ぽつお番長の映画日記

映画ライター中村千晶(ぽつお)のショートコラム

祝福~オラとニコデムの家~

2018-06-23 17:55:04 | さ行


「万引き家族」ともリンクする
響く! ドキュメンタリー。


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「祝福~オラとニコデムの家~」79点★★★★


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これは……心にカーン!と響くドキュメンタリー。

昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭で大賞受賞ほか

各国の映画祭を席巻したというのも納得です。

 

 

主人公はポーランド・ワルシャワ郊外の街で、弟と父と暮らす

14歳の少女オラ。


弟のニコデムは自閉症で、父親はアルコール依存症。

母親は家を出ていて、別の男性と暮らし、どうやら赤ん坊がいるらしく

オラたち姉弟のことはおざなりだ。



なのでオラは学校に行きながら

弟の勉強をみてやり、父親の世話をし、家事もして

一人でがんばっている。

 

オラはカトリックで重要な儀式である聖体拝領を

ニコデムに受けさせようとしていて

一生懸命、その練習させるけれど、ニコデムはなかなか憶えられない。

 

オラは母親に戻ってきてほしいと願っているけれど

なかなかうまくいかない。

 


そんな彼女の日々を

カメラは、まるでそこにいないように、淡々と映し出すんです。


「え?これホントにドキュメンタリーなの?」

「どうやって撮ったの?」と驚くし、

しかもそのカメラの前で、次々とドラマが起こるのがすごい。

(特に母親の、あの展開ったら、もう……!

 

でも、何が起ころうとも、映画は何も声高にはせず、

世界の片隅にいる姉弟を、静かに見つめるだけ。

オラのいら立ちにも、献身にも、無言。

 

その様が、さまざまを背負い

まさに“淵に立つ”な少女の心に観客をダイブさせる。

で、いろいろを考えさせるんです。

 

 


それにこの姉弟は

環境には恵まれなかったけれど、ルックスには恵まれた(笑)。


無邪気な弟ニコデムはギュッとしてあげたくなるほど愛らしいし

(彼が発する言葉は、詩人のようだ!)

オラもすごくキュートな少女なんですよ。



でも、その表情は常に「への字口」の困り顔で、

まるで、さまざまな厄介事が重力となり

彼女を下から引っ張っているようで、胸が痛みます。




散らかった家の中にイラつくオラの姿にも、

「この状況をなんとかしたい!」という気持ちが表れている。

その様子は、昨年のベスト入りドキュメンタリー「トトとふたりの姉」を思い出させたし、

是枝監督の「万引き家族」にもリンクしている。


オラとニコデムに、平和と安息は訪れるのか?

ぜひ、ご覧になっていただればと思います!

 

そしてそして

おなじみ「AERA」にてアンナ・ザメツカ監督に

インタビューさせていただきました~。

美人!(笑)そして

「『万引き家族』はまだ観ていないけど『誰も知らない』は好きで参考にしたわ」と

おっしゃっていました。

 

AERAの記事は「子どもの視点から、社会をみる」テーマで

掲載はまだ少し先、7月になりますが

ぜひ、映画と併せて、ご覧いただければと思います~




★6/23(土)からユーロスペースほか全国順次公開。

「祝福~オラとニコデムの家~」公式サイト

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女と男の観覧車

2018-06-23 01:38:38 | あ行

 

ウディ・アレン監督の新作です。

 

「男と女の観覧車」68点★★★☆

 

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1950年代のコニーアイランド。

 

遊園地のレストランで働くジニー(ケイト・ウィンスレット)は

夫(ジム・ベルーシ)と、再婚同士で一緒になった。

 

冴えない仕事、冴えない人生に、内心悶々としている彼女の前に

思いがけない客が現れる。

 

それは夫の娘キャロライナ(ジュノー・テンプル)。

20歳でイタリア人ギャングと結婚した彼女は

しかしいま、ダンナから命を狙われているという。

 

不安になるジニーには、もうひとつ、不安要素があった。

彼女はビーチで監視員のバイトをしている大学生(ジャスティン・ティンバーレイク)と

不倫関係にあったのだ。

 

そしてある日、彼らのあやういバランスが

壊れる出来事が起こり――?!

 

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82歳のウディ・アレン監督の最新作です。

 

 このところ

セクハラ問題が大きく取りざたされたりして

(正直、いまさら?と思ってしまうんだけど)

 

作品とは関係ないとわかっちゃいるんですが、

御大、さすがにお疲れなのかなあと、感じてしまいました。

 

冒頭にある「これ、メロドラマだよ」との断り通り、

本当にけっこうベタなメロドラマなんですよ(笑)

 

 

1950年代のコニー・アイランドの遊園地を再現した舞台装置は素敵で

美術も音楽も完ぺきに甘いのに、

 

なんだか主演のケイト・ウィンスレットに

監督の愛情があまり感じられない。

ちょっと気の毒。

 

大仰に悲劇のヒロインぶる彼女は

自分の人生に満足出来ず、他力本願でそれを他者(=男)に求め、

あげく不倫をし、不幸になるという女。

 

この無限ループは古来からあるモチーフだけど

それを御大が描くと

なにかの呪いのように、その不毛さが暗~くあとを引くんですよね。

この"毒"加減が、さすがだなあと思うのですが

 

ご自身の人生の陰に、やはり関係あるのだろうか……と。

ああ、また最初に戻ってしまった!

 

★6/23(土)から丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国で公開。

「女と男の観覧車」公式サイト

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