やっぱりケン・ローチはいい!
「わたしは、ダニエル・ブレイク」79点★★★★
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イギリスのある小さな町。
59歳の大工・ダニエル(デイヴ・ジョーンズ)は
仕事中に心臓発作を起こし、
医者から仕事を止められている。
国から雇用支援手当を受けていたが
新年度の面接で、なんと「就労可能、手当中止」とされてしまった。
「仕事ができないのに、これでは収入が途絶えてしまう!」と
役所に掛け合いに行ったものの
たらい回し&複雑な手続きに、あ然。
そんなとき彼は
子どもを連れて苦境に立たされている
シングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)に出会う――。
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常に市井の立場で時代を斬り、弱者に寄り添い、
静かに強く発言する巨匠ケン・ローチ監督。
前作「ジミー、野を駆ける伝説」での引退宣言を撤回して
「まだ、描かなきゃいけない物語がある!」と作ってくれた80歳に、最大の敬意を表します。
今回は切り捨てられていく弱者と、
“現代の見えにくい貧困”がテーマ。
国を超えて、これだけ共感できることが
ホント怖いっていうか、悲しいっていうか
胸に突き刺さります。
まず、今回はいつもよりも
語り口が優しい。
主人公ダニエルは
病気なのに「手当を打ち切る」と一方的な国のやり口に納得いかず
役所に文句を言いに行き、
そこで出会った、自分よりもより困難そうな
若きシングルマザーのケイティに、思わず手を差し伸べるんです。
ダニエルとケイティの子どもたちとの
やりとりもあったかいし
ダニエルのアパートの隣人の若者たちが
見た目、めちゃくちゃワルそうなのに
すっげ気のいい奴らだったり
なんだか、泣けてくるほど、優しい。
しかし。そんな環境にあっても
ダニエルもケイティも
いざというときの助けを求めることが、なかなかできないんですよ。
なぜならば、
人間は尊厳ある生き物だから。
お役所で唯一、ダニエルに人間らしい対応をしてくれる女性が
「正直でまっとうな人がホームレスになるのを何度も見てきたわ」というように
いま「人に迷惑はかけられない」という人たちが
理不尽に苦しめられている。
だからこそ、この世界は真綿で首を絞めるように、
見えにくい貧困や辛さに覆われているのだと
胸が締め付けられるような気持ちになりました。
冒頭、ケイティの家のそばをうろつく三本足の野良犬のように、
この映画は、優しいけど、甘くない。
でも、
だからこそ、そこからの展開が
リアルな希望をもたらしてくれるんだと思います。
監督には、これからも
拳を掲げ続けてほしい。
それを見て、勇気づけられ
続く人が、必ずいますから!
★3/18(土)からヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
「わたしは、ダニエル・ブレイク」公式サイト