忘れもしない、旧暦12月17日大潮、大寒の月齢0
もう何年経つだろう。
俺は帝王アラをやっていたが相変わらずのアタリもなく餌となる烏賊を脇で釣っていた。
しかしこの夜は全くの何もかもが反応がない。
遠くに灯台の赤い光が靄の中にかすかに見える。
吐く息が白く、悴んだ手で携帯を手に取った。
2件の同じ番号からの番号メール、深夜だったが間違いのおせっかいメールを返信。
間違いだったとすぐに気づいたらしく謝りメールが入ってきて終わり。
それが初めての彼女との出会い?だった。
それから数週たち、俺はその事などすっかり忘れていた。
また同じ場所へ、アラを狙いに上磯に上がっていたが相変わらずの冷え込み。
活性はあるものの10キロクラスのトウヘイに悩まされて格闘。
餌となる烏賊もマズマズ上がっている。
今夜、帝王アラの予感で鼓動が高鳴る・・・。
胸に入れていた携帯の着信音が闇夜に響く。
慌てて見ると、とっさに思い出したが、前にメールが来た番号からだった。
内容は何か知らないがイザコザのような内容。
何故、俺に間違って入れてくるか不思議だったのだがお節介にまた間違ってメールを返信。
その後、何故かスイマセンから始まり数回やり取りをしていた。
半信半疑なのだが新手の勧誘か何かか?と思ってはいたが何故か妙に引かれるものがある。
結局、その日はアラのアタリは無し、迎えに来た船長にどうだったかと聞かれ実際、集中していない俺はダメだったとしか言いようがなかった。
次の日、連日また俺は瀬にあがっていたのだが何故か携帯ばかり気にしている自分がいる。
当然、入ってくるはずも無いメールを待ち。
白い吐く息の先には蛍光ケミの穂先がプルンと震え、一気に海面へと穂先が突っ込んだ!
気を抜いていた俺は完全にノサれているロッドを起こしにかかるがラインがペンのリールに食い込みドラグも役に立たない。
一瞬で80号ラインをぶち切っていかれた。
興奮と震える手と体から湯気が立つほど一瞬の格闘だったが武者震いが止らない。
我に返り仕掛けを作り直そうとした時に着信が鳴り響く。
彼女からだったのだが俺は待っていたというよりも誰かに今の興奮を伝えたく、相手が誰とも分からず伝えた。
多分、相手にはチンプンカンプンだったと思う。
しかし、文章で女としか分からない相手に良かったねと返事がきて嬉しく思ったのは正直な気持ちだった。
警戒心があった俺は自分から自分のことを書き始め、また相手も教え始めてくれた。
ナンと反対側に見える島の人。
引かれる自分がいる・・・。
それから、ほぼ毎日やり取りするようになりお互い会ってみたいという事となった。
数日が立ち、実際待ち合わせをした彼女を初めてみたが前から知っているような感じで直に、意気投合した。
もう何回もこの島は渡しで訪れているのだが初めて陸地に上がったのだ。
島のレンタを借り彼女を乗せ海岸沿いを走らせる。
コバルトブルーの海が初めてあった俺達を引き付けてくれ溶け込む。
俺は聞いてみた、何故また返事をくれたのかと。
彼女自身も分からないみたいだったが、まぁいいかと思い妙に高鳴る鼓動を感じていた。
しばらくすると彼女が少しずつ話始めた。
恋愛相談なようなものだったが結末を迎えていた彼女には「そうか」としか言えない。
高台より海を眺めていると、いい潮が通している。
話をそらすように、「よか潮やな~」とつぶやいたら覗き込んできた彼女の顔には不思議そうな顔で笑っていた。
車を止め、夕日を眺めている彼女の背中には何ともいえない寂しさが伝わり、俺は自然と手を握って沈む陽を彼女が動くまで黙っていた。
夜空には多くの星よりも、大きく赤い月が俺達を吸い込んでいく。
満月の赤月は最初で最後かもしれない。
またいつ来るか約束もせず、島を後にしたがその後しばらく連絡が途絶えていた。
連絡を再度したのは俺の方からだった。
少し暗い感じだった彼女の声に動揺が戸惑う。
約束をした日に行くと彼女は待っていた。
また、海岸沿いを添うように歩き彼女の話を聞いた。
事情は聞いたが迷っている彼女を今思えば、俺はかっさらっていく勇気がなかっただけなのかも知れない。
「ありがとうね」と最後の言葉だったが、帰りの船の中でこっちをずっと見ている彼女の姿を見たら熱いものが込上げ下を向く俺がいた。
彼女とはそれが最後だった。
あの島で20オーバーが上がったと聞いた。
また闘志に火が付く!
出会いと別れ、ノンフィクション人生の1ページ。
赤い月より