きれいごとじゃない世界を、見ることの意味。
「岬の兄妹」70点★★★★
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海辺のあばら家に二人きりで暮らす
兄・良夫(松浦祐也)と、妹の真理子(和田光沙)。
自閉症の真理子はたびたび家を抜けだし、
そのたびに良夫は足をひきずりながら、町中を探し回っていた。
ある日、真理子は若い男に保護され、良夫のもとに帰ってきた。
「海鮮丼をおごってもらった」と、無邪気でご機嫌な真理子。
良夫は男に感謝するが、男はそそくさと立ち去っていった。
家に帰った良夫は
真理子のポケットに1万円札が入っていることに気づく。
「真理子、お前、何してたんだ?」
翌朝、良夫は真理子を家に閉じ込めて仕事に行くが
勤め先の造船所では、リストラがはじまっていた――。
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ポン・ジュノ監督や山下敦弘監督のもとで
研鑽を積んだ1981年生まれ、片山慎三監督のデビュー作です。
海辺のあばら家に暮らす、
障がいを持つ兄と妹。
貧困と困難の只中にあっても、助けの手も届かず
底辺を這いずるような二人の暮らし、そこで起こることは
きれいごとじゃない。
実際、モデルとなった事件もあるそうで
直視するのがキツいと思う人もいるかもしれないけど、
なんというんだろう
この映画が醸すのはそこまでの、どぎつい、真っ黒さではないんですよね。
闇社会を描く、とかではなく
悲惨な状況に、現実と地続きゆえの、人肌の“ぬくさ”があって
そこが興味深かった。
それは
自閉症の真理子の無邪気なふるまいや、
兄・良夫と、唯一の友人で警察官の肇(はじめ)くんの
やりとりのちぐはぐさや、
良夫のキャラに、どうにも間の抜けたところがあったりするところにも現れているし
絶対のピンチでの、良夫の仰天の反撃法に
度肝を抜かれつつ、ちょっと笑ってしまったり。
しかし、そんななかでもやっぱり、
兄妹に安易な救いは起こらない。
その冷徹は、実に効いてると感じました。
いまの世に、この作品が突きつけるもの。
考えさせられます。
★3/1(金)から全国で公開。