜になりましたが得ることの多かった勉強会でした。